第24話 クレアシアン討伐戦 開始! 下
大きな盾と戦斧を持ったポドリアンと、これまた大きな盾と両刃の大剣を手にしたグリフが現れ、その後からフードに小さなイミテウス鋼で作られた胸当てと肘あてを付け、長剣を手にしてロマジニアが現れた。
アルベルトを先頭にグリフとポドリアンが立ち、その後ろにアイゼンとロマジニアが立つと、その後方にサーシャとテレニア、レニィとアルニアが立ち、サーシャに耳打ちをしている白衣のエイアイの姿があり、一同は、道を塞いでいる石へと視線を真っすぐに向けていた。
そのパーティーを先頭に、他のパーティーも各々の位置についた。
アサトらは、動きが止まった陣の真ん中に固まっている。
アルベルトらが動いたら一緒に動き、ゴーレムと衝突したら、その脇を通り抜けて砦へと向かう。
「ほんとにあの女は、言ったんだな。」
アルベルトの声が聞こえ、その声に小さく頷くアサト。
「ハイ。確かに…言っていました。ゴーレムと彼女だけで待っていると…」
「それでいいのか?」
ポドリアンが怪訝そうな表情を見せている。
「彼女の力を考えれば、考えられる事。それに…」
サーシャが言葉を切らしてアサトへと視線を移した。
「彼女の興味は…アサト君に行ったって事なのかも…。とにかく…、これが終わったら、その髪を切りなさいね!」
サーシャの言葉に小さく照れるアサト、その肘を掴んだシスティナがいた。
システィナを見るアサトに小さく頷いて見せている。
システィナもそう思っているのかもしれない。
耳が隠れるほどに長くなっている髪、確かに目にかかる程であり、ぼさぼさなのは分かっていた。
周りは髪を切っていて、しっかりと整えている。
システィナも髪は長くなって、背中の真ん中あたりまで髪が来ているのが分かった。
「お互い、これが終わったら切ろうね…」
システィナが優しく声をかけて来た、その言葉に頷いたアサトは、視線をサーシャに向けた。
サーシャは前をすでに見ていて、隣にいるエイアイは、アサトへ笑みを見せているのであろう、マスクが微妙に動いていた。
…なんで、エイアイさんがいるの?
「じゃ…行くぞ。…後は、手はず通りに…。」
アルベルトは、そう吐き捨てるように言うと進みだした。
腕組みをして進む姿は、これから戦いが始まると言う雰囲気では無く、慣れているような感じであり、辺りを見渡しながら進む歩調には迷いも無く、自分の場所と言う感じの余裕のある進みであった。
アサトの前にいるアイゼンらは武器を手にし、アルベルトの動きを注視していて、アサトらの横にいるパーティーは、縄を用意しているのであろう、何人かが長いロープを担いでいるのが見えた。
アルベルトと岩の距離が近付いて行く…。
アルベルトは冷ややかな目で岩を見ている。
その距離は20メートル程であろうか…。
「おぃ…そろそろ動け…ってか、お前がどう言う原理で動いているのか分からないが、今日はこっちは本気だ!」
アルベルトは立ち止まり言葉を発すると、その言葉に、ぐらっと小さく動いた岩。
少しの間を置き、再びグラッと動き出すと、地響きを伴いながら、大きく重い音を立て岩が動き出した。
何度も見ている光景であろうか、アルベルトは瞳を細めて岩の動きを見ている。
まずは腕である。
どうやらうつ伏せのような形をとっていたのであろう。
岩の前方から両脇に開き始め、その動きと伴い岩の上部からバケツのような突起物が立ち始め、細かな岩がボロボロと落ちる。
土煙を上げ、腕と思われるモノを突っ張って立ち始めた。
バケツのような突起物は頭のようで、突起物には、目のような窪みと鼻、真一文字に結ばれている口が現れ、突っ張っている先には、指のようなモノが形作られてきていた。
岩が持ち上がると、足のようなモノが岩の奥から見え、その岩が片膝をついている状態になるまでには、時間はかからなかった。
「さぁ~て…はじめようか…」
アルベルトは動いている岩へと進み始める。
形作られた手が、ぎしぎしと音を立てながら地面を掴みだしている。
拳を握っているようだ。
アルベルトは目を冷ややかにしてその動きを見ている。
想定の範囲内と言う事なのであろうか。
アサトらの手前にいた、サーシャが呪文を唱え始めていた。
「青の魔法…。」
その光景を見ていたシスティナが小さな声を発した。
青の魔法…、水属性の魔法なのだろう…。
ロッドは、システィナが以前持っていたロッドより短く、今持っているロッドよりは長い、木の幹で作り上げられているようなロッドで、いびつな形をしていた。
「海の深淵に住まわれし、ドラゴニアの神よ…わたしに力を…。シア・アイシア…」
言葉を発すると同時に、アルベルトの足元から水が湧きだすと、ゴーレムの足元を覆うように流れ始め、ゴーレムの周囲を覆いつくすと、小さく弾ける音と共に氷へと変化を始めた。
「古の魔法?」
アサトが言葉にすると、小さく頷くシスティナ。
薄々は思っていた。
サーシャも古の魔法を扱うのではないかと、エイアイの事を知っていて、システィナが古の魔法を取得したのなら、サーシャも取得していておかしくない事である。
ただ、古の魔法と言っても属性があり、サーシャが取得している属性が分からなかっただけであった。
青の魔法、属性は水。
水でも、凍りまでを扱えるとは…。
予想を超えていたのは確かであった。
氷が足元からゴーレムの足元周辺までを覆うのを見たアルベルトは、ゆっくり握っている拳に力を込め、振り上げているゴーレムを見た。
「…ッチ…。」
舌打ちをした瞬間に反時計回りで駆けだす。
その動きを見るかのように、作り出された顔が鈍い音を立てながら動き始め、アサトらは、その光景を見ていた。
氷は、ゴーレムの膝立ちになり始めている足元にまで広がっている。
横を通過したアルベルトは後方へと進むと、岩が動いている鈍い音を伴って体をひねっているゴーレムが、アルベルトを探していた。
ひねっているとは言い難いかもしれない。
どうやら、見た感じ、表面の岩の下には、本体らしきモノが存在するような感じに見受けられ、表面の岩が動いて、ひねっているように見えるようだ。
アルベルトは、ゴーレムの周りをまわって正面へと出てくると、その動きに対して、ゴーレムが、ゆっくりひねっていた体を元に戻し始めた瞬間、ゴーレムの頭上で大きな爆発音が轟、その爆発した黒い煙から小さな炎が降り始めた。
炎が地面に落ちる…と、水蒸気が立ち始めて、瞬く間にゴーレムの視界を奪ってゆき、アサトの前には、サーシャの隣で、レニィが杖を上空に向けている姿が見えた。
そのタイミングを見計らって、狩猟者らが駆け出し始め、その流れに乗るようにアサトらも砦に向けて駆け始めた……。
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