【 章 最終話 】 旅たちの時 上

 アイゼンの号令で街に戻るアサトらは、帰り道で、草原を疾走している黒い車輪が4個ついていて、白く塗装されている箱型の乗り物を見た。

 その中には、前の席で丸い輪を手にしているグンガに、その隣では、グンガの首を掴んで叫んでいるガリレオ、後部座席には、銀髪で耳が横に長いエルフのアルニアが、何かを言っていて、アルニアの隣で笑っているカンガルーの亜人のデシャラの姿が見え、その風景に、頭を抱えて見ているエイアイの姿があり、激しい戦いの後だが、何となくホットさせる風景を見せていた。


 街に着くと、ポドリアンが使いフクロウを使って、ポドメアへ連絡をし、残り2か所のゴーレムの動きを見に行かせたようであり、アイゼンとフレシアスが、街の駐在大使への報告へと向かい、サーシャが、ギルドで、小さいが慰労会を執り行う事にしたが、報告を受けた駐在大使が、トンネル奪還を祝した宴会を街主催で行う事にしたため、小さな慰労会が、盛大な祝勝会へと変わり、街を上げての大宴会となった。


 南門に隣接している馬車小屋では、白い乗り物の前に、グンガとガリレオ、デシャラにアルニアが正座をしていたのが…ちょっと笑える…。


 そう言えば、宴の席で、アルベルトとポドリアンが、意味深な会話をしていた。

 広場を照らしていた篝火を黙って見ていたアルベルトに、ポドリアンが話しかけていた。

 「火の中に何か見えるのか?」…と、その言葉に、「死人が、侵攻している、まだ…多くは無いが…見える」

 アルベルトが答え、その言葉を聞いたポドリアンは目を細めて、「お前は、火の神に誘われたな…」と言っていたが…、どう言う事だろう……。


 とりあえず、その日は大変だったが、みんなよく頑張った!…って事で……。


 翌日。

 オレンに連れられて、システィナにセラ…そして、レニィが牧場で修行を始めた。

 レニィは…、どうやら、システィナの持っていた、古の遺物を受け継いだようであったが、ただ、オレンが、なぜ指名をしたのかは誰も分からなかった。

 とりあえず、意味があるのではと思うが……。


 夜には、クラウトが神妙な面持ちでナガミチの家に現れた、というか、その日は、システィナら以外は修行を休みにしたので、みんな家で一日中ゴロゴロしていた…と言うか、朝から中庭で、大暴れしていた、グンガとガリレオ…そして、ケイティのおかげで寝不足であったが……。


 夕べから、ナガミチの家にグンガの一行が泊っていて、なぜか、ナガミチの部屋を独占しているオレンは、ミーシャをそこで囲っていた…、なので、昨夜から、空いている部屋で、ジェンス、そして、なぜかフレディと一緒に寝る事になり、レディGはケイティの部屋、グンガとガリレオは、グラッパを枕にして中庭で寝ていた…と言うのはいいが、クラウトからの報告で、どうやら結婚をするようだ。

 その報告をしに来た…が、セラが四つん這いになって………床に向かってぶつぶつ言葉を発しているのを、システィナとアリッサがなにやら話しかけていた姿を見ていた、グンガとガリレオ、そして、ケイティが爆笑していたのを見たミーシャが、3人に説教していたのが、ちょっと笑えた……。


 2日後に結婚式をした…。

 どうやら、子供もできたようである。

 このまま旅を続けてもいいのだろうか……。

 少し悩んだが……、チーム会議で、ナガミチらがたどった道を進む事にし、フリーカ大陸からロッシーナ王国があるエイジア大陸、そして、リメリカ大陸へと…、途中、夜の王討伐参加の為『ウェスタロス』へ寄ると言う、大まかな流れを描き、期間は10年としたので、クラウトは旅に参加し、キャシーも了解をしたようである。


 セラは……。とりあえず、いいか……。


 サーシャに無理やり髪を切られ、タイロンも切られた…と言うか、アサトが髪を切っている風景を見ていたグンガが、寝ていたタイロンの髪にはさみを入れ…、それが面白く、ガリレオも参加をし、どうも、右が短いだの左がどうの…後ろがどうの…って言っている内に…、どうにもならなくなり…、結局サーシャがグンガらと同じ髪形にした…。

 まぁ~、その後は、言うまでも無く…激怒したタイロンが…、ってな事で、中庭で正座をしている姿を見たアルベルトが、舌打ちをしていた風景が、この家の風景に思えた…。


 それから間もなく、エイアイが、チャ子とロマジニアの判定結果を、2人へと報告をした後、了解を得て、アイゼンとアルベルト、クラウトとサーシャ、アサトの前で報告をした。

 古では、これが正式な告知の仕方のようである。

 その為に、エイアイが『デルヘルム』まで、わざわざやって来たと言う事であった。

 結果は、やっぱり親子のようである。

 その事に、チャ子は複雑な表情を見せていたが、サーシャは受け入れ、その後、アイゼンとサーシャ、チャ子とロマジニアで食事を取り、ロマジニアが旅立つまで、あと数回、食事をする事にしたようである。


 ロマジニアが旅立つ…とは、アルベルトと『ウェスタロス』への旅に同行するようだ。

 ロマジニアだけではない、ポドリアンとレニィ、そして、テレニア…5人で、夜の王討伐をすると言う事。

 かなり長い旅になるようで、相手も分からない、ただ、『ウェスタロス』にも夜の王に精通している者もいる可能性や、そのモノに戦いを挑む者もいる事を考えて、5人で行くことにしたようである。

 旅たちは、いつなのであろうか……。


 そして……、なんだかんだで……。


 ……数日後……


 アイゼンの部屋を訪れたクラウトは、しっかりとした格好をしていた。

 「…そうか、今日立つのか…」

 「はい…これから、ナガミチさんの墓参りをしてから、その足で…」

 「寂しくなるわねぇ~、キャシーは任せておいて……」

 サーシャがクラウトの傍に寄って来た。


 「ありがとうございます…。そして…」

 ソファーに座っているオレンを見た。

 オレンは、季節のせいかもしれないが、しっかりと襟口を正し、厚手のコートを着込んでいた。

 「…オレンさんが言っているように、これからの旅は困難が予想されます。たぶん…」


 「言わないの!」

 サーシャがクラウトの言葉を遮った。

 「縁起が悪いわ!」

 サーシャの言葉に小さくなったクラウト。


 「では…、われわれも一緒に行こう。見送りも兼ねて…ナガミチの所に…」

 アイゼンは席を立つ、その動きに合わせてオレンもソファーから腰を上げて立った。

 「ありがとうございます…」

 クラウトは小さく頭を下げた…。


 馬車小屋では…

 トルースが、荷馬車の天井に50×50センチの黒いソーラーパネルを設置していた。


 「エイアイさん…これでいいのかな?」

 タイロンが荷馬車前方に丸い物を取り付けていた。

 「あぁ~、どれどれ…」

 エイアイは荷馬車の中に入り、壁に設置したスイッチを押すと、丸い物が光り出した。

 「おぉ~~、凄いなこれ……」

 見た事のない明るさを放つ丸い物をみていたタイロンの傍に、荷馬車を降りたエイアイが来ると、設置を終えたトルースも現れた。


 「ヘッドライト…ジープの部品で取っていたが、オレンが投げて壊したみたいだからね。必要なくなったから使いなさい…。それに…」

 白衣のポケットから紙を出してタイロンへと渡した。

 「これがソーラーシステムの構図だ。何かあったらこれを見て修理するんだよ」

 「へぇ~」

 タイロンは受け取った紙を見たが…まったく意味がわからない。

 色々書いていたが、読めるには読める、だが構図の内容がちんぷんかんぷんであったが…。

 「…ありがとう、うまくやります!」と大きな笑みをエイアイに向かって見せた…。


 …丘の上の家では…

 「元気でな!」

 「ハイ!」


 元気のいい声をだしたジェンスは大きく頭を下げた。

 小さな農園にある平屋の建物の玄関には、バネッサの両親が立っている。

 その前で一礼をしていたジェンス、その隣にはバネッサが立っていた。


 「いいか、10年は、娘は嫁に出さないから、10年経つ前に帰って来いよ!無事に…」

 バネッサの父親は、工夫である。

 そのせいでもあるのかないのか分からないが、ジェンスよりも頭2つは大きかった。

 「了解しました!生きて帰ってきます!」

 敬礼のポーズをとって見せる。


 「まぁまぁ~、とにかく体には気をつけてね…使いフクロウをたまには飛ばしてね。」

 バネッサの母親は、大きくなりかけているお腹を擦りながら、優しい笑みを見せている。

 「ハイ!了解しました!生きて帰ってきます。フクロウも出します!」

 再び敬礼のポーズをとるジェンス。

 そんなジェンスを見て笑うバネッサの目には、うっすらと涙の線が見えていた……。

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