第23話 クレアシアン討伐戦 開始! 上

 デルヘルムを出て、東に10キロほど進むと分かれ道が見え、その道を北方向に折れてから、道のままに10キロほど進むと熱帯雨林の森に入る。

 その森を6キロ程進んだ先では熱帯雨林の森が途切れ、岩肌が目立つ場所に出る事になり、その場所を2キロほど進むと針葉樹がちらほら見え始め、目の前には高く聳え立った山脈が視界を覆いつくす。

 山脈に並行するように西に向かって緩やかな上り坂へとさしかかり、その場から1キロ程進んだところから林となっていて、その林を2キロほど進むと急に拓け、その場所には、14名の見張りと思われる狩猟者らが一行を待っており、その傍には、黒い車輪に白い塗装が施されている鉄で出来ていると思われる、見た事の無い箱型のモノがあった。


 とりあえず、そこが制止ラインのようである。


 その場を抜け、1キロほど登った場所は平らな大地となり、針葉樹の高い木々がちらほらと見え、緑の草が敷き詰められているようなところに着いた。


 その場所に到着すると、時間はすでに2時に近い程である。


 馬車を止めて固定をしたら、その馬車に馬を繋いで、天幕が用意されている場所に集合をする。

 天幕は、先陣隊が用意していてくれていたようだ。


 天幕の中には、ずんぐりとした背中とゲラゲラ笑っている大男、白衣を着た者と横に耳が長く、銀髪で弓を背負っている者が、飲み食いをし、談笑をしているのが外からでもわかった。

 どうやらポドリアンとグリフらがすでに到着しているようである。


 戦闘の準備に入る一行。

 アサトも馬を止めると、タイロンらが馬車を止めるのを待った。

 馬車を止めると、チャ子とレニィが出てきてケビンらを探す。

 しばらくすると、ケビンとトルースが現れ、ベンネルとオースティも合流し、スカンのパーティーも傍に来た。


 タイロンが馬車から盾を取りだし、アリッサに手渡しをしてから、自分の盾を取りだした。

 手渡された盾に大剣を備え始めるアリッサ。

 チャ子がセラに近づいてきて笑みをみせ、ケイティは、短剣を備え腕組みをして道の向こうを黙って見ていると、システィナが尖がり帽子を被ってケイティの傍に近づき、その後をクラウトがついて行くのが見えた。

 ジェンスの用意も出来たみたいである。

 タイロンがアサトの傍に来ると、ケイティらが見ている場所へと視線を向けた。


 500メートル先には、大きな岩の塊が道を塞ぐように置かれてあり、その向こうには、切り立った岩が見えている。

 山脈の裾あたりであろうか、山々が近くに見えるような感じであり、岩からトンネル入り口までは、2キロあると言う事である。


 ここらには草木が生えているが、岩の向こうは焼けたような跡があり、草木は生えていなく、ゴツゴツとした岩が無造作に置かれ、土がむき出しになっている場所があるようだ。

 その場所は、直径2キロほどと言う事、その真ん中に3階建ての砦があり、その場所にクレアシアンがいると言う事である。


 アサトとタイロンが、クラウトらの傍に進んだ。

 「いよいよだね…」

 ケイティが吐き出すように言葉にし、その言葉に小さく頷くアサト。

 「わたしたちが、この討伐戦の要。気を引き締めて行こう!」

 クラウトの声が、風に漂うように聞こえ、その言葉を聞いたチャ子が、ケイティへと進みだしている。


 「ケイティ、がんばってね!わたしたちも、持ち場に行くから!」

 「お…おう!」

 チャ子の言葉に答えているケイティは、少し緊張しているのであろうか、答えに濁りがあったような感じであった。


 「頑張れよ!」

 「じゃぁね!」

 ケビンとチャ子は声をかけ来た道を戻り始め、レニィは、ポドリアン達の方へと進み始めた。

 チャ子らは、先ほど通って来た場所にいた者達と入れ替わるようである。


 「俺たちも行くな!頑張れ!」

 スカンが声をかけると来た道を引き返して行く、どうやら彼らはトンネルの守備隊のようであり、しばらく進んでから、林を守備するパーティーらと共にトンネル方面へと向かうようであった。


 岩が見える場所に討伐隊が集結しつつあり、その波が動くと同時に、アサトらも進みだした。


 岩から200メートル程の距離で、アイゼンが前に立った。

 「いよいよ始まる。持ち場と役割は忘れないでくれ、私が先陣を切る。後方での指揮はフレシアス。私とフレシアスで指揮をとる。」

 アイゼンの声が響いている。

 「お前は指揮官なんだから、前に出なくても…」

 フレシアスの言葉に目を鋭くしたアイゼン。

 「この戦は、我々の戦でもある。その当事者が後ろにいると言うのは、お前たちは気にしないと言うが、私は…」

 「なぁ…、フレシアス。悪いがこいつの好きなようにさせてやってくれ」

 2人の会話に口を挟んだアルベルトが一歩前に立った。


 「いいか、よく聞け。あいつはとにかく固い。傷をつける事が出来るが、それでなんとかなるような代物ではない。こっちにとっていい点は…動きが鈍い事だ。だが鈍い割には破壊力が半端ねぇ~。だから、倒そうと思うな。俺たちは、あいつの足止めをしていればいい。あとは…」

 アルベルトは冷ややかな視線を一同に向け、アサトを探したが、狩猟者らの姿らに、アサトの姿を確認できなかった。


 「…ったく、クソガキ。前に来い!」

 その言葉に背筋が伸びたアサトは目を丸くし、隣にいたシスティナへと視線を向けた、システィナは小さな笑みをみせている。

 その笑みに向かい項垂れながら進み、狩猟者らの前に立つと、いつものように冷ややかな視線で見ているアルベルト。


 「…ッチ、ったく。この戦はお前ら次第だ。俺たちが疲れる前に、さっさととっ捕まえてこい!」

 アサトは、アルベルトを見てから小さく頷いた。

 アルベルトの肩に手を当てて並んだアイゼンは、アサトを見ると、小さく頷いて見せた。


 「すまんな。重荷を君に任せてしまって…」

 「いえ、アイゼンさんが言うのと同じで、これは僕の戦。僕やアルさん、そして、インシュアさんの戦です。僕に何ができるかわからないですが…」

 「あぁ…それさえ分かっていればいい。」

 アサトの事をアルベルトが制止させた。

 それ以上はいらない、敵はなんであれ、これはナガミチの仇うちである、それ以外は必要ない事なのだとアルベルトは考えていた。


 「…無理はするな、君たちの健闘をココで待つ。」

 「いや、無理をしろ!とにかく、あの女を捕まえてこい!」

 アイゼンの言葉に被せたようにアルベルト。

 アルベルトの後ろにいたクラウトが、メガネのブリッジを上げながらアサトの隣に進んで立った。


 「それでは…はじめましょう!」

 その言葉にアイゼンが頷き、フレシアスを見ると、小さく不敵な笑みをみせたのち、振り返り、道を塞いでいる石を見た。

 「さて…、アル。お前が切り込み隊長か?」

 フレシアスの隣に進んだアルベルトが、腕組みをしながら答える。

 「あぁ…」と…。

 その言葉に頷き、アサトを見たフレシアス。

 「戦闘が始まると共に進んでくれ。俺たちはあいつを止めている。1時間でケリをつけてくれ。」

 フレシアスの言葉に小さく頷いたアサトは、クラウトを見た。

 クラウトも頷いている。


 「それでは…準備にかかってくれ、体勢が整い次第…討伐戦を開始する!」


 アイゼンの言葉に一同が、各々の場所に向かい進みだし、アサトらは、しばらく動かずに状況を見ていた。

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