第4話『迷宮の謎』
「開いたな」
完全に開き切った扉を見た俺はそう呟いた。
「すごーい!綺麗!」
視線を横に移すと既に指輪を指に嵌めたマリーが、指を広げたり手を上げたりしながら指輪に魅入っていた。
幻想級アイテムだぞ?
躊躇いとか無いのか?
「デュークも早くつけなさいよ!」
「お、おう」
恐る恐る親指と人差し指の指先で指輪を摘む。
落としたところであ『破壊不能:Lv--』というスキルがあるから壊れないだろう。
だが落としでもしたら俺の精神が破壊しそうだ。
「……なんなのよ。その汚物を摘むみたいな持ち方は」
「し、仕方ないだろ!」
俺はお前とは身分が違うんだ。幻想級のアイテムなんて中々身につける機会ないんだよ。
気を取り直して、震える手を落ち着かせながら右手中指にそっと、ゆっくりと、優しく指輪を入れていく。
『《経験値大幅上昇の指輪》の装備を確認しました』
「うっほぉ……」
脳内に装備を確認したというアナウンスが流れ込む。
……ちょっと変な声が出てしまった。
ステータスを見ると確かに«経験値大幅上昇の指輪»が追加されていた。
【ステータス】
«デューク・ゼノ・アルス・ライザーク»
Lv:71(Next EXP:6600)
HP:41/766
MP:92/150
持久:290/290
攻撃:428+1000
防御:290+50
魔法:61
精神:800
俊敏:842-16
«スキル»
『剣術:Lv43』『極剣流剣術:Lv12』『縮地:Lv31』『時空魔法:Lv3』
«装備»
《聖剣ライザーク》《天翔のブーツ》《鋼蚕繭のズボン・黒》《鋼蚕繭のカットソー・黒》《鋼蚕繭のコート・藍》《収納袋》《水創袋》《経験値大幅上昇の指輪》
おいおいおい!
ステータス見てなかったから仕方ないとはいえHP2桁台入っちゃってるよ!
このままじゃ遠からず死んじゃうよ!
「マリー、回復魔法を頼む。俺、死んじゃう」
「……はぁ、綺麗」
「マ、マルィィイ!!」
その後、指輪に魅了されたマリーをなんとか現実に連れ戻して回復魔法を掛けてもらった。
指輪をつけ宝箱も念の為回収して、ステータス確認、おーけー。装備確認、おーけー。忘れ物なし、耐熱魔法、多分おーけー。
さぁ出発だ。
少し体は重くてだるいが、俺の探究心の前ではそんなの些細なことだ。
「いくぞ!」
「うん!」
そして俺達は、まだ誰も足を踏み入れていない未踏の地への第一歩を踏み出した。
ボス部屋を抜けて少し進むと、これまで同様赤い土でできた、ただひたすら真っ直ぐ続く下り階段があった。
マリーは足取り軽く、階段を下っていく。
ステップを踏む姿は、どこか楽しげだ。
その後ろを見守るようについて行き俺も下っていった。
「まだそんなところにいるの?はやく降りてきなよ!凄いよ!」
先に下り切ったマリーが、未だ半分くらいしか進んでいない俺を大声で急かしてくる。
全く、はしゃぎすぎなんだよ。危機感をもっと持てってな。
「すぐいくよ」
適当に返事をしてペースを変えずに歩いていたら、次第にマリーの、俺に対する表情が冷めたものへと変わりだしたので1段飛ばしで一気に下る。
そんな大したことないだろうに。
だってここ迷宮だぜ?辛気臭い洞窟かなんかに決まっ――
「な、なんだこれー!」
「ほら!言った通りじゃない」
これは……。迷宮にはこんな場所があるのか。
さすが迷宮、なんでもありだな。
先程とは比べ物にならないほど赤みの増した地面に、高い天井。
何より目を惹かれるのは天井のところどころから真っ直ぐドロドロと落ちる赤い何か、これはおそらくマグマだろう。
どうしてマグマと判断できたのかって?
それは落ちた先を見たらグツグツ煮えていたからだ。耐熱魔法がかけられているにも関わらず熱気を感じる。
マグマが落ちた先は海になっていたり、斜面であれば川になっていたり。非常に面白い光景が広がっている。
少しでも足を入れたら大変なことになりそうだ。
「うわっと!」
「わっ!」
壮観な全てが赤い景色を眺めていたら突如地震が起きた。
立っていられないほどの、とまではいかないが、それでも結構大きな地震だ。
地震が起きるのと同時、マグマから何かが飛び出して真っ赤な地面、俺達の正面に着地した。地面がジューっという音と共に煙をあげる。
あのマグマの中に魔物が生息しているのか。
一体どうなってんだ。本当にここは迷宮か?それとも迷宮だからこそできる芸当なのか?
「マリー、鑑定を」
「もう終わったわ。ほら」
は、早すぎる!
さすが俺の相棒だ。
【ステータス】
《イグニカルパ》
Lv:83
HP:1240/1240
MP:255/255
持久:114/114
攻撃:350
防御:212
魔法:276
精神:200
俊敏:188
«スキル»
『火炎玉:Lv7』『マグマ泳ぎ:Lv7』『マグマビーム:Lv10』『再生:Lv3』
«装備»
《なし》
なんてことだ。
またしても俺より格上の相手じゃないか。
正直に言うと、もう嫌だね。戦いたくない。
俺は俺より弱いと確信できる魔物をタコ殴りにするのが好きなのに……。
どうしてこうなった。
ナマズのような見た目と硬そうな赤い鱗が特徴的な、腹から生えた2本の足で直立する今までに見たことない外見だ。
口から短く鋭い牙を覗かせながら、ギョロ目で俺とマリーを交互に見ている。
……気持ち悪いな。
見てると段々ムカついてきた。
よし、どっちみち倒さないと先には勧めないんだ。ならば覚悟を決めよう。
「格上上等、殺ってやるぜ!」
俺は右手で聖剣を引き抜き、走り出す。
なんの前触れもなく急に出てきた俺に焦ったイグニカルパとかいう謎の生命体は、口を開いて火の玉を吐いてきた。
『火炎玉:Lv7』とかいうスキルだろう。
速さも精度も、なにもかもがさっき戦ったドラゴンよりも劣っている。これを避けるくらいどうってことない、余裕だ。
軽く躱した俺は、限りなく接近して聖剣を振るう。
聖剣は鱗に弾かれること無く、あっさりと胴体を切り裂いた。
硬そうなのは見た目だけか。
イグニカルパが突然の攻撃による痛みで怯んだ隙に、聖剣を振るった勢いを活かしてそのまま首を跳ねた。
地面に首が落ちるのとほぼ同時、イグニカルパは光の粒子となり四散した。
それを確認してから聖剣を鞘に仕舞う。
この仕舞う時のカチャンって音が好きなんだよなー。
たまらん!
『経験値24000+初撃破ボーナス24000を獲得しました』
『レベルが72に上がりました』
『レベルが73に上がりました』
『レベルが74に上がりました』
……ドラゴン並の経験値を貰ってしまった。
あの苦労はなんだったんだ。
「す、すごい経験値ね……」
「びっくりだよ。指輪効果すげーな」
後にはドロップアイテムが散らばったが、これは流石にドラゴンのように大量ではない。それでも多い方だけど。
「ん?これは」
ドロップアイテムを拾い漁っていると、その中に珍しいものを発見した。
《迷宮内部記憶地図:L》
迷宮内部で直接触れて魔力を流すと半径10メルを1000分の1の大きさで映し出し記憶する。
これは自動で迷宮内の地図を作成していくという優れものだ。
今は畳み込まれてコンパクトだが、広げると1メルもある。
このサイズだと最大1キロメル分の地図を作れる。
広げてもただの白紙だが、魔力を込めると白紙の中心に現在地とその半径10メルが記憶され書き込まれる。
変更、削除、拡大、保存などしたい時は、地図が少しでも書き込まれると紙の左上に表示される半透明の丸を押した後に出てくる縦に並んだそれぞれの文字を触れば可能だ。
「なにしたの?デューク」
「ん?あぁ、これだよ」
すぐ横にしゃがみこんできた、興味あり気なマリーに地図を渡す。
「あら、このサイズのものなんて珍しいわね。ちょうどいいし、使っちゃおうかしら」
「いいと思うぞ」
こういう地図とか迷宮攻略に必須なものの管理は常にヴィネティアがしてたからな。
生憎俺もマリーも持ち合わせていなかった。
非常に助かるアイテムだ。
それからも魔物を倒しながらもどんどん進んでいった。
ここの魔物は、地震が起きた時以外マグマに潜っていることが多いから進むのは比較的楽だ。楽だが、俺なんかよりもレベルが高い魔物が殆どだから一戦一戦が非常に疲れる。
気を抜くと一気に劣勢になるだろうし、3体以上同時に戦うとなると勝つのは厳しいだろう。
聖剣のおかげでスムーズに戦闘が終わっているという部分もある。
聖剣様々だ。
「……!この先階段があるわ」
なに!?
「上りか!上りだよな!」
「いきなり走らないでよ!」
我武者羅に走って、辿り着いた先にあったのは――、
「くそっ。ハズレか」
「何がハズレなの?」
「見て分からないのか?階段だよ。どうして下りなんだ!」
俺に迷宮制覇とかいう高い目標はない。そういうのはクソ勇者にやらせとけばいいんだ。
上り階段が見つかれば迷宮脱出も楽なんだけどな。
「ほか探してみよう」
「……はぁ。ちょっとでもかっこいいって思ってた私が情けないわ」
「?なんか言ったか?」
「何も言ってないわよ。探すなら早く行きましょ」
下り階段があるなら上り階段があってもおかしくないはず。
俺はさっさと、このいつ死ぬかも分からない場所から出たいんだ。
ここに来てから神経の消耗が尋常じゃない。
俺は浅めの層でのんびりゆっくり自分のペースで迷宮探索するのが性に合っている。
そういえば前にあのクソ勇者が、どうして迷宮には階段があって魔物を倒すとアイテムをドロップするんだろう、と疑問を口にしていた。
ずっとこの国に、この世界にいればそれ自体が当たり前のことで考えたこともなかった。
浅い層では階段を作ることは可能かもしれない。
でもこんな灼熱の場所にも階段があるのはおかしなことだ。
一体迷宮とは何なのか。
「ないわね」
その答えは迷宮を突破すれば分かるのかもしれない。
「……ないか」
だが、再びの下り階段を前にして俺は思う。
そんなことどうでもいいのに、と。
別に知らなくても困ることは無いだろうに、と。
知ってどうすんだ、と。
そして――、
「どうして上り階段がないんだよぉぉ!」
上り階段はどこにも無かった。
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