第34話 総力戦の結末… 下
なぜなのだろう、その靄の動きで、クレアシアンの弱点が分かったような気がした。
はっきりとは言えないが、彼女の弱点は…、その…余裕…なのだろう……。と思った瞬間。
クレアシアンの瞳が、止まっているように見えた景色のなかの動きではない、はっきりと…いきなり動いてアサトを捉えた…。
”!”
異様な感覚ではあったが……、間に合うか……。
ここまで来たら、止める事は出来ない!
大きく振り上げた妖刀からは、はっきりとは言えないが揺らめきが見え、その揺らめきは、大きく、また、イヤらしい程に血に飢えた感じが伝わって来ていた。
…間に合え!。
力はいらないし、間合いも分からない…、ただ、今を逃したらの思いで振り切った…瞬間であった…。
……力が…抜ける……。
アサトは空中を飛んでいる。
振り払ったはずの妖刀の感覚がない、…あれ?と思った瞬間に勢いがいきなり止まったと同時に体中が激痛に襲われ、壁に叩きつけられた感覚を覚えた。
受け身を取る時間が無かったせいでもあるのだろうか…。
滑るように壁を伝って床に転げ落ち、目を開けると…冷ややかな視線でクレアシアンがこちらを見ている。
その手前では、オークプリンスが…倒れ、そして…ジェンスの姿もある…ジェンスは…どうなった?
静まり返った部屋には、クレアシアンの手前で倒れているプリンス、そして、クレアシアンの横に倒れているジェンスの姿があり、アサトの傍にはアリッサが寄り添っていた。
頭を抱えているタイロンの姿もあり…。
…そうだ…システィナさん達は…。
ゆっくり視線をクレアシアンからシスティナらへと視線を向けた時、目の前に向かって駆けだしてくる足音が聞こえて来た。
その足音は近づいてくる…そして…。
「ジェンスさん…ありがとう!…エル、エボルケルノ!」
システィナの声であった。
その動きを見ていたクレアシアンの表情が一瞬凍ったように見えたアサトは、その視界が輝きに満ち始めているのが分かった。
クラウトである。
クラウトの神の癒しが降り注がれている…。
……力が…。
「アサト君立って!今…やらなきゃ!」
「え?」
「ジェンスさんが…オーブを奪った!」
その言葉に目を見開いてジェンスを見ると、ジェンスは床をはいずるようにその場を後にしていた。
…え?…えぇ?……。
光が収まる間も待たずに立ち上がり始めるアサト。
「……これって……。」
クレアシアンは、床から立ち上がる真っ黒い炎を腕を払いながら避けていた。
その胸には…、今まで着いていたペンダントトップが…無い!
確認したアサトは、クレアシアンの近くにあった妖刀を見つけ、その場へと駆け出した。
「…いつまで続けるつもり…」
怒りに満ちているような声をあげるクレアシアン。
そのクレアシアンに向かい、ロッドを小さく上下に動かしているシスティナの姿があった。
妖刀に近づくアサトの動きを見たシスティナは、大きく息を吸い込み…
「大きく立ち上がれ!」と両手を下から上へと力強くふり上げると、クレアシアンの手前で黒紫色の炎が一直線に立ち上がって壁になり、クレアシアンの視界を奪った。
「…小娘!」
声を荒げるクレアシアン…と次の瞬間!
黒紫の炎の壁を突き破り、アサトが太刀を振りかぶって出て来た動きには、さすがのクレアシアンも驚きの表情を隠しきれなかった…。
「なぜ!」
クレアシアンは予測をしていた、払いながらもアサトの動きを見ていた。
その動きは…、『妖刀』を取りに行く動きであったはずが…。
アサトが出て来た場所は、妖刀が転がっている場所では無く、それよりも逆と言っていい場所であった。
「…ッチ!」
目を見開いて、小さく動き始めたクレアシアンに向かい、アサトは大きく振り上げた太刀を鋭い振りで振り切った!
その感覚は…確かに斬った感覚がある!
「いっやぁ~~~」
部屋中に響くような悲鳴をあげたクレアシアンは、一歩、また、一歩と後退を始め、振り切ったアサトは瞬時に、太刀を両手で持って構え、次の攻撃を繰り出す。
その攻撃を腕を使って払い出したクレアシアン…いや、よく見ると、手には黒紫の鞭のような揺らめきが出ている。
繰り出しているアサトの太刀を、その鞭で払っているようであり、何度か重ねるアサトのその攻撃を、黒紫の鞭で防いでいた…そして…。
「坊や…いい加減にして!」
声を出した瞬間。
真っ黒な渦がクレアシアンを囲みだし、その渦の中に身を隠したクレアシアン。
渦は、ある程度大きくなると赤紫の球体へと分離し、その球体が四方八方に広がると、ゆっくりと円を描きながら渦を巻き始め、天井まで駆け上がり、天井を這うように移動したのち、アサトらと間合いを開けた場所に落下すると、ゆっくりと人の形に戻り始め、再び、クレアシアンとなってその場に現れた。
荒い息のクレアシアンには、余裕の表情が無く、追い詰められた表情であった。
アサトは太刀を両手で持ち、転がっている妖刀は、ケイティが回収し、ジェンスは、ペンダントトップをタイロンへと渡すと、受け取ったタイロンは、ポケットにしまい盾を持ち直し、アリッサも立ち上がり盾を両手で構えた。
クレアシアンの顏には…斜めに入った刃の傷があり、その傷からは数本の細く赤い線が下へと延びている。
真っ赤な血は滴り、アサトの一閃は致命的では無かった事を物語っていた。
……でも…これでいい…。
「もう…これで終わりにしましょう…」クラウトの声が聞こえる。
「あなたを守るものは無くなった。」
「作戦ね…。」
「そうです…、恥ずかしい話ですが…。うまくチームワークがとれました……。」
「…そうね……。でも…、違うわメガネ君。これは…、勝ちでは無いわぁ…」
クレアシアンは、言葉を発すると目を閉じ、大きく息を吸い込み、そして…、吸い込んだ分の息を吐き出すと目をゆっくりと見開き、腕を上げ始めた。
その行動に伴い、再び浮き始めるクレアシアン。
足元から吹き上がる風が髪を上昇し始める。
「…これは…始まり…。もういいわぁ…ここでみんな…仲良く死になさい…」
クレアシアンの言葉は冷たい声の質になり、見下ろす仕草になった。
指先からは小さな光の線が空気を裂く音を伴って発せられている…。
「終わりよ…、坊や……。色々あるし、頼まれたけど…もう…どうでもいい。…ナガミチに会えたらよろしくねぇ…。エル…グラビディア!」
呪文を発したクレアシアン…。
その指先からは真っ黒い球が現れ、急速に膨張した後、真っ白な雷を発しながら、今度は、急速に縮小した…。
「私以外…ここから数キロの場所が消えるわぁ…さよなら…」
クレアシアンが重く冷たい言葉を残した瞬間!!
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