第39話 去り行く魔女の涙 上
一同を見渡したクレアシアンは、そばにいたオレンに向かい合った。
「おじいさまの秘宝をあげたの?」
「えぇ~。」
彼女もクレアシアンと同じような表情を浮べた。
「そう…。さぞかし、おじいさまは残念がっていると思うわぁ…」
「…そうかしらぁ?おじいさまは、わたしに託したのぉ~。お兄さんやおねぇ~さんに渡すより、わたしに渡した方がいいっておもってねっ」
「そうなのぉ~~…まぁいいわぁ~。オレン…」
クレアシアンはオレンの手を掴み、その手をお腹へと持ってきた。
「…わたしとこの子が…あなたを必ず…殺すから…」
低い声で言葉にするが、その言葉にオレンは大きな笑みを見せた。
「あらぁ~、ならその時に、甥っ子か姪っ子に会えるのねぇ~楽しみぃ~~」
オレンの言葉に、大きなため息をついたクレアシアンは、手を離して窓辺へと向かった。
「…それじゃぁ~、旧友に挨拶に行くわぁ~。」
彼女は、何やら小さく言葉を発すると、目の前に七色の靄が現れた。
…もしかして…あれが、ナガミチさんらが通った靄なのか?
その靄に入ってゆくクレアシアンをアサトらは見ている。
吸い込まれるように入って行ったクレアシアンの体は、靄にはいると解けるように消えて行った。
静まり返った部屋…。
「はぁ~~」
緊張がほどけたのか、大きな息と共に声を出してシスティナが膝から崩れ、その場にヘナっと座り込んだ。
アサトも太刀をゆっくりと鞘に仕舞い、腰を降ろして座った。
クラウトは辺りを見渡している…と…。
「おっりゃぁぁぁぁぁ本命は何処だぁ~~」
勢いよくグンガ?と思われる坊主頭で藁で出来た腰巻をして、頭に赤いバンダナを巻いた者が中に入って来た。
と…、間を置かずに…同じ格好で剣を振り回したモノも現れ…そして…見た事のあるカンガルーの亜人が入って来て、辺りを見渡していた。
「…グンガ…さん?」
部屋を見渡しているグンガと思われる面白い格好をした者がアサト…ではなく、その向こうにいるオレンへと視線を向けた。
「げっ!おめぇ~、いつの間にここに!ってか…、やっぱ本命はおめぇ~かぁ~」
指を指して言葉にした。
「かぁ~、いままでことごとく面白いようにもてあそびやがって!この戦いの首謀者はおめぇ~かぁ!…ってか、ジープもったいなかったじゃねぇ~か!」
多分、ガリレオと思われるモノだと思う…、その者は剣をオレンに向けて叫んでいた。
すると…その手前にいたアサトに気付く。
「…おい…おまえ見た事あるぞ」
「?」
ガリレオと思われる者の言葉に、グンガと思われる者も気付き、ゆっくり部屋を見渡した…。
そして、「お…おぉ~、あそこにいるのはクラウト!ってことは…おまえらかぁ~、久しぶりだな!ってか、なんか感じがかわったな!」とグンガと思われる者…。
「あのぉ~、グンガさんとガリレオさんですよね…」
アサトが恐る恐る聞くと、大きな笑みを見せて、「…なんだ?おめぇ~、忘れたのか、そうだグンガだ!俺がグンガ!グンガと愉快な仲間達のリーダーだ!こいつはモヒカン無くなって変わったけど、俺は変わってないだろう?」
…ってか、思いっきり変わっているんですけどぉ~~。
「おぉ~、あそこにいるのは、貧乳…」
「…っちぇぇぇぇぇぇぇぇぇスト!」
ガリレオがケイティを見つけ、言葉にした瞬間であった。
…ってか、姫は、その言葉に反応が早いんだよなぁ~~。
腹を蹴られたガリレオが蹲り、その脇で腹を抱えて笑っているグンガ、そして…、「デシャラ君…仲間になったんだね。」
少し照れながら大きく頭を下げているカンガルーの亜人、デシャラの姿がそこにあった。
…そうなんた、やっぱり仲間にしたんだ……。
一同を見ていたオレンは、外へと視線を向けた、その場に近づくクラウトも、同じ窓から外を見た。
そこには…。
「旧友ですか…」
「…そう…もう切れない縁で結ばれた敵であり、友であり…ってのは、綺麗かなぁ~~」
クラウトの言葉に、遠くを見る視線をつくったオレンがそこにいた……。
……ゴーレムサイド…
うすい靄が現れた瞬間。
アルベルトは腰の剣を抜き、ポドリアンとグリフが盾を構え、アイゼンの前に立った。
その靄がはっきりとした形になると、靄からクレアシアンが現れた。
目を細めるアイゼン。
「…お久しぶりねぇ~アイゼンさん…」
クレアシアンの言葉にポドリアンの肩に手を乗せ、警戒を解かせた。
ポドリアンが盾を降ろすと、その行動にグリフも降ろし、アルベルトも腕をさげた。
「…終わったようだな…」
「えぇ~、これみてぇ~」
顔を小さく突き出して見せる。
顔には斜めに入った傷があり、両肩には鋭い結晶が刺さっていた。
「お腹の子は…?」
サーシャがアイゼンの後ろから現れると、ポドリアン達と並び、心配そうな表情で言葉にした。
「…サーシャさん。ありがとう…大丈夫よ。」
「このまま私たちと来れば、お医者さんに見せて、安全に…」
サーシャの言葉に首を横に振る。
「いいえ…、坊や達にも言ったけど、帰るわぁ~」
「帰るって…」
サーシャが押し殺したような言葉を発した。
「アブスゲルグにか……。」
サーシャの言葉が終わると同時にアイゼンが重苦しく言葉にした。
アイゼンもクラウト同様に思っていたのかもしれない。
アイゼンの言葉に小さな笑みを見せ、振り返り再び靄へと進みだした。
「アイゼンさん、10年間…楽しかったわぁ~。あの子の親御さんには、謝っておいて…子供では返せないけど、いつか必ず…償いにくるわぁ~、そして…、アイゼンさん…」
靄の前で立ち止まったクレアシアンは振り返った。
その表情には、うっすらと涙が見えている。
「…あなたも来なさい…『アブスゲルグ』に…。サーシャさん…この子を抱いて欲しいわぁ~~」
彼女の言葉にアルベルトの表情が固まった。
アルベルトだけではない、ポドリアンとグリフもそうである。
涙が流れている…。
その涙が意味する事は分からないが、あの日…ナガミチの家で会った時の彼女には、想像もできない傷だらけの容姿…。
そして……。
「あぁ…、だが、君とはここでお別れだ。この先…アブスゲルグに続く道は…若い者が歩むだろう…」
「…そうね…。もう私たちの時代じゃない…」
アイゼンの言葉を追ってサーシャが言葉にし、その言葉は、力強くはなかった。
両名の言葉を聞いたクレアシアンは振り返り、靄へと消えて行く…。
「サーシャさん…あなたのように、この子は、この子らしく育てるわぁ~ありがとう……さようなら……」
クレアシアンの言葉は次第に小さくなり、最後の言葉は聞き取れなく、消えたクレアシアンを追うように靄も空中に拡散してゆき、ゆっくりと浸透して消えていった。
「…これで、本当の私たちの戦いは終わりなのね…」
サーシャが重く、そして、思いを込めているような言葉を発すると、小さく頷いたアイゼンは、砦へと視線を移した。
砦の窓には、クラウトとオレンの姿が見えている。
「…これからは、彼らの戦いだ……」
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