第20話 共に動いている物語と朝の風景 下
………『デルヘルム』………
金髪の長い髪を一つに束ねているアリッサは、下着姿で姿見の鏡の前に立っていた。
その傍では、肌着を着始めているケイティがいる。
鏡越しにケイティの様子を見てから、薄い肌着を見に付けると、軽いかたびらを着て、白い戦闘用のパンツをはき、真新しい防具を手にすると、一度鏡へと視線を移した。
ケイティは、ショートパンツをはくと、パンツの具合を見るように腰から尻へと視線を這わせ、納得してから短めのかたびらを着込み、小さな胸当てを一度、胸に持って来きて、小さくため息をついている。
その傍にいる、システィナはブラジャーをつけていた。
その胸の大きさに、再び小さくため息をついたケイティ。
システィナはブラジャーをつけてから、ローブを手にして、ケイティの視線に気付き、その方向へと視線を移した。
そこには、恨めしそうな目をしているケイティがいる。
慌てて胸にローブを持ってきたシスティナ。
その様子を鏡越しに見ていたアリッサは、小さく笑っていた。
銀色のローブを羽織っているセラと、ショートパンツの後ろから黄色地に黒の斑点がある尻尾を振り、防具をすでに身に着けているチャ子が、中庭でキャラを食べながらケタケタと笑っていた。
黄色のシャツにニットの帽子を被り、ミニのスカート姿で膝を抱えて座っていたレニィもキャラを食べている。
タイロンとトルースは、家の外で盾を磨いていて、壁に寄りかけてある両刃剣は、すでにピカピカの状態であった。
その傍には、頭を守る兜が2つ並べてあり、その兜も綺麗に磨き上げられている。
陽の光が兜に浸透していて、太陽の小さな形が、兜の面にはっきりと映っていた。
一生懸命に磨いている2人に、道行く老人が話をかける、何を話しているのかはわからないが、その老人にむかってタイロンが、小さく笑いながら言葉を返していた。
そばのトルースも小さな笑みをみせている。
太陽が高くなり始めている時間である…。
ケビンとジェンスは、バネッサと居間で話をしていた。
ケビンとジェンスも小さめの鎧を着て、そばには剣をおき、テーブルには、バンダナが2枚置かれてあり、真新しい布と小さな瓶もそこにある。
バネッサは笑みをみせている。
ジェンスがなにやら身振り手振りを加えながら話しをし、その光景をケビンが大きく口を開いて笑っていた。
居間のソファーに横になっているインシュアが寝返りを打つ、その動きに、ジェンスとケビン、そして、バネッサは目を見開いてインシュアを見た。
インシュアは動かない。
しばらく見てから小さく笑い始め、またジェンスが、何やら話を身振り手振りを入れて始めた。
黒い薄生地の服を着て、黒いズボンをはいているアサトは、壁に立てかけられていいる木に、飾られてある長いコートへと手を差し出した。
鎖帷子が、裏生地と表生地の間に入っていると言われていたが、重さは感じられない。
そのコートをしばらく見てから、おもむろに羽織った。
サーシャが仕立て直しをしてくれていたので、丈はちょうどいいようだ。
コートと言っても、暑くは感じられない。
優しい肌触りのする生地で、コートのなか自体には奥行きがあり、太刀を隠す事が出来そうだ。
左の腰に『妖刀』、右の腰には、ただの太刀を備える。
『妖刀』からは、やっぱり、怨念の気配を感じ、見えていそうで見えていないような揺らめきが、腰のあたりを覆っている感覚がある。
その力を…得ると、強くなれる…。
魔族の血が、呼んでいるような感覚だ。
壁に寄りかけてある長太刀を手にした。
しっくりと重い長太刀。
この長太刀からも妖気が見える。
この妖気は、アサトにしか見えないはず。
アサトは、一度、長太刀を見てから、姿身の鏡の前に立った。
そこにいるのは…少し髪が長くなった少年であり、いつも見ている自分がそこにいたが、違うのは…、長いコートに長い太刀、黒に染まった少年の姿である。
そんな自分をじっくり見てから、小さく息を吐きだした。
そして…。
部屋を出ると、システィナとアリッサ、そして、ケイティが部屋の前で待っていた。
3人を見たアサトは、小さく笑みをみせる。
青色のローブを見に纏っていたシスティナが、手にしていた同じ色の尖がり帽を目深にかぶり、短いロッドを腰のベルトから抜いて手にし、アリッサは小さく頷き、ケイティは、ニカっとした笑みをみせた。
4人は、アサトを先頭に階段を降りて、中庭が見える廊下を進む。
4人の姿に気が付いたレニィが、ゆっくりと立ち上がり、身だしなみを整え始め、その動きを見たチャ子とセラは、レニィが見ている方向へと視線を移す。
4人の姿を確認するとセラは立ち上がり、そばに置いてある、革で出来たバッグをたすきのように肩にかけ、爺さんのロッドを手にした。
チャ子は腰に短剣を備え始める。
レニィらの動きを見ながら、居間へと進むと、アサトらの気配を感じたジェンスとケビンは、笑っていた表情を強張らせ、そばにあるモノを備え始めた。
ジェンスは、爺さんから譲り受けた剣を腰に備え、ケビンも同じく備えた。
テーブルにある布と瓶を腰へと備えると、バンダナを頭に巻いた2人。
その行動が終わる頃には、アサトらが居間に入っていた。
ソファーに横になっていたインシュアが徐におきあがると、そばにある飲みかけのエールへと手を伸ばし、カップのエールを飲み干すと、首の筋肉を緩ますような運動をしながら立ち上がった。
アサトの後に一同が就きはじめると、玄関の扉が開いた。
そこにいたのは、まだ兜は被っていないが、兜を脇に持っているタイロンとトルースの姿があり、その2人を立ち止まって確認するアサト。
それから、ゆっくり振り返り一同をみる。
システィナにアリッサ、そして、ケイティ。セラにチャ子、レニィ…。ジェンスにケビン。
バネッサには、小さく笑みをみせ、その後に、タイロンとトルース…へと視線を移し、最後にインシュアを見た。
その後、瞳を閉じてからコートの前襟を握ると、握った手に力が入るのが分かった。
その感触を楽しむように、力強くにぎり、大きく息を吐きだした。
一同は待っている。
アサトの行動を、息をひそめて見ていた。
閉じた目を開け、握っている前襟の当てた手を離し、振り返り玄関まで来ると、笑みを浮かべながら、中にいる者らを見て…。
「じゃ…行きましょう!」
言葉にすると大きな笑みをみせ、その表情に一同が頷いてみせた。
玄関を出たアサトらは、ギルドへと向かう道を進み始める。
…いよいよ、師匠の仇、そして、ルヘルム地方、最強のモノの討伐戦が始まる……。
相手は、魔族、クレアシアン!!
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