第37話 思わぬモノの助けに思わぬモノの存在 上
外の状況が気になる。
確かに、とてつもない状況になっている事は分かっていたが、想像がつかない、そして…聞いた事のある声も聞こえて来た。
『ぶっ飛ばす…と、ぶった切る』は…、知っているフレーズで、グンガらが言っていたフレーズである。
窓の外を見ているクレアシアンが微動だにしていなく、その状況に戸惑いを持っているようであるとなれば、もしかしたら、グンガらがやって来てゴーレムを倒したのか…まさか…。
…え?
アサトの視界へ入って来たのは、窓を見ていたクレアシアンへと向かって進む黒紫色の結晶、長さは30センチ程であろうか、先の鋭く、細くガリガリとした結晶で出来た鉾先のようなモノが2本、服と肉を貫く音を立ててクレアシアンの両肩に突き刺さった。
その衝撃で小さく反り返ったクレアシアンは、体勢が戻ると大きく項垂れて立ち尽くした。
…何が起きた?あの攻撃は……。
視界を左右に動かすと、ロッドを両手でしっかりとクレアシアンへと向け、荒い息をしたままで壁際に立ち尽くしている、システィナの姿があった。
クレアシアンがゆっくりと動き出すと、柔らかに動く髪…その髪が外側から内側にいるアサトらへと向かい動き出し、時間を置かずにその表情が見えて来た。
斜めに入っているアサトが斬った傷からは、いまだに血がしたたり落ちている。
妖艶な表情はすでになく、眉間に皺を寄せ、目を吊り上げ、口を真一文字に結んだ憎悪に満ちた表情であり、中を見たクレアシアンは、おもむろに顎を上げ、腕を小さく上げると、再び足元から風が吹き、髪が逆立ち始め、小さく浮き始めた。
顎を上げた状態でアサトらを見渡し、システィナで視線を止めた。
「…もう…本当にいいわ…一気に殺してあげても…でもねぇ~、それだけでは済まない…」
クレアシアンの体は、床から1メートル程の高さに達したところで止まった。
システィナは目を鋭くしてクレアシアンを見ていて、負けていなく、その表情から見るに、昔のシスティナでは無かった。
そのシスティナの手にしているロッドに力がこもるのがわかる。
「せっかくの
その言葉に、アサトは振り返り一同を見ると、目を丸くして壁にもたれているタイロン、その近くにいるジェンスは座り込み、セラはケイティに抱き着き、その前にはクラウトが真剣な表情でクレアシアンを見ていて、アリッサは窓辺で座り込み、クレアシアンを見上げていた。
システィナとアサトだけが対峙していて、システィナは…変わらない表情であり、すべての責任を負っているような表情であった。
…だめだ…、僕が…あの時、あのチャンスで、仕留めていれば…。
後悔が押し寄せてくる。
確かに、斬った。
システィナとジェンスが作ってくれた好機を逃したが……。
あの時に…どう対処をして良かったのか、殺さない事がこの討伐戦での約束である。
だから…躊躇した?いや、躊躇はしていない、確かに斬った。
殺そうと思っていたのか…あの時……。
「お嬢さん…いい事を教えてあげる…」
クレアシアンがシスティナへと姿勢を変え、その言葉に顎を引いたシスティナ。
「…わたしは、温厚な方よ…、ちょっとやそっとでは怒らないけど…。でも…、この世界で、2人だけ、本当に殺したいと思っている人がいるのぉ~」
逆巻く髪が激しくなった。
怒りがそうさせているのかもしれない。
その風圧が、アサトの近くでも感じられている。
「…1人は…アズサよ…。まぁ~彼女はもう死んだんだけど…。そして…もう1人は……。」
上げていた顎を引いて、鋭い視線でシスティナを見る。
「…わたしの妹よ……」
…え?妹?妹を殺したいって………。
クレアシアンの言葉に目を見開いたアサトは、心の中で呟いていた。
…肉親なのに?
言葉を発したクレアシアンは目を閉じ、小さく息を吐き出すと、気持ちを整えたのか、今度は妖艶な表情に変わった。
「…今日…めでたく、あなたが3人目になったわぁ~。もうお嬢さん、…なんてやさしくしないわぁ~。あなたと坊やは…、ナガミチとアズサのように…、死へのきっかけを造ってあげるわぁ~~。そして…ルーンを刻む…。そのルーンは…?」
クレアシアンが何かに気付いた。
その表情にアサトもあたりを見渡す…が、何もない…だが、聞こえてくる…それは……。
下の階からであった。
「…どこだ!本命は!待ってろよ!今ぶっ飛ばしてやっからな!」
「いや、何言ってんだ、俺がぶった切るんだよ!」
「あれじゃない?階段!階段!この上だと思う」
「よくやったデシャ!行くぞ!」
…この声って、グンガさんにガリレオさん?そして…デシャラ君?そう言えば…。
アサトが思い出していた。
グンガがデシャラを仲間にすると言っていた事。
そう~これは……、やっぱり来ていたんだ!
「…また、害虫が入って来たみたいね…、消えなさい!」
クレアシアンは左腕を小さく払うと、大きな音と共に床が避け、遠くからグンガらの悲鳴と石が崩れるような音が聞こえ、小さな振動が床から伝わってきた。
どうやら階段を壊されたのかもしれない。
痛いだのどうしたのだと言う、グンガらの声が聞こえてきていたので、無事である事が分かり、小さく胸を撫でおろしながら、クレアシアンへと視線を移す。
両肩に突き刺さっている結晶、そして、顔には傷があるが、しっかりとした視線でシスティナを捉えており、対峙しているシスティナも…負けてはいなかった…と…。
「…まったく…どう言うつもり?」
いきなり声をだしたクレアシアンは、ゆっくりと振り返り始め、後ろ側にある窓へと視線を移した。
その行動にアサトも視線を移す。
そこには…。
「まぁ~、お久しぶりねぇ、おねぇ~さん」
窓に腰かけている、黒みがかった紫の髪をボブカットにして、胸元を大きく開け、艶やかな色の衣を纏い、腰には太い布に袖あたりが長い、この地方では、初めてみる様相の女性がキセルを持って、小さく妖艶な笑みを見せている者がいた。
…え?誰?…おねぇ~さんって…もしかして?
「この感覚わぁ~って思ったけど…、やっぱりあなただったのねぇ~~、……オレン……」
オレンと言われた女性は、妖艶な笑みを見せ、その笑みは…クレアシアンと同じ雰囲気を持っていた。
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