第18話 災いへの言葉の後で…… 下

 「…まぁ…怒られるときは、一緒だよ。たぶん…言ってしまった事に対して、言う人は…アルさん位だと思うから…」

 アサトの言葉にうつむいたシスティナに向かって、眉間に皺を寄せ、冷ややかな視線を見せたアサト。


 「…おい魔女っ娘…おまえはバカか?」

 言葉にしてから、プッと小さく噴き出して見せ、その行動に目を丸くしたシスティナも小さく噴き出してから、笑い始めた。


 「もう…アサト君ったら…、今度はアルさんのマネ?」

 「うん…毎日のように言われていたから…なんか、覚えたって言うか…いつかやってみたいなって思っていた…」

 「ハハハハ…似ているよ。いつもそうだよね…」

 システィナの笑っている表情に、安堵したアサトも大きな声で笑い始めた。


 …アルさんは言うだろうな…。まっ、仕方ないよ…。


 ひと時笑い合ったアサトとシスティナは、一度、武器庫を見渡した。

 そこには、アサトの武器、太刀や長太刀が数十本と決して少なくない数が壁にもたれ掛けられている。

 そして…『妖刀』とアルベルト用に作られていた短剣が2本、インシュア用に作られた長剣が2本が壁に飾られてあった。

 この武器は、これから進むべき道に、師匠、ナガミチが用意しておいてくれた贈り物らであり、『妖刀』に至っては、明日の一戦…だけでは無いが、クレアシアンのような強敵と戦う為、そして、道を切り開くために作られた武器である。

 その事は重々承知しているし、その重みが感じてきているのが分かった。


「いよいよ…明日だね、アサト君。」

「…うん。待ちに待った…って感じじゃないけど、とうとう来たって思うよ。」

 この世界に誘われ、そして、何も知らない所でウィザに出会い、ポドリアンと会ってパイオニアに来ると、アイゼンやサーシャ、チャ子らと会った。

 ナガミチに強制的に連れられて、ギルド会館でシスティナに出会う…。

 思えば、あれが初めて出会った、同じ境遇の人…。


 アサトはシスティナを見た。

 システィナは壁に向かい進み、インシュアが手にするであろう長剣を黙って見ていた。


 …そして、意味も分からないまま修行をした日々…。


 幻獣討伐戦で出会ったクラウト…、精悍な視線に戸惑った事を思い出す。

 その夜にアルベルトと出会い、小人のリッチに出会う。

 小人も不思議だったが、アルベルトの印象が強かった。

 冷ややかな視線…突き刺さるような、何かを見据え、見透かしたような視線…。

 そして、アイゼンに対しても敬意を表さないような態度…。


 インシュアのどうでもいい態度が、落ち着いた気持ちにさせた事も、飾られてあるインシュア用の長剣を見ながら思い出した。


 アルベルトが修行の手伝いをしてくれたそれからの日々は、過酷だった。

 殺されるかと思った時もあった。

 ゴブリン…なかなか狩れなかったゴブリンを殺した。

 ただ…痛かった。体ではない、心が痛かった…、現実を感じた。消える命の尊さを感じた、それが…、この世界での現実である事を痛感した。


 生きる為に狩る…あれだけ修行しても、心が追いついていないから、ボロボロになって狩った…、迷いもあった。

 殺す事は罪である…。

 いまでもそう思う、いや…今、はっきりとわかる。


 『奪っていい命とそうでない命』がある事を…。


 それから…クレアシアン…。

 彼女の強さは、何度となく感じた。


 この家、ドラゴン…口づけ…。

 彼女は、遠い存在である。

 たぶん、まともに戦っても勝てない事は分かっている…、だから…。


 『妖刀』が黒紫色の何かに包まれているのを感じていた。

 瞳には見えているが、本当に見えるのかはわからない、多分、近くにいるシスティナには見えていないだろう、これが…、闇の血を体に入れてしまったせいなのか…。


 タイロン、クラウト…そして、システィナと言う仲間ができ、『ギガ』を狩った。

 遠征で出会った人達…、彼らもこの世界を生きている。


 アリッサにケイティ…、一緒に『オークプリンス』を討伐した…、でも討伐は出来なかった。

 ただ…、やみくもに戦った…訳では無いが…。


 『ゲルヘルム』駐在大使ベラトリウムと出会い、この国を治めている王の考えを聞いた。

 ベラトリウムは、オーガと人間の合いの子、イィ・ドゥであり、その事は、王の思想の形なのである。


 ベラトリウムの忠誠にはいたく感心した。

 争いのない世界…、それは、当然の状況なのでは無いか、それが…。


 アリッサとケイティが加入して、遠征が続いた…。

 ケイティのお姫様ぶりには振り回される事があり、また、途中で出会った者らとの交流も良かったと感じられる。

 その中でも、グンガらとの出会いは衝撃的であった。


 この世界を謳歌している…、まさしく、言葉通りである。


 セラとジェンスが住む村には、ポドリアンの姪とエイアイと言う錬金術師の弟子と出会い、この世界の理…とは言えないが、この世界が、どう成り立っているのかが垣間見えた。

 古の遺物を駆使している弟子、その弟子とエイアイの考えとは…。


 グンガらと別れ、幻獣討伐観戦に向かう、セラとジェンスが仲間になった。

 8名の中規模パーティーとなり、これからと言う時に…ドラゴンの襲撃に会った。

 死を覚悟した…『オークプリンス』との一戦でも覚悟した死…、だが…。生きている…。


 『デルヘルム』へ戻り、エイアイに会いに行く途中で、吸血鬼族のマグナル・リバルの襲撃に出会い…そして、倒れた…。

 病気であった、『グルヘルム』から『デルヘルム』への帰還の最中から体調に異変を感じていた。

 疲れだと思っていたが…。


 死に至る病にかかっていた。

 『ファンタスティックシティ』でエイアイに出会う、だが…死ぬと宣告された。

 アルベルトやインシュアらがやって来た事には驚いた…、兄弟子とは…。

 みんなに迷惑をかけたが、また…生きた。


 それも…。


 『ファンタスティックシティ』は衝撃的な街であった。

 近代設備とは、この事であると思う、また、前の世界では、このような世界で生きていたと言う事が分かった。

 だから…古の遺物に遺跡…なのだろう…。

 『デルヘルム』へ戻り、チャ子らの卒業試験を手伝う。

 『ネシラズ』に『アバァ』…。

 ルヘルム地方で…多くを学んだ。そして…明日……。


 「もう寝よう」

 アサトはシスティナに向かって言葉をかけ、その言葉に振り返り、笑みを浮かべながら小さく頷くシスティナ。


 …そう、明日、この地方でやらなければならない戦いがある、それは、命を何度も救われた者との戦い…。

 戦いたくないのではない、戦わなければならない戦いなのだと思う……。

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