第27話 異常さゆえの考え 上

 …ゴーレムサイド…

 「…ッチ、ったく、こいつはどういう原理で動いているんだ?」

 アルベルトは、倒れているゴーレムの背中に乗り、先の鋭い槍を突き刺しながら吐き出すように言葉にした。

 その周りでは、同じように槍を突き刺している狩猟者の姿が見えている。

 ゴーレムは、突き刺されているが、悲鳴を上げる事も無く、再び、立ち上がろうと動き始めていた。


 「アルさん。急所と言う急所に槍を指しているんですが、どうも反応が無いですね…。生き物なんですか?」

 「あぁ…、こうなれば、それも疑わしいな…。」

 「生き物じゃ無ければ、なんですか、こいつは!」

 「…ッチ、俺に聞くな…」


 立ち上がり始めたゴーレムの背中から、飛び降りながらつぶやいたアルベルトの行動に、周りの狩猟者も同じくゴーレムの背中から飛び降り始めた。

 ゴーレムはもっさりとした動きで立ち上がる。


 「…今度は右だ!」


 アルベルトの言葉に一斉にゴーレムの右側へと動き出した狩猟者。

 立ち上がったゴーレムは、移動している狩猟者に向かい左足を大きく踏み出したと思ったら、上体が倒れ始めた。


 「…ったく…学習能力がないのか?」


 ゴーレムの左右の足首を拘束するようにロープが張られてあり、そのロープは、歩幅より狭く、ゴーレムの動きを完全に止めていたのであった。

 要は、脚に付けている錠のようなモノである。

 ゴーレムの周りには、ゴーレムが倒れ込んだ後が何か所かにわたって、大きな窪みを作っていた。


 「ほんとにこれでいいのか…アイゼン…」


 倒れ込んだゴーレムの背中に再び登ったアルベルトは、槍を脇へとめがけて突き刺し、その状態でアイゼンへと視線を移した。

 アイゼンは、砦を鋭い視線で見ていた。


 …クレアシアンサイド…

 その砦の中では…。


 「投降…と言う事にしておきましょうぉ…それでぇ~、もし私が拒否をしたらぁ~、坊や達はどうするつもりなのぉ?」

 クレアシアンは、クラウトを真っすぐな視線で見ると、メガネのブリッジを上げて、視線をクレアシアンから離さずに見ていた、クラウトの姿がそこにあった。

 その行動だけでも予測は出来そうだと言うか、クレアシアンは、予測をしていて聞いていると分かるような表情に見えた。


 「そうねぇ~、確かにぃ、以前よりも力は使えないしぃ、これだけお腹が大きくなるとぉ、おねぇ~さんもそうだけどぉ、お腹の子も疲れるのよねぇ~」

 「なら…。」

 クレアシアンの言葉に返すアサト。

 「でも間違えないで坊やぁ。」

 ゆっくりとアサトへと視線を移す。


 「おねぇ~さんわぁ~、こんな体でもぉ、坊や達の相手くらいは出来るわぁ~」

 余裕の笑みである。

 その笑みは目尻を下げ、そして、完全に瞳を閉じた笑みであった。

 こんなに近くにいるのに、手を伸ばせば、トップがつかめる場所にいるのに、あまりにも無防備すぎるのではないのか、それとも、挑発しているのか…、


 …ほんとうに……。


 アサトは生唾を飲んだ。

 あまりにも自分らに優位があると思われるのに、手を出せないし、手を出していいのかもわからない状況に、息が苦しくなるのを感じていた。

 その感じが分かったのか、ゆっくりと瞳を開けたクレアシアンはアサトを見た。


 「…迷っているのねぇ~、ほんとに坊やは可愛いわぁ~~」

 クレアシアンは、その場から離れると、アサトの後方へと進みだし、その行動を、クラウトらの列に座っている者らが凝視している。


 「…アイゼンさんの提案なのかぁ~、それともぉ、メガネ君の提案なのかはわからないけどぉ…。ここに来た理由はぁ、トンネルの解放よねぇ?」

 アサトを過ぎたクレアシアンはケイティの後ろを進む。

 その前では、ケイティがお茶を飲みながらクッキーを頬張っていた。


 「…だいたい見当は付いているのよねぇ~。」

 ケイティの後方を過ぎて、緊張している表情をみせているジェンスの後方を過ぎると、お茶とクッキーを頬張っているセラの後ろに差し掛かった。

 「…そうねぇ~、」

 人差し指を軽く唇に持ってきたクレアシアンは、何度か小さく薄い下唇を、弾きながら考えを巡らかしている。

 その最中でも動きは止めないで、セラの後ろを過ぎると、ゆっくりと振り返り、来た順路を戻り始めた。


 「ならぁ…わたしからの提案…してもいいかしらぁ~~」

 「提案?」

 クラウトの瞳が鋭くなる。

 アサトは、後方から聞こえるクレアシアンの声を聴きながら、クラウトの表情をただ見ていた。

 その表情は、予想をしていた表情にも感じた。


 隣のケイティは、カップに入っているお茶を一気に口に含むと、口の中にあるクッキーを一緒に飲み込んだ。

 ケイティにも感じたのだろうか、その後は、クッキーには手を付ける様子が伺えなかった。


 「そおぉ…提案。」

 アサトとケイティの座っている席の後方へ立ち、クラウトを見据えるクレアシアン。

 「いいでしょう…、その提案は、聞くだけは聞きます。」

 「フフフ…。私の提案わぁ~~」

 小さな笑い声を出したクレアシアンは話し始めた。


 「トンネルの解放はしてあげるぅ…、あのトンネルわぁ、別に塞いでいた訳では無いのよぉ~、現にぃ、向うから来る人らは通っていたでしょぉ?それにぃ…こちらから向かう人もぉ、ちょおっと意地悪していただけぇ~~、誰も殺してないしぃ…、いつの間にかぁ、ココを通らなくなったのわぁ、街の人たちが勘違いしていたからなのよねぇ~~。」

 「勘違い?」

 クラウトのメガネが小さく光った感じがした。


 「そおぉ…、最初の1年わぁ、わたしのペット…、あのゴーレムがぁ、ちょっと道を塞いで、通りかかった人達の行く手を阻んだだけなのよねぇ~~、それ以来、ココを誰も通らなくなったのよぉ~~」

 笑みを浮かべながら話している彼女の表情が浮かんでいた。


 …どこまで、バカにしているのか……。


 アサトだけではない、クラウトの眉間に寄った小さな皺にも、同じ気持ちを持っていると思った。

 「まぁ~、別に良いわぁ~、トンネルは開放するわぁ~~、その代わりにぃ…」

 動き出すクレアシアン。

 椅子の背もたれに手を置いた感覚がアサトに伝わる。

 その手がしなやかに、そして、愛撫するかのようにゆっくりと動き出したのも感じていた。

 その細い指が背もたれの上部を移動して、アサトの肩に差し掛かり、その指がアサトの肩で、愛らしく動いていた。

 なんともいやらしく、そして、妄想を掻き立てられるような動きにアサトは背筋を伸ばして反応を見せてしまった。

 その反応に小さく笑うクレアシアン。

 アサトが、どう動くか、どう感じるかが分かっているような行動であった。

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