第21話 明かされた道と旧友の涙 上

 10時を教える時の鐘がデルヘルムに鳴り響いた。


 ギルド広場には、ギルド・パイオニアの建物を見ている住民が群れていた。

 その中には、装備を整えている狩猟者も見え、アサトのチームも、クラウト以外が、その群衆の中にいた。


 アサトは住民の多さに辺りを見渡していると、スカンの姿も見受けられ、少し離れた場所でインシュアとテレニアが並んで話をしている。


 しばらくすると、ギルド・パイオニアの扉が開き、アルベルトを先頭に人が出て来た。

 パーティーのリーダーと思われる者が数名でてくる、その中には、クラウトの姿も見えていた。


 サーシャが現れ、白い鎧に真っ白のマントを羽織ったアイゼンが外に現れた。

 最後に高価な服を着て、胸にシダの紋章が入ったブローチを付けている者が現れる。


 入り口の前にアイゼンが立ち、その隣に、最後に出て来た者が立った。


 広場は、彼らが出てくると波のように静寂が走り、時間をかけずに辺りは静寂に包まれた。

 一度、広場を見渡したアイゼンは、目を閉じてから小さく息を吐き出す。

 その行動を見守る民衆。

 吐き出した息を吸い込むかのように、息を吸い込んだアイゼンは目を開けた。

 そして…。


 「急な知らせに困惑している者もいるだろう…。私がリーダーのチームが、ここに来て、30年。多くの旅をして、この世界の在り方等を少しだけ知った。その旅の中で、多くの者に出会い、また…失った…。そして…我々は、多くの犠牲のもとに、ある事を知った。それは…」


 アイゼンは息をつき、再び辺りを見渡した。

 その視線は、強い意志を伴った視線であり、集まっている住民を、一人一人見ているようである。

 ここに集まっている住民は、アイゼンの次の言葉を待っている。

 彼が、これから何を言うのかを…。


 アイゼンはすでに、この街でも有力者の1人であり、デルヘルムでは、知らない者は、数える程であると言っても過言ではないだろう。

 そのアイゼンが言う言葉とは…。


 「…我々は、ここに誘われた者。来訪者である。その我々が、長年、探し出していた事。」


 その言葉に息を飲む住民。


 「…帰還…、我々は以前の世界に帰る事が出来る!!」


 アイゼンの言葉に息を飲んだ住民。

 その住民の間から、ひそひそと漏れ出し始める言葉、『帰る事が出来る…』

 その言葉は、来訪、誘われた者にとって大きな意味のある事であった。

 誘われて時間の浅い者は、今の境遇に明るい光が見えたのは間違いない、その反面、長い間、この世界で生きた者らには、生活があり、また、戻る事に対しての不安があるのは確かであろう。

 それ以外にも、多くの者らが戸惑いに似た言葉を交わしていた。

 その行動は、アイゼンにとっては想定の範囲内である。


 「…戸惑うのもわかる、また、今すぐに帰れるという事でもない。」

 アイゼンは広場を見渡し、住民らの表情を伺いながら話しを進めた。


 「帰還の道は、決して平たんな道ではない。我々が得た情報では、帰れる事が出来る…、そして、誘われる事が阻止できる…」

 アサトは息を飲みながら、アイゼンがどこまで話すのかを見守った。

 隣りにいるシスティナらも同じ表情で見守り、民衆からは、ひそひそと言う声が止んではいなかった。


 「来訪した者には悪いが、我々は、優先順位を付けた…。その順位とは……」

 再び辺りを見渡し、厳しい表情を浮べるアイゼン。


 そして…。


 「デルヘルムにあるギルド・エンパイアとパイオニアは、召喚の阻止を優先的に行い、その後に帰還に向けた行動をとる事にした!」


 アイゼンの言葉に、民衆からは、落胆の声や納得する声、また、すすり泣くような音が聞こえてきていた。

 アサトは、隣にいたシスティナへと視線を移すと、システィナは、ロッドを胸の位置に持ってきて、アイゼンを黙って見ていた。

 その表情は、いつになく厳しく、まっすぐな表情であった。


 アイゼンの言葉は続く。


 「この情報は包み隠さず、ここにいる大使、ロッテイア公へと提出し、また、デルヘルムにあるギルドで共有する事にしている。はっきり言おう!その答えを得られる場所は、『アブスゲルグ』。その場所がどこにあるのか、どう存在しているかは分かっていない。また、どんな魔物がいるのか、この不条理な世界で、簡単に見つけることが出来るのか…なにも分からない…。ただ言えるのは、我々は生きている以上、求めなければならない事である!」


 民衆は話をやめ、大きく、力強い言葉で話しているアイゼンを黙って見ていた。


 「…確約は出来ない!ただ、言えるのは…。今日!この日から。我々は、『アブスゲルグ』へと続く道を探す!その為に、やっておかなければならない事…それは、」


 アサトは息を飲んだ。

 次の言葉が分かるからだ。

 その言葉が発せられると共に、重圧がのしかかる事も感じていた。


 「このルヘルム地方の生活圏を脅かしている、荒れ地の魔女“クレアシアン”の捕獲をし、黒鉄くろがね山脈を越えた北の地方、ルフェルス地方へと続くトンネルの奪還をする!クレアシアン自体、この街に大きな損害を与えたのは、約1年前の爆発事件位のものであるが、我々の生活に必要な大動脈を塞いでいる事には、この地方の者、全てが困窮していた。彼女が着て10年ほど…、トンネルが使えなく、この黒鉄くろがね山脈を、命をかけて越え、その命を失った者も多数いると思われる。また、『アブスゲルグ』へと続く道の手がかりを、彼女が持っている可能性もある。」


 アイゼンは民衆を見た。民衆は静まり返っている。


 「…すまない…、今日の戦は、我々の戦である。」

 民衆を見たアイゼンは、少しトーンを落として言葉を発し始めた。


 「10年前、私の仲間だった者は旅を終え、この地である者と恋に落ち、そして、その恋の結晶…男の子を授かった。この地に理不尽に誘われたが、出会い、育み、そして、授かったのだ。彼は、幸せだったであろう…、いや、幸せであり続けることが出来たであろう…、その日が来るまでは…。ある日、彼の奥さんと子供の前に、そのモノは現れた。そして、自分の欲求の為に、子供の拉致をした。我々は、その子の救出に向かうも、そのモノの力の前で破れ…そして、彼の子を…失ってしまった…。それ以来、そのモノを討伐する事は出来なかった。それには事情があったから…。……その事情は…省かせてもらう…。」


 アイゼンの傍にいたサーシャが口に手を当て、小さく肩を揺らし始め、アサトは瞳を細めてアイゼンを見ている。

 内容はわかる…この戦いは……。


 「そして、1年前、このデルヘルムで爆発があった日に、私らの仲間が、再び、そのモノに命を奪われた…。」

 アイゼンは嗚咽をしているサーシャをみてから、小さく息を吐き、民衆へと視線を移した。

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