第31話 始まる、力と力のぶつかり合い 上

 「…そうでなければ、お嬢さんでは無いわねぇ~~」


 クレアシアンは小さく笑みを見せると後退を始め、アサトらとの距離を取った。

 警戒は解かないアサトらは、タイロンとアリッサを先頭に、アサトとケイティが就き、その後方には、ジェンスとクラウト、セラとシスティナが一番後ろに立っている。

 一塊になるのは得策ではないが、部屋の状況から言って、この状態が一番安心なのではないかと、一同が思っていた。

 敵は…クレアシアン一人……。


 クレアシアンは、ゆっくりと窓の外へと視線を移すと、外では、横たわっているゴーレムに群がる狩猟者の姿が見え、その近くの陣形を取っている中に、見慣れた姿も確認できた。

 真っ白の防具に身を固め、真っ白い盾に大きな剣を持つアイゼン、そして、その傍らには、真っ白のローブに、長い金髪が風になびいているサーシャの姿を…。


 その両名を確認すると小さく笑みを見せた。


 「外も忙しそうね…、でもぉ…、こっちもそうだけどぉ~、あっちも楽しませなきゃねぇ~~」

 左手をゆっくりと外に向け始めたクレアシアンの行動に、目を細めているアサトら一行は、何が始まるのかを見ているしかなかった。

 クレアシアンの左腕がまっすぐに水平に上がると、しなやかに人差し指をあげ、小さく動かし始めた。

 その指先は、まるで空中に文字でも描くような感じである。


 「…あっ……」

 アサトの後方から声が聞こえ、その声に反応するように振り返る一同は、システィナを見た。


 「刻印を刻んでいる…。」

 一同の視線に言葉を発したシスティナ。


 …刻印?


 アサトは、再びクレアシアンへと視線を移すと、クレアシアンの指先はすでに止まっていた。

 「さぁ~、あなたを自由にしたわぁ~、好きなように暴れていいわぁ~~」

 妖艶に笑みを見せながら、うっとりとした表情で外を見つめているクレアシアン。

 アサトらからは外の光景が見えない。


 …何が…はじまる……。

 アサトの胸がざわつき始めた……。


 ……ゴーレムサイド……

 「!」

 アルベルトの視界。

 視界にはない、なにか異様な気配が感じられ、身を震わすような感覚に襲われるが、その感覚がどこからなのかはわからなかった、だが、様子は変わっていないが、何かが変わったのは確かであり、突き刺している槍から脈動のような動きが伝わってきている。


 「…!」

 その感じは、今度は足元にも感じられ、小さく震え出すように動き出した足元は、何かの生き物の感覚に近い感触が、突き刺している槍から伝わって来た。

 槍を持ったままで辺りを見渡すと、辺りにいた狩猟者も感じているのであろう、しきりに辺りを見渡し始め、そのなかには、ポドリアンとグリフ、ロマジニアの姿も見えていたが、彼らは微動だにせずに足元に力を入れて立ち、揺れる足元をみていた。


 …なんだ?この感覚……!!。


 アルベルトは槍を抜き、なにか来る感じを体全体で感じた。

 「…足元だ!気を付けろ!」

 叫ぶ声に、ゴーレムの背中に居た狩猟者が、一瞬アルベルトを見てから足元へと視線を移した瞬間!。

 足元から何かが浮き上がって来たと思うと同時に、先端が鋭くなっている岩が突き出し始め、至る所から飛び上がるように突き出し始めた岩の先は、多くの狩猟者らへと襲いかかっていた。


 「…!」

 間一髪!アルベルトは、その場から逃げるように、ゴーレムの背中から飛び出してくる岩を巧みに避けながら、下へと飛び降り、ゴーレムの背中に居た狩猟者らも、一斉に退避を始めた。


 「退避だ!タイヒィ~~」

 ポドリアンの声が聞こえてくる。

 アルベルトは、あらかじめゴーレムの首に巻き付けていたロープを掴みながら、ひらりと降りているが!。

 降りている先に見えるゴーレムの脇からも、岩が先を鋭くさせ、猛烈な勢いで突き出し始めた。


 「…!」

 行く手に数本の尖った岩が突き出てくる。

 その岩に当たらないようにロープを使って回避するアルベルト。

 背中付近では、悲鳴にも似た声が無数に上がり始めた。


 「ぎゃぁ!」

 太い悲鳴と共に何かが高く飛んでいる…。

 真っ黒く小さなナニか…、アルベルトは、岩々の攻撃を避けながらその影を視界にとらえた。

 …ポドリアンである。

 ポドリアンは、盾を使って岩を防いだようであったが、突き出た岩に弾かれたようであり、高々に飛んでいた。


 ゴーレムの背中から転げるように落ちてくる狩猟者の姿に、ガタイの大きな髭面のグリフの姿もあり、また、飛び出している岩を利用しながら進んでいる、ロマジニアの姿もあった。


 「…ッチ。いままで沈黙していたのか…」

 アルベルトはロープを振り子のように使い、衝撃の無いように地面に落ちると、素早くその場を後にした。


 ある程度距離を取ったアルベルトは、ゴーレムへと視線を戻すと、飛ばされていたポドリアンの姿は無く、脚を引きずったり、腕を庇ったり…また、支えられたりしている狩猟者らの姿が見え、その向こうでは、ゴーレムが腕を伸ばし、膝を折りまげて立ち上がろうと言う体勢を取り始め、距離を置き始めている狩猟者の中に、グリフに抱きかかえられているポドリアンの姿も見えた。


 「…デブ髭は無事か…」

 確認したのちに視線をアイゼンへと向けると、アイゼンは、辺りにいる狩猟者らとなにやら話をしていた。

 ゆっくりと地響きを立てながら、動き始めているゴーレムから距離をとったまま、アイゼンの元に歩き始めたアルベルトは、横目で動きを確認していた。


 …クレアシアンサイド……

 「フフフ…、これで、外も面白くなるわぁ~~」

 外に視線を向けていたクレアシアンは、ゆっくりとアサトらへと視線を戻した。

 「…さぁ~坊や達ぃ…。始めましょうぉ…」

 真っすぐに伸ばしている左腕を、アサトらへと向けたクレアシアンは、薄い笑みを浮かべた。


 「…来るぞ!」とタイロンの声に「ハイ!」とアサトが返す。


 その言葉を聞くと同時に、間合いを詰め始めたタイロンとアリッサ、その動きに同調するアサトとケイティ。

 4人の動きを見ているクラウト、システィナにジェンス、そして、セラの姿は、その場にとどまっていた。


 「オークプリンスの準備を」

 セラへと言葉をかけると、その言葉に弾かれたように、肩から下げていたバックを漁り始め、クラウトとセラの前に、ジェンスが黒い刃を持つ剣を突き出して立った。

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