第35話 戦況を変える一撃! 上

 …ゴーレムサイド…

 「こいつは…倒せない!みんなこいつから距離をとれ!」


 アルベルトが振り子の状態で叫んだ場所には、立ち膝の姿勢のゴーレムがいる。


 「どういうことだ?」

 ゴーレムの傍に立ったアイゼンが、見上げてアルベルトへと聞いた。

 振られているアルベルトは、アイゼンの近くまでくると手を離し、軽い身のこなしで地面に着地をした。


 「こいつはコアで動いている。そのコアを岩が守っているんだ。どういう原理かはわからないが…。岩を破壊しなきゃどうにもならない…。意思があるのは確かだが、コアが意思を持ったのかもしれない…とにかく、何か打開策が見えない限りは、倒す事は考えない方が良い。もし、こいつが砦に向ったら…その時は……?」

 アルベルトは何かに気付いて言葉を途中でやめた。


 「…その時は、撤退か…」

 アイゼンが言うが、アルベルトは聞いておらず、アルベルトの視線は、アイゼンの向こうにある道へと向けられていた。

 その傍でゴーレムは今にも立ち上がろうとしている。


 「どうした、アル?」

 アイゼンは、アルベルトの表情を見ながら、見ている方向へと視線を向けた。

 アルベルトの警告に次々とロープから降りた狩猟者は、そそくさとゴーレムから距離を置き始め、ポドリアンとグリフもいそいそと距離を取り始めていると、ポドリアンがいきなり立ち止まり、その動きにグリフも立ち止まった。

 ポドリアンは耳を澄まして何かを聞こうと試みていた。

 おかしな表情でポドリアンを見ているグリフも…なにかに気付いた。


 …そして……。


 「おぃ…この声は…」

 「…あぁ~、懐かしいのが帰って来た!」

 ポドリアンがニンマリとした笑みを浮かべて返すと走り始め、その後をグリフが追随をした。


 …?…


 一同が耳を澄まし始める。

 それは、どんどん大きくなってきていた。


「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「どぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


 確かに聞こえる声。

 その声を聴いたサーシャも道を見ると、駆け上がって来る姿が時間を置かずに見えて来た。


 音が先である。


 声が大きくなるにつれて、姿も大きくなる。

 その影は…3っつ…であり、小さく坊主頭の者が2人と耳をピンと立てている小さな影であった。


 アルベルトが目を細め、冷ややかな視線に変わる。

 「…アイゼン…ここを離れた方が良い」

 言葉を残してゴーレムから距離を取り始め、その行動に共にし始めたアイゼン。

 ある程度距離を取った時に、その頭上に真っ黒い塊が飛んでくるのが分かった…。

 それは…。


 真っ黒い車輪を4個つけている緑の箱のような塊であった。


 勢いを付けた塊は、今にも立ち上がろうとしているゴーレムの頭に向かい突き進んでいき、その頭にぶつかった瞬間に大きな地響きと真っ黒い爆炎、重く、破壊力のある爆風を伴った爆発を起こし、その爆風が、周囲を大きく揺さぶり、腹に響くような音と風圧が周りにいる者らを襲った。


 その音は…。


 …クレアシアンサイド…

 砦の中にも響いてくる……。


 「なんだ?」

 タイロンが声を出し、呪文を唱え、魔法を発しようとしているクレアシアンの指先の球が泡のように消えた。


 「…今のわぁ?」

 言葉を残して、クレアシアンは床に降り、窓へと進みだして、窓から外の光景を見る。

 その場には、真っ黒く上がっている黒煙に顔を包まれたゴーレムの姿があり、そして…聞こえてくる…声が…一つ…二つ…三つ……。


 「…何かしらぁ…この感覚ぅ~。なんかイヤな感じがするわぁ~~」

 目を細めているクレアシアンは、道へと視線を移した、すると………。


 …ゴーレムサイド…

 「おっりゃぁぁぁぁ、いしの化け物ぉぉぉぉ、俺がぁぁぁぁぁぶっとばぁぁぁぁぁぁす!」

 「どっりゃぁぁぁぁ、いしの化け物ぉぉぉぉ、俺がぁぁぁぁぁぶったぎぃぃるぅぅぅぅ」

 「がっりゃぁぁぁぁ、いしの化け物ぉぉぉぉぉ、僕がぁぁぁぁぁぶっとばぁぁぁぁぁぁす!」


 「おぉ?グンガ!来たか!」

 坂上に進んだポドリアンの声が響いた。

 その言葉通り…、そこには、丸坊主にバンダナを巻き、腰には藁で出来た腰当てに上半身裸のグンガが、坂を駆けあがって来る姿があった。


 「おぉ…!デブ髭、久しぶりぃ、もう始まってんじゃないかぁ!」

 「そうだ。遅かったなぁ~」

 「あぁ~、ミーシャが朝から説教うんたらかんたらでよぉ…んでもって…あの女がちょっかい出してきてなぁ~~」

 「あぁ~そうかい、そうかい…んでぇ、なんとかなるかぁ?あれ?」

 黒煙に包まれているゴーレムへと指を指したポドリアンに向かい。

 「あぁ~任しとけぇ!今、ぶっ飛ばしてやる!」と叫びながらポドリアンの前を通り過ぎた。


 「グリグリにデブ髭!久しぶりだな!」

 「ガリレオ…ってか、なんで、おまえら坊主なんだ?」

 「あぁ~、これには訳があるんだ…ってか、あの女の仕業だけどな…いつかぶった切ってやる!」

 「おぉ~そうかそうか…んで、あれなんとかなるか?」

 再び指を指すポドリアン。

 「あぁ、任しとけぇ~、今、ぶった切ってやる!」と叫びながらポドリアンの前を通り過ぎたガリレオ。

 その格好は、グンガと同じ藁で出来た腰当に、上半身裸で、坊主頭にバンダナであった…。


 …そして…


 「デブ髭にグリグリ!はじめまして!俺バシャラ!アレぶっ飛ばしに来た!じゃぁ~なぁ~」とバンダナを巻いたカンガルーの亜人が通り過ぎた…。

 「…おぉ~~って…誰だあれ?」

 「さぁ~」と隣に来たグリフが肩を竦めていると…、それから間もなく…


 「こぉ~らぁ~~、待てぇ~~」と女性の声…、

 「おぉ?レディ!久しいのうぉ!!」

 「おっ、おぉぉぉぉデブ髭にグリグリ!お久ぁ~~」と明るく答えたショートパンツに胸当て姿のレディGが通り過ぎる。

 「おぉ~、レディちゃん!なんとその格好わぁ~~」

 歓喜に満ちた声を上げたグリフ!

 「おぉ~グリグリ!お金くれるならちょっと触らしてもいいぞ!ヒトモミ金1憶枚で!」

 「え…えぇ~レディちゃん…もうちょっとまけてよぉ~~」

 「ぎゃはははは…」

 大きな笑い声が遠のいて行く…と…。


 「もうぉ~~待ってようぉ~~」

 大きな巨体に丸坊主…、そして、藁で出来た腰当てに上半身は、レディGが来ているような、女性用の下着みたいなものを付けているグラッパが近付いて来た。

 「グラッパ!お前ら、何て言う格好してんだ?」

 「あぁ~グリフさんに、ポドリアンさん…久しぶりですって…、なんか僕もぉ~同じ格好にさせられましたぁ~~」

 グラッパの格好を見たグリフとポドリアンは、その異様ないで立ちに思わず大声で笑い始めた!


 「でしょうぉ~、笑われるから嫌だって言ったのにぃ~~」

 「そうかそうか…グンガだろう!勘弁してやれ、あいつは面白いのが好きだからなぁ~」

 「え…えぇ~~」

 通り過ぎて行くグラッパへポドリアンが声をかける。


 「…んで?あとはミーシャとフレディかぁ?こいつら走っている順番は変わらないなぁ~」

 「がはははははそうだな!2年前と一緒だな。それに…仲間も増やしたみたいだな。」

 「あぁ~、とにかくこの情報が伝わって良かった!」

 ポドリアンが胸を撫でおろすと同時に………。

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