【 章 最終話 】 見送る者達の希望
アサトらが去った門では、オレンがアイゼンへと近づいた。
「面白い事きいたわぁ…」
「面白い事?」
不思議そうな表情をしているアイゼン。
「そう…、坊やは…『強い』と言う意味の解釈を色々な面から見ている、変わった子ね…」
「ほうぉ~。色々な面とは?」
「もしかしたら、そうなのかもしれないと感じたわぁ…」
アイゼンは首を傾げる。
「坊やは、決して強くは無いわぁ…。でも、それは、一般的な考えねぇ…。坊やの周りを見ると、坊やはどの人よりも強いわぁ~」
「強い?」
「そう…、強いの意味は分かるぅ?」
アイゼンに訊いたオレン。
その言葉に顎に手を当てて考えたアイゼンの姿があった。
「解釈の問題ですね…」
二人の会話にエイアイが入り込んでくる。
「解釈?」
「そう…彼は、第3者的な目線で強いの意味を解釈しようとしている。その解釈に近づこうとしている…これは面白い解釈だね…。身体的に強い…早く動ける。凄い魔法が使える。多くの敵を圧倒的に倒せる…。それは、確かに強いと感じられるが、彼には不満があるんですよ…。それを強いと認識できていない…」
「ほう~、じゃ…彼の求めている強さとは?」
「それが…面白いんですよ…。彼は全てにおいて、彼のどこかにある定義にあてはまらないと、認識しないのではないかと私は思っているんです。」
「そうねぇ…。坊やは、この世界に誘われ、色々経験して、色々な話を聞いて、理解しようとしているように感じられるわぁ…。今までに見た事の無いタイプね…、直感的に動く事もあるようね…坊やの仲間の話し具合から察して…。」
「…」
「今までのチームは、リーダーが支配権を持ち、リーダーが策を考え、そして、リーダーが指揮を取る…。仲間は着いて行くだけ…。一見うまく見えているが、そんなリーダーには絶対的な力が必要になる…。それは、間違えれば、暴力を伴った支配になりかねん…だが…あのチームは、アサト君と言う頼りないリーダーを、周りが自分の立ち位置を見極めて立っている。お互いをちゃんと見ているからフォローが出来ている…。そのフォローは、いつしか固い結束となり絆となる…。頼りないリーダーであぶなっかしいから、仲間の気持ちが一つになっている。戦いは見ていないが、彼がやると決めたら、その言葉に疑いも無く、ちゃんと戦いを組み立てて迎える体制が出来ているのだと思う…それは凄い事だと思うよ。あの人数で、誰も迷うことなく同じ方向へと進めるのは…」
「そうねぇ…陳腐なヒーロー物よりもぉ、しっかりと現実を生きているわぁ~」
アイゼンは2人の会話を聞いていた。
「だから…必ず行けると思うわぁ…『アブスゲルグ』にわぁ…。この先、誰かを失ったとしても、全てを失わない限り、誰かが誰かを支えて進めるチームだと…わたしは感じたわぁ~」
すでに見えなくなり始めている、馬車の脇を進んでいるアサトとジェンスの姿をアイゼンは見ていた。
「わたしのチームも…ナガミチがリーダーで、私が…リーダーだったが、結局は参謀のような感じだったな…」
感慨深そうに言葉にしたアイゼン。
そのアイゼンを2人が見た。
「そう言えば…」オレンは振り返って…。
「別の意味でも、興味深いチームもあるわぁ~」
オレンの言葉に、アイゼンとエイアイがオレンの見ている方向へと視線を向けた。
そこには笑い合っているポドリアンとグリフ、そして、グンガにガリレオの姿があった。
「…なるほどな…」
アイゼンは何かを納得したように小さく頷いて見せていた……。
『遥かなるアブスゲルグ』 ルヘルム地方の章 …完…
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