第38話 思わぬモノの助けに思わぬモノの存在 下

 「子供相手に本気になっちゃって…。もうおねぇ~さんたら…お・と・な・げ・な・いわぁ~……」

 窓からゆっくりと降り、床を進むオレンの裾は長く、床を引きずっていた。


 「顔に…傷。そして…肩にも…、この子達、凄いわぁ~~」

 「ちょうどよかった。今、あなたの話しをしていた所よ」

 「あらぁ?そうなのぉ~。それはうれしいわぁ~」


 アサトは2人の会話を聞いている。

 …やっぱり…、クレアシアンの妹って…、この人なんじゃ…。


 オレンはアサトの傍に立ち、一同を見渡してからシスティナへと視線を移した。

 システィナは、姿勢を変えずにクレアシアンだけを見ている。

 「…あの子の名前は、何て言うの、坊や?」

 「え?」

 話しかけられたアサトは、小さく驚いた表情で答えた。

 「システィナ…と言います」

 その言葉を聞いたオレンは、小さく首をかしげて何かを考えていた。


 「なぜ来たのオレン?」

 クレアシアンの言葉に我に返ったオレンは、小さく笑みを見せた。

 「なぜって…。何となくねぇ~~。」

 ゆっくり、そして、妖艶に進みだしたオレンは、システィナへと近づいていった。


 その様子をアサトらが見ている。

 もちろんクレアシアンもである。


 「ねぇ~、おねぇさん…。この名前聞いた事無い?」

 「名前?」

 「そう…『シスター・アレフ・フレティーナ』…」

 「…さぁ~、聞いた事は無いわぁ~」

 「そうよね…、この名前は、おじいさまから聞いた話に出てくる人の話し。…古の時代に7つの属性が作られ、その属性をつかさどる巫女がいた…」

 オレンは、システィナの近くに来ると、覗き込むように顔を見てから、クレアシアンの方へと向いて話を続けた。


 「…その巫女は、7人いて。互いに別々の属性を保有していた。7つの属性が世界にあるから均衡は保たれている…だけど…ある時期、その均衡が壊れた…俗に言う。魔女狩りがあった時代…その時代にいるべき者が、夜、忽然と姿を消し…、その後、次の巫女が現れるまで、均衡は壊れ、各々の属性の強さを主張する時代になり、その主張が…魔女狩りへと発展した……。」


 オレンは小さく笑う。

 不思議そうな表情だったクレアシアンの表情が、みるみる変わって来た。

 「…まさか……」

 「…そう。『シスター・アレフ・フレティーナ』…通称…『システィナ』。彼女は、そうみんなに言われ慕われていた。強い魔力を持つ神の子と言われ、均衡を守る者とまで言われていた子よ……」

 オレンからシスティナに視線を移したクレアシアン。


 「…そう言う事ね…2度眠りの呪文を唱えたけど、この子だけには効かなかった。雰囲気も…なにか、違った感じがしていた…。最初は、どこかの時代の魔女だと思っていたけど…、別の世界の力を宿して生まれた子だったのね…」

 「フフフ…、ちゃんと覚えておかなきゃぁ~~」


 オレンは、システィナが突き出していたロッドに手をかけ、ゆっくり優しく力を込めて降ろさせ始めた。

 「まだ…覚醒はしていないみたいね…、どう覚醒するのかはわからないけど…。あなたの力は、今は、その古の遺物で制御されているみたい…。」

 下げたロッドから、今度は強く握っている手へと持ってきた。


 「あなたの属性はよ…。神の属性…。私たち魔族は闇…。おねぇ~さんや魔の属性に唯一立ち向かえる属性なの…。この世界にいるバルキリーの遠縁になるの…あなたわぁ~」

 笑みを見せるオレン、その笑みに緊張をほどいたシスティナは、クレアシアンからオレンへと視線を移した。


 「もう大丈夫…ここは、あたしに任せて…」

 システィナの手から手を離したオレンは、キセルをシスティナに手渡して微笑み、視線をクレアシアンへと移した。

 

 「さぁ~おねぇ~さん…どうするぅ?そのお腹なら…もうやめた方がいいんじゃない?それにぃ…。その子は、私の甥っ子か姪っ子になるんでしょう?」

 「大丈夫…あなたには抱かせないわぁ」

 「あらぁ?そうなのぉ?こんなに若くて綺麗で…、おばさんに会わせないって…もしかしてぇ~、おねぇ~さんのヤキモチぃ?」

 「フフフフ…相変わらずねオレン…。相変わらず…ホンと頭に来るわぁ」

 「あらぁ?まだ根に持っているのぉ?案外、執念深いのねぇ?」

 「……」

 「…オフ・オレシアント…」


 オレンの言葉に、クレアシアンの足元から吹いていた風が止み始め、その体もゆっくりとおちると静かに床についた。

 見つめ合う両名。


 アサトには、同じ顔に見える。

 髪形は違うが、表情や仕草が同じである。

 それに漂う女性の優美さが目を引き留めていた。


 「魔力は…わたしの方が上みたいね…おねぇ~さん…」

 オレンの言葉に一度、唇を噛みしめたクレアシアンは、口角をゆっくりと緩めて、いつものような妖艶な笑みを見せた。


 「そうね…。こんな体じゃ、本気にはなれない…今日は、帰るわぁ~、それに…そろそろ生まれそうだしぃ~」

 お腹をさするクレアシアン。

 その仕草を見たオレンも小さく微笑んだ。


 「それじゃ…」

 クレアシアンは、ゆっくりとアサトへと向いて、小さく顎を引いた。


 「聞きなさい坊や…そして…その仲間達…」

 強い口調である。

 息を飲む一行。


 「来なさい『』へ。待っているわ。それに…伝言。アズサの娘…、シノブがフリーカ王国、『モガッディ』にある古の神殿でまっているそうよ…。それで…一緒にわたしを討伐するんですって…さぁ~お行きなさい!そして、強くなって来なさい、『アブスゲルグ』に!」

 「アズサさんの娘…シノブ…さんが?待っている?」

 呟くように吐いたアサト。


 …そうか…アズサさんは死んだんだ…そして、娘…前に聞いた子…名前はシノブ。彼女が、僕らを待っている…。

 アブスゲルグへ…一緒に行く…行って彼女を……って、なぜアブスゲルグ?。


 アサトの頭の中に疑問符が湧き出て来た、その時、「…もしかして、あなたは…」とクラウトの声が聞こえる。

 メガネのブリッジをあげてクラウトがクレアシアンを見ていた。

 視線を変えた彼女は、小さく微笑み、「そうよ…わたしはアブスゲルグの住人…。」

 小さく頭を倒し、満面の笑みを見せた。

 その笑みは、妖艶では無く、無邪気な子供のようであった。


 …彼女が、アブスゲルグの住人…。


 クラウトの表情は硬かった。

 気付いていたのかはわからないが、確かに、その事実を推測していたような感じであった。

 「…やはり…そうでしたか…」

 「フフフ…。メガネ君…まだ早いわぁ~。もう少し強くなってから来なさい…そして…坊やも…」

 クレアシアンの視線がアサトに向けられたが、その視線は、余裕のある視線であり、笑みも、先ほどとは違う、ゆったりとした笑みであった。


 …格が違うと言う事は、こういう事なのか…。


 アサトは握っている太刀の柄に力を込めていた。

 圧倒的な力に対して追い込んだはず…だったが、何故か…彼女には、勝てない雰囲気がある。

 それが格の違い…これが現実なのか…、描いているモノが…違う…。


 小さく息を吸ったアサトは、目を閉じて、気持ちを収めてから、息を吐ききり、瞳を開けた。

 アサトは引き締まった表情になりクレアシアンを見る。

 「はい…その伝言、受け取りました。僕らはまだまだ弱いし、今、あなたに勝てるとは言えない…。時間が経っても勝てないかもしれないけど…。行きます。『』へ!そして…あなたを討伐する!」

 手にしていた太刀をクレアシアンへと向けた。

 その表情に満足そうな笑みを見せるクレアシアン。


 「なにかを吹っ切ったような表情ねぇ~~、坊やぁ、ナガミチのような男になりなさい。時間はかかってもいいわぁ。待っている…そして、わたしから取ったオーブはあげるわぁ~。餞別よ…」

 一同を見たクレアシアンは小さく妖艶に微笑んでいた……。

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