第28話 異常さゆえの考え 下
「…わたしにぃ~、誰かぁ~ちょうだいぃ~……」
「え?」
思わず声を上げたアサト。
クレアシアンの指は、アサトの首の後ろ側にあり、その指が小さく円を描いて見せていた。
…ぼくぅ?…。
何故か、そう思ったアサトは、小さく息を飲んだ。
その行動も分かっていたのか、クレアシアンは、再び小さく笑って見せた。
「誰かって…。それで、トンネルの解放してくれるんですか?」
アサトが言葉にした。
「そうねぇ~、…えぇ、おねぇ~さんわぁ、約束は守るわぁ~。」
「それは…呑めません…。私たちがここに来たのは、トンネルの解放ですが、目的は、他にもあります」
クラウトが、真剣な表情で言葉にした。
そうである、解放も目的だが、根本的な目的は、クレアシアンの討伐である。
お腹に子供がいるので、殺生はしないで確保を優先する事になっている。
確保後は、アイゼンが指揮をとり、罪を償わせると言う事であった。
「他にもぉ?」
「そうです。あなたは、トンネルの通行妨害の他に、殺人をしています!」
「あらぁ…身に覚えが無いわぁ~」
とぼけた表情を浮べたクレアシアンだが、その表情は、本当に身に覚えが無いような表情に見えたクラウトは目を細めた。
「…身に覚えが無いって…」
アサトが呟く。
「わたしわぁ~、誰も殺して無いわよぉ…」
「…ウィザさんの息子…、そして、約1年前の爆発事件。…アサトの師匠、ナガミチさん……」
ハッとした表情のクレアシアンは、本当に身に覚えが無いようであり、その表情を浮べた後に妖艶な笑みをクラウトに向けた。
「…そうねぇ~、誰の子供だったかわぁ、忘れたけどぉ~、確かにぃ、子供を殺したって言うのわぁ~、あなた達が感じている事ねぇ~」
「感じているって…」
再び呟くように吐き出したアサト。
そのアサトから手を離したクレアシアンは進み、一同が見えるテーブルの先端に立った。
「あの子わぁ、殺したんじゃないわよぉ~、解放をしたのぉ~。私の要求に答えれない人間の下で生きるのは過酷じゃないぃ?だからぁ…無になれる場所に送ってあげたのぉ…」
「無って…」
アサトは、クレアシアンへと視線をむけた。
「それにぃ…街の人が死んだのは事故よぉ。私にぃ刃を向けた人たちからぁ、私自信を守るために行動した結果。爆発しちゃったぁ…って事だからぁ…、正当防衛でしょうぉ?」
「…それって…」
「フフフ…それにぃ…」
言葉を出していたアサトに向かって視線を移したクレアシアン。
「ナガミチは生きているのぉ…、ここにぃ…。」
大きくなったお腹を擦りながら妖艶な笑みを浮かべた。
「その子は、ナガミチさんの遺伝子を受け継いでいると思いますが、ナガミチさんでは無い!」
クラウトが言葉にすると、ゆっくりと視線を移したクレアシアンは、余裕とも言えるような笑みを浮かべていた。
「だいたい、あなたが言っている事は、道理ではない!人の死は…」
「そう、人は死ぬわぁ…。」
クラウトの言葉を遮るようにクレアシアンが話を始めた。
そのクレアシアンを一同が鋭い視線で見ている。
「死んだら終わりなのよねぇ~、まぁ…中にわぁ~、死者を生き変えさせるモノもいるようだけどぉ、まともに生き返った事は無いのよねぇ~。ナガミチとアズサにわぁ、生きる選択肢を与えたわぁ…」
「選択肢…」
アサトがつぶやく。
その言葉を聞いたクレアシアンは、今度はアサトを見て、何かを思い出したのか、目を小さく開き、思い出した表情を見せた。
「…ごめんなさい…。アズサには選択肢は与えてなかったわぁ…」
「え?」
「…まぁいいわぁ~。アズサの話しは、あなた達には関係ないですものねぇ~」
そう言われればそうである。
アサトはクラウトを見ると、表情は変わってはおらず、これからクレアシアンがどういう言葉を話すのか、一言一句聞き漏らさないような表情で見入っていた。
「選択肢を与えても尚ぉ、死を選んだぁ…、それがナガミチよぉ~、わたしわぁ~、死への切符を渡しただけぇ~」
「それ…って…」
アサトの言葉はつまずいていた。
「フフフ…、人は死ぬわぁ~、誰でもぉ…人だけではないわぁ~。生があるモノには死があるぅ。ナガミチを殺したんじゃないわぁ~、それにぃ…アズサもぉ…。わたしわぁ~、死に対するきっかけを作っただけよぉ~~」
妖艶な笑みは、深い闇を伴っているように見え、その笑みには、なんの悪びれた様相が無く、反対に言っている事が正論であると言う自信にも満ちているようであった。
「可笑しい…ですか?」
アサトの言葉に笑みをやめて目を細めたクレアシアン。
「死を笑えるのは…、僕から言わせてもらえば…、それっておかしいです…。」
「どう解釈すればいいのぉ?」
「あなたは、変です。異常です!。死は誰にでも起こる事、僕らは、生きている。…今思ったんですけど、僕らはみんな、戦っているんです…。死と言う、絶対に倒せない敵と…。毎日、こうしている時にでも…、ナガミチさんの死は…、いずれ来る事だと思いますけど…。あなたがいなきゃ……」
自然に握りこぶしを作り、その拳に力が込められていた。
ナガミチとの修行風景や些細な会話…それに、傍若無人な振る舞いまでもが鮮明に脳裏に蘇り、また…、大きな戦いの後に見える、大きな笑みを見せているナガミチの姿が浮かんだ。
もし…彼女に、死の呪いをかけられなければ…今頃も生きていたかもしれない…。
一緒に旅をして、色々学べたのかもしれない…。
アサトの奥底にある思いが、爆発しそうな勢いを伴って言葉を発していた。
「今頃も…生きていた…」
「フフフ…、そうかもねぇ~、でもぉ…これが現実よぉ。タラレバの世界で生きたいならぁ、くだらないライノベでも読んでぇ~、サイキョウとかと言う、非現実的な英雄になった気分で隠れていればいい…」
「ライノベ…って?」
アサトの隣のケイティが小さく言葉にする。
「…古の本よ…まったくくだらない…。現実を直視できないでぇ、架空の物語に逃げたい人間が作りぃ、見て、読む物…。現実は甘くは無いわぁ~、坊やも若いのねぇ~。」
「…そうですね…。そのなんとかってのはわからないですけど…。隠れて居られるなら…隠れていたい…でも…。そうですね…これが…現実ですから…」
俯いて答えるアサトは、何かに踏ん切りをつけた表情に変わりクラウトを見た。
クラウトの表情も一層険しくなり、その2人を見ていた一同も息を飲み始めた。
「もう一度聞きます…投降してもらえますか?」
クラウトの言葉である。
「もう一度聞くわぁ~…誰かちょうだいぃ…。そうねぇ~、メガネ君わぁ~賢いから候補ねぇ~…そして…」
一同を見渡すクレアシアンはクラウトに向って発すると、じっくりと品定めするように一人一人を見始めた。
口角を緩めながら、何を基準で選ぶのかはわからない。
アリッサ…タイロン…そして…システィナ…と視線を動かし、ある場所に来ると 「あらぁ?」と小さく言葉にして目を細めた。
その者をじっくりと見る。
冷たく鋭い視線がしばらくその場にあった。
その視線の先にいた人物は……。
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