第19話 共に動いている物語と朝の風景 上

 …アーリア大陸、シント…

 粉雪が舞い降りている街の一角。

 高い建物が立ち並ぶ街の路地にて、真っ赤な髪に大きな目を持ち、ぶらぶらと揺れる白金のピアスを右の耳たぶにぶら下げ、もこもこで茶色の動物の皮を使った厚手で短い上着を着て、デニムのズボンを履き、そのズボンのポケットに手を入れている男が、目の前にいる者を右の眉を上げながら、呆れた表情で見ていた。


 その目の前にいるのは、赤い外套に白く短めのスカートをはき、短めの茶色い髪の少女であり、クリっとした目で赤髪の男を睨んでいる。


 その少女の後ろを、逃げるように通りへと走り出す男らの姿があり、その姿を、目を細めて見ている真っ赤な髪の男。

 「…ったく…チビにまで喧嘩売られるとは…おれも落ちた者だぜ。あの爺さん、はやく仕事くれなきゃ、この街のやつらみんな、俺が殺すぞ…」

 少女は男を見上げている。

 その少女を怪訝そうな瞳で見下ろしている真っ赤な髪の男の姿が、振り続ける粉雪の中にあった…。


 …アーリア大陸 オルディア…

 巨大な倉庫の中には、鉄で出来ている翼を持った乗り物が、静かに照らし出されていた。


 「爆撃機?」


 2メートルに近い身長に、がっしりとした体と金髪の男が、隣を歩いている白衣を着ている男と思われる者へと言葉をかけた。


 「はい…古の兵器です。空中から爆撃をしますよ…。」

 「爆撃とは…、意味がわからない」

 「そうですね…、先日お見せした、爆薬を充塡し爆発させる兵器を、空中から降ろすんですよ…」

 「ほう…それは…」

 爆撃機と言われる、巨大な鉄で出来ている翼を持った乗り物を見た男は、顎に手を当てて考えた表情をみせた。


 「後日…、お見せいたしましょう。語るより、実際に見た方がいい…」

 男と思われるモノの言葉に、小さく頷いて見せた金髪の男の姿が、そこにあった……。


 北の大地、ロッシナ共和国では……。

 巨大なドラゴンの首がそこにあった。

 その上に立つ仮面の男は辺りを見渡している。

 大きな一つ目が付いている仮面をつけた男が見上げて言葉を発した。


 「…違いますか?」

 「…あぁ、これは緑竜。ドラゴンでも下級だ。」


 辺りは焼け焦げ、炭がいぶされる香りが充満している。

 その向こうには、広大な針葉樹の森が見えていた。

 その針葉樹には、雪が覆っているのが分かる。


 寒くはない今日は…。


 焼け跡と森の境目に多くの兵士が、焼け跡を囲むように立っている。

 その者らが着ている防具には、十字の架の紋章が描かれてあり、皆が白く、中生地が赤のマントをつけていた。

 銀色に輝く兜は、顔をすっぽりと覆っている。


 …彼らの軍である。


 「どこだ…どこに扉があるんだ…。」

 口が真一文字で、細くしっかりとした鼻と眉が凛々しく形作られ、瞳の部分だけが開いている無表情な仮面をつけているモノが呟くように吐き捨てた。

 「古の賢者を探し、扉を開いた方がいいのでは?」

 「…」

 見上げていた男が言葉をかけた、その言葉に上を向いた男。

 「…あぁ…それがいいかもな……」


 空にはどんよりとした雲が落ちてきている、今にも雪が降りそうな感じの空であった。

 ドラゴンの頭部にあつまる仮面の者たちの姿がそこにあった……。


 …オースティア大陸、ルヘルム地方、『デルヘルム』近郊…

 「ぎゃはははは…一度、運転してみたかったんだ!」

 黒く丸い車輪が4個付いていて、暗い緑に塗装された鉄で出来ている乗り物が、広大な草原を疾走していた。

 その中から下品に笑う声が聞こえる。


 「早く、俺にも運転させろ!」

 「ぎゃははははは…いいな!いいな!これぇ~!」

 「早くぅ~、運転させろ!」


 その中では、必死で、何かにつかまっている5人の姿に、目を細めて呆れている表情の者が、黙って…いや、ほんと必死で前を見ていた……。


 …オースティア大陸、ルヘルム地方 『ゲルヘルム』近郊、セーフ区画…

 フードを被った5人のモノらが馬から降り、セーフ区画の警護に当たっている国王軍の兵士へと進み出していた。

 兵士が、その姿に武器を取りだしてみせると、5人は立ち止まり、一つ間を置くとフードを取って見せる。

 そこにあった面々に目を見開いた者らは、武器を仕舞い、片膝をついて頭をたれた。

 その光景を、しっかりとした視線で見つめる者は、セーフ区画へと視線を移していた……。


 …オースティア大陸、ルヘルム地方 赤の大地…

 黒く丸い車輪が4個付いていて、白い塗装が施されている乗り物は、と進んでいた。

 その中にいる、体の大きな髭の男と、背が小さく、顔中髭の男は目を丸くして、内装や、外の風景を後方の席でしきりに見ていた。


 前方の席には、丸い物を掴んで、真っすぐだけを見ている白衣で丸縁の分厚いメガネと、顔を半分覆っているマスクの男が座り、その隣の席では、耳が横にながい青年が、手前にあるボタンをおしたり、収納できると思われる場所を開けてみたり、また…、天井に付いている、摩訶不思議な、灯りがともる場所のボタンを押して、灯りを付けたり消したりしていた。


 その動きを、たまにみている隣の白衣のモノは、小さくため息をついていた……


 『ウェスタロス』大陸、最も北に位置する場所。

 青白い肌に青い瞳の者は、赤子を抱いて、8個の石が均等に円状に立てられているストンサークルに、産まれて間もない赤子を連れてきていた。

 その中央にくると、宵闇に混じりながら数人の人影が見え、その中にいる者が、ゆっくりとサークルの真ん中へと進んできた。


 青白い肌に濃い蒼の瞳を持つ者は、頭に小さな角を6本持ち、頬はやせこけている。

 そのモノが、赤子の頬に黒い爪をたてると…、泣いていた赤子は無き止み、そして、瞳が濃い蒼に変化したのであった……。


 『ウェスタロス』大陸、北の壁。

 大きく息を吸い込むと同時に目を覚ました男が、テーブルに横たわっていた。

 大きく、そして、荒々しく呼吸をして、部屋一杯にある空気をすべて吸おうとしているように息を吸い、吸い込んだ分だけ激しく息を吐きだした。


 傍らには、不思議そうに首を傾げている真っ白く目の赤い大狼《ダイヤウルフが、男の様子を見ている。


 彼は、確かに死んでいた…。多くの剣を突き立てられて…。


 見える天井は現実である。

 再び大きく息を吸い、そして、吐き出す。


 …生きている……。


 確かに生きている。

 呼吸している感じは生を物語っていた。

 それを確認するように呼吸をする、生きている事を確認するように………。

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