第30話 交渉は、決裂! 下

 「そのお嬢さんのぉ…命ねぇ~~、そもそもぉ~、お金で解決ぅ?するくらいなら誰も殺したりしないしぃ~、罪なんてぇ~、わたしにとってわぁ~、関係ないわぁ~、恨まれるぅ?そうでしょうねぇ~、それを考えれるくらいのぉ~、理性があればぁ~、魔族なってぇ~存在しないわぁ~」

 クレアシアンはうっとりとした表情をクラウトに向ける。

 「わたしわぁ~、わたしの欲するものを、力で掴む…それがぁ~、わたしの生き方でぇ~、やり方なのぉ~。そして…これが、魔族なの!…覚えておきなさい!」


 クレアシアンの言葉に弾かれたように、アサトは妖刀を抜きながら前に進み出た。

 「…クラウトさん!話はここまでです。仲間は、誰にもやらない!命も奪わせない!僕は、僕の仲間を守る。」

 アサトの言葉に触発された一同は武器を構え、前に出たアサトを見ながら、少しずつ浮き上がるクレアシアンは、1メートル程の高さで制止した。


 「闇と光の神に仕えし、ドラゴニアの神よ…わたしに力を……」

 システィナの言葉が聞こえると、アサトの前にタイロンとアリッサが立ち、アサトの後方にケイティが就いて背中に手を当てる。

 ジェンスとセラは、クラウトらの傍により、システィナは、ロッドをクレアシアンへと向けて小さく動いて、クラウトの傍まで近づいた。


 「交渉決裂ね…。坊やもぉ、たくましくなったわねぇ~。おねぇ~さんうれしいわぁ~~」

 顎を小さく上げて見下ろしているクレアシアンの姿を、一同は戦闘態勢で見上げていた。


 しなやかに中指をあげ、人差し指と中指が並ぶように平行に上がる。


 「来るぞ!」

 「光の神よ、わたしに力を…5層の防御!」

 クラウトの声が聞こえると同時に、8人に光がまとわり始め、層を作り出している。

 前までは5層だったが、今回は8層であり、アサトらの目の前には、キラキラと光る点が無数に見えていたが、その点は、視界に対しては邪魔にならないように、視界の横に散らばって見えていた。

 目の前にいるタイロンとアリッサが、盾を前に出して腰を降ろし、その後ろにアサトが立ち、タイロンの背中に手を当て、アサトの後方のケイティも掴んでいるアサトの服に力を込めた。


 「エル…、ウインデアウ!」

 「エル…、ホークデム!」

 システィナの呪文であろうか…、その言葉が早かった感じがしていた。


 クレアシアンの上に小さな点が8個現れ、いびつに伸縮をした後、先の鋭い黒紫色をした結晶に変わり、空気を斬る音を伴いながら、アサトらへと突き進んできた!

 目の前にいるタイロンとアリッサが盾を上げて防ぎ始めるが、目の前に来た瞬間である。


 ……?


 衝撃に備えていたタイロンとアリッサが目を強く閉じ、アサトも首を縮めていたが…。


 静まり返っている雰囲気に目を開けたタイロンが、隣のアリッサを見ると、アリッサも同じ状態であり、衝撃をこらえようとしていたアサトも、恐る恐る首を上げた。

 盾越しにタイロンとアリッサ、その後方のアサトが一緒に視線を向け、ケイティは、事の成り行きをしっかりと見ていたようだ。


 4人の目の前には、空中に浮かんでいる結晶が小さく揺れながら、空気を裂くような音を立てていて、その向こうには、目を細め、冷ややかな視線をむけているクレアシアンが浮かんでいた。


 目が合うアサト。

 冷ややかな視線のクレアシアンが、まっすぐ水平に伸ばしている手を、小さく右から左へと払うと同時に、アサトらの視線の左から右へと、空間で止まっていた結晶が、次々と閃光と大きな爆発音、小さく砕ける炎と真っ黒な爆煙を伴い、砕け散り始めた。


 その風景には記憶がある。

 その記憶は、ドラゴンとの戦いの時であった。

 あの時も、ドラゴンから発せられた炎の柱を受け止め、赤黄色い光が何かに遮られていた時と状況が同じであった。


 アサトは目を見開いて、黒くもうもうと上がる煙から落ちている炎を纏った結晶を見てから、視界が晴れる前に視線をシスティナに移す。


 …これは…、闇の魔法なのか……。


 視線に気付いたシスティナが、アサトへと視線を向けて小さく頷いた。


 …すごいな、システィナさんは…。

 感心してしまった。

 …これが…闇系の魔法…なのか……。


 暗雲が一同の目の前に広がり、その中から再び空気を切り裂くような音が、次々と聞こえてくると、目の前で、空中に空気を裂くような音を立てて止まり、息をつく間もなく、大きな閃光と爆発音が、左から右へと走り始め、閃光の輝きと爆発時にあがる、赤と黄色の混ざった色が辺りを照らし出した。


 クラウトを先頭にセラとジェンス、そして、システィナが、アサトらの後方へと就いた。

 それと同時に、再び結晶が襲ってきては爆発をし、暗雲は、重々しい色を伴いながら何重にも重なり、その暗雲を伴いながら突き進み、そして、突き刺さるような感じで空中に結晶が止まった瞬間に、流れるように爆発を始め、再び、辺りが眩いばかりの光に映し出された。


 …何度か、同じような攻撃が続いたのち、静寂が部屋を覆い、その静寂と共に暗雲が、風に流されるかのように窓の向こうへと流れ始め、ゆっくりとはれる暗雲の切れ間から、徐々に見え始めているクレアシアンの表情は、なに一つ変わっていなかった…。


 ……ゴーレムサイド……

 「アイゼン!」

 サーシャの声に、ゴーレムからサーシャに視線を移すと、サーシャは指を指していて、その方向へと視線をむけた先には、砦2階から暗雲が外に流れてくるのが見えた。


 「…交渉は決裂と言う事か……」

 小さく吐くようにつぶやくと、ゴーレムへと視線を向けた。


 「アル…、交渉は決裂だ!それが何かを始める可能性がある、用心しながら食い止めてくれ!」

 叫ぶように発したアイゼンの言葉に頷きながら、横たわっているゴーレムの首元に槍を突き刺し左右に大きく振り出し始めた。


 「…とにかく…、こいつは生き物なのか?」


 ……監視サイド……

 「ケビン!始まったみたい!」

 チャ子の声に振り返ったケビンは、遠くからあがる暗雲へと視線を向けた。

 「…大丈夫なのかなぁ……」

 オースティがつぶやく、その隣にいたトルースも、神妙な表情で立ち上がる暗雲へと視線を向け始めた。


 この戦は、自分らでは太刀打ちできない事を、今朝の雰囲気で感じていた一同は、この道を守る事に専念すると決めていた。

 大きな暗雲が、どのように出来たのかを見たい気持ちはあったが、この場を離れる事は出来ない。

 ケビンは、レニィがいない分、一応パーティーリーダー補佐として、まとめなければならない、だから…、今はみんなの勝利を祈るしかなかった…。


 「…大丈夫。アサトらは、俺たちより多くの死線を越えて、ここまで来たんだ。だから…大丈夫だよ……」

 ケビンの言葉に小さく頷くチャ子は、高々にあがる暗雲を見入っていた…。 ……と、なにか聞こえる。


 …なに?聞いた事の無いような音…。

 ガタガタ?って…。

 ドドド…って…

 …え?なになにぃ………


 チャ子は耳を立てて、音が聞こえる方向を探り始めた。

 その音は…確かにこの道を駆けあがって来るような…聞いた事の無い音であり、馬車の車輪のような音だが、その音の動きは馬車の車輪ではない…。

 チャ子だけではない、隣のケビンも気付いたのか、ゆっくりと振り返り、道の先へと視線を向ける。

 その2人以外のトルースやオースティ。そして、ベンネルも視線を向けた。


 向かってくる…何かが…なんだぁ?


 その姿は、土煙を上げ、物凄い速さである事は確かであった…。

 「……なにがくるのぉ………」

 チャ子らに向かって、確かに突進してくる…それは、ほどなく形を見せ始めた………。


 「な…なに…あれぇ………」

 チャ子が目を大きく見開いて、その形に目が釘付けになった。


 そのモノとは………。

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