【 章 最終話 】 旅たちの時 下
…ナガミチの家では…。
アリッサが玄関に立って、中庭に立ってあるイチョウの木を見上げているインシュアの姿を見ていた。
もの寂しげな背中が見えている…。
そこに青色のローブ姿のシスティナが近付いて行くと、システィナはインシュアの傍に立ち、イチョウの木を一緒に見上げた。
「行くのか?」小さく言葉にしたインシュア。
「はい…。」
「そっか…。」力なく答えたインシュア…。
2人を見ていたアリッサの近くにセラとチャ子、そして、ケイティが来ると、アリッサの視線を追って中庭へと視線を移した。
「あの2人…」
ニカっとしたケイティ。
そのケイティの腕を掴んだアリッサは、「2人きりにしておきましょう!」と言葉にすると玄関を出た。
アリッサに引きずられるように出て行くケイティ。
その後ろをテクテクとセラとチャ子が追う…そして、チャ子が一度中庭を見てから静かに玄関の扉を閉めた…。
「もし…なんかあったら…」
「インサン…わたし…インサンの事が好きです。だから…帰ってきます。」
インシュアは目を丸くしてシスティナを見ると、システィナはイチョウの木を見上げている。
インシュアが見ているのが分かった…システィナは、ゆっくり目を閉じた…。
その姿を見たインシュアは、生唾を飲むと、システィナの唇へと……………。
イチョウの葉が風になびいている。
その靡く様子は、多くの手が二人を祝福しているように柔らかく、拍手をしているように葉が擦れる音を立てていた……。
…共同墓地…
切って貰ったアサトは、髪をさらさらと風に小さく靡かせながら、共同墓地に設置されたナガミチの墓標の前に、花を持って立っていた。
着ているのは、ナガミチが着ていたコート、その中には、両脇の腰に太刀を携え、右手には150センチはある長太刀を持っている。
近付いてくる足音があり、この音は…アルベルトである。
「なにか言っているか?」
ぶっきらぼうに言葉をはいたアルベルトに、笑みを見せながら「いいえ」と答えた。
「お前なら見えるんじゃないか…」
「そうですね…見えますよ…いつも…」
「ふぅ~ン…」
並ぶように立ったアルベルトは墓標を見入っている。
「アルさん…。アルさん達はいつ出発ですか?」
「あぁ~、こっちも準備がある…。だが…」
空を見上げたアルベルト…。
「冬が来る前に立つさ…」
再びぶっきらぼうに答えた。
「僕らも行きます…『ウェスタロス』大陸へ…」
「あぁ~分かった…。待っている…。」
素直に答えたアルベルトを見た。
どうせ舌打ちをされて、またひどい事を言われるんだろうと思っていたアサトは、意外であった。
そんな表情のアサトを見たアルベルトは、ッチっと小さく舌打ちをする。
…やっぱりね…。
「…クソガキ…これだけは言っておく…」
低い声でアルベルトは言いながら、ナガミチの墓標へと視線を移した。
そして…「死ぬなよ…」
アルベルトの言葉は重く、その言葉を言うと振り返り、その場を後にし始め、それと入れ替わるように多くの足音や話し声が聞こえて来る。
その足音にアサトは振り返ると、そこには…、クラウトを先頭にアイゼンにサーシャの姿があり、ポドリアンとグリフは相変わらず大声で笑っていて、その横ではレニィとベンネル、オースティがポドリアン達と話をしており、その後ろには、銀色の頭が2つ、テレニアとアルニアの姿も見えた。
チャ子が手を振っていて、その傍にはセラにケイティが走って向かってくるのが見え、アリッサは辺りを見渡しており、タイロンとトルースにケビンの姿に、エイアイの白衣姿とマスクも見受けられ、その後ろには、高い身長のインシュアと並んで小さなシスティナが歩いて来ていて、ジェンスの姿は、手を繋いでバネッサと一緒だ…。
ほかにも…スカンのメンバーの姿もあり、またグンガは…冬近いのに裸であり、さすがのガリレオは何かを着ていて、デシャラの姿にミーシャとオレンは手を組んで歩いており、レディGを背負ってグラッパが来ているが…グラッパもグンガと同様に裸に近い状態であった。
ケイティが大きな花束を持ってアサトの傍に来て、大きな笑顔を見せると墓標に花束を置き、踵をかえしたように振り返って、アリッサらへの方へと走って行った。
その花束を見たアサトは、自分が手にしていた花束を置いた…そして……。
「師匠…いや、親父…僕…聞いたよ。…全部。それで…時間。ちょっとかかったけど、色々わかって来たし、色々考えた…。だからなんだって言われても…、僕、決めたよ。やるよ。師匠が命を懸けて追った目標。そして、この世界に
言葉を発した後に小さく微笑んで見せた…。
すると…。
…墓標に座るナガミチが見えた。
ナガミチは、微笑みながら頷いている。
そして、握りこぶしを作ると、左胸を2度叩いて大きな笑顔を見せた。
それに向かって頷く。
心も共に…と言いたかったんだろうと理解した。
…それは、幻なのかもしれないが、たしかに、ナガミチがそこにいたような気がしていた…
アサトの背後には、アルベルトが腕を組んで、冷ややかな視線を墓標に向けている。
その少し前に、インシュアとシスティナがチャ子と並んでその風景を見ていた。
アイゼンらと、アサトの仲間らがその光景を見守っている。
【アブスゲルグ】への道は、今から…始まる。
もう、この地にやり残したことはない…。
アサトは、空を見上げた。
その空は、ここに来て初めて見た空のように遠く、遠く……
…遠くに感じられた…。
……馬車の準備が整った。
デルヘルム南正門には、多くの者が見送りに来ていた。
アサトは馬車の側面に立ち、見送りの人達に向いている。
そこにアイゼンが近寄ってきた。
「ナガミチはなんか言っていたか?」
その言葉にくすっと笑うと、驚いた表情を見せたアイゼン。
「すみません…さっきアルさんにも言われました…」
「そうか…。」
アイゼンは手を差し伸べて来た。
大きく白い手である。
その手を握るアサト。
「これからは君たちの戦いだ。願わくば、誰も欠けることなく帰ってきて欲しい。」
その言葉に大きく頷いたアサト。
そして…。
「行ってきます…『アブスゲルグ』まで……」
アサトの言葉に頷いたアイゼンは握った手に力を込め、その痛さがアイゼンの気持ちと感じた。
そばでは、クラウトが恋人のキャシーと別れを惜しんでいる姿がある。
その姿を見てからゆっくりと手を離し、小さく一礼をして馬車へ向かうと、クラウトもキャシーから離れ、アイゼンへと進むと握手をしてから馬車へと進み、タイロンの隣へと腰を降ろした。
一度、状況を確認したタイロンが、手綱を弾くとゆっくりと馬が歩き出す…。
「アサト!チャ子も行くよ!アブスゲルグに!待っていてね!」
チャ子がインシュアに肩車をされて、その上で大きく手を振っていたので、それに、手を振って返すアサト…。
多くの声が聞こえる…。
馬車は正門を過ぎて行く、守衛もなぜか見送りをしてくれていて、アサトは小さく頭を下げ、隣にいたジェンスは、バネッサにであろう大きく手を振りながら歩いている。
ケイティは、馬車の上に載って大腕を振っていて、システィナとセラ、そして、アリッサは馬車後方から手を振っている。
…旅立つ…。
アサトは一度門を見ると、多くの知り合いの顏がそこにあり、各々、思った表情を見せていた…。
…ありがとう~みんな。…そして…行ってきます!
心で呟くと前を見る。
もう振り返らない、ここから始まる、『アブスゲルグ』へ続く道を、真っすぐに見るんだ…。
林の向こうに見える空は………。
小さく揺れている馬車の中の壁には、ナガミチの墓標を囲んで、みんなの笑顔が映っている写真が…小さく飾られてあった……。
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