第40話 去り行く魔女の涙 下
七色の靄が消える…。
その場に残っていたのはアルベルトにポドリアン、そして、グリフにサーシャ…、アイゼンであり、そのアイゼンが、こちらを見ていた。
オレンは目を閉じてから小さくため息をつくと、隣にいたクラウトへと視線を持ってきた。
クラウトは、その視線に気付き、オレンを見ると、オレンは何かを確信したのか、確かめたような表情を見せてから中へと視線を移す。
中ではアサトの目の前で、ゲラゲラ笑っているグンガとガリレオ、怒りの声を上げながら怒っているケイティがいて、それを面白おかしく見ているデシャラの姿があり、ヘタっと座っているシスティナの傍らには、セラとアリッサが寄り添っていて、壁にもたれて座っているタイロンとジェンスは、同じような姿勢で天井を仰いでいた。
全員が疲労困憊の表情であった。
しなやかに動き出したオレンは、アサトの前で戯れているグンガとガリレオの前に来ると、両名の耳を掴み持ち上げた。
「…あいでぇぇぇぇぇぇぇ…」
「ぎゃぁぁぁぁやめんかいぃぃぃぃぃ」
グンガとガリレオが悲鳴を上げる。
「ちょっとは静かにしなさい!これからみんなに話があるから!」
頬り投げるように2人の耳を弾くと、耳を擦りながら膝を折って座ったグンガとガリレオ…。
…ってか、この人達は、起こられるとすぐに膝を折るんだね……。
アサトは半ば呆れた様子でみていた。
グンガとガリレオの隣に、なぜかケイティも膝を折って座った。
…ってか…ヒメェ~~~。
「このパーティーのリーダーは誰?」
オレンは振り返りながら言葉にする。
クラウトを見て言ったのだろう、クラウトは眉を小さく上げてから、オレンの視線に向かい手を差し伸べ、その行動に小さな驚きの表情を見せ振り返ると、手を上げているグンガを見た。
「…あなたではないでしょう!」と一喝する。
その喝に、しぶしぶ肩を竦めながら、手を降ろすグンガを見てからアサトが手を挙げた。
「…ぼく…です…」
少しばかりだが、なぜか恐縮して言葉にすると、小さく首を傾げるオレン。
それもそうであろう…誰が見ても、一番しっかりしていて、また、そういう雰囲気を持っているのはクラウトであり、アサトは、どう見てもただのメンバーにしか見えないのである。
「…そうなの…まぁ~、これも形よネ…」
向き直ったオレンはアサトに近づく。
「…いい、このパーティーで一番守らなければならないのは…あの子とあの子よ…」
オレンはシスティナと、その傍にいたセラを指さし、一同が2人へと視線を向けると、目を大きく開けて、驚いている表情を見せているシスティナとセラの姿があり、その2人はアサトを見ていた。
「魔女の子は、さっきも言ったけど、古の神が送った子…と言うのは、本当かどうかは分からないけど…。でも、私たちと同じような血が流れているのは確かだと思う…。古の神も伝承も…核心は無いけど…。とにかくこの子は、これからの旅で、この子の存在を知ったモノが、この子を奪いに来たり、また…殺しに来る事があると思われるわ…、はっきり言って…この子の力は、魔族と言われる私たちには脅威となる力を秘めているわぁ~。バルキリーと言われる種族の親類に当たると思う…。はっきりは分からないけど…そして…、そこの狐の子は…。私が感じただけでも、かなりの代を重ねているようねぇ~、まだまだ子供だけど、成長すれば、とんでもない力を出すかもしれない…」
システィナとセラを見てオレンは言い、それから間もなくアサトへと視線を移した。
「アブスゲルグに行く為には、この子らの力が必要…。あなた達の旅は、この子らを守る旅でもある…」
「え?」
「…意味がわかる?」
オレンは冷ややかな視線をアサトへと送った。
その視線は、何かを聞いているような視線であり、アサトは視線の向こうにあると思われる答えを考えた…それは…。
「…リーダーのあなたは、この子らを守るために、強くならなきゃならないって事…」
「強く…ですか…」
アサトの反応に首を傾げたオレン。
言葉を放った後、小さくうつむいたアサトは床を見つめた。
…強くなるって……。
「強いって…強くなるって……」
「…何?どういう事?」
オレンは、困惑した表情で振り返りクラウトを見ると、クラウトはメガネのブリッジを上げているだけである、その真意は……。
「…大丈夫です…」
声が聞こえる。
アサトは、その声に下げている頭を上げてシスティナを見た。
「オレンさん…大丈夫です。アサト君は強くなります…。強いと言う言葉は、アサト君にとっては、不明瞭な言葉なんです。わたしもファンタスティックシティで聞きました。強いの意味を知るために…これからの旅をするんです。だから…大丈夫です。アサト君は、オレンさんや、ほかの人とは違った価値観で強いし…強くなります…だから…」
「ありがとう…システィナさん…」
アサトは、システィナへと笑みを見せた。
その笑みは優しく、また…力がこもっているような笑顔であった。
「そうですね…オレンさんは、強くならなきゃならないって言うのは分かります。僕も強くなる…でも、その強いの意味は…。」
「……そう言う事ね…、分かったわぁ~、なんか…恥ずかしいぃわぁ~。私は、あなたに身体的な強さを求めていたけど…あなたは、それを越した場所の強さを求めているのねぇ~…参ったわぁ~」
目を閉じて、小さく苦笑いを浮かべたオレンの言葉に、再び下を見たアサト。
そのアサトに向かい、艶やかに膝を折ってしゃがんだオレンは、アサトの手を握った。
「…いい?…強さは人それぞれ…、負けても勝っても…、でも死んだら終わり…。これだけは言わせて…、私たちは、陳腐な物語に生きている訳では無いわ。人は死ぬ。強さは、人の死にもあるの…。今のあなた達では、アブスゲルグに行ったとしても3秒も持たないと思うわぁ~。それに…これからの旅で、ここに居る誰かは必ず死ぬ…。その時に乗り越えて進む強さも必要になる…。悲しみ…、負けた時の悲しみや失った時の悲しみなどの数が、多ければ多い程…心が強くなる…。あなたが求めている強さの一つは…そこにあるのかもしれない、だから…負けないようにして…。自分の心に……、そして…」
「守るんですよね……」
アサトは顔を上げてオレンを見た。
その表情は穏やかであり、それからシスティナにセラ、そして…アリッサを見た。
…これから先、この中の誰かは必ず死ぬ…。
その言葉は断言では無いと言う事は感じている。
オレンの言葉は、これから先にある旅、アブスゲルグに続く旅路には必ず、有ると思われる事、それを防ぐために、身体的にも強くならなければならない…。と言っていると解釈した。
だから…守る…。
システィナやセラだけではない…。
アリッサやケイティ、タイロンにジェンス。
そして…クラウトも…。
アサトはリーダーであり、仲間を守らなければならない事は分かっている。
「なぁ~、ねぇ~さん…」
アサトの後方から野太い声が聞こえて来た…。
タイロンである。
そのタイロンは上を向きながら話しを始めた……。
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