第17話 災いへの言葉の後で…… 上

 「迷惑だった?」


 アサトの腕に抱かれているシスティナが、頬を赤らめながらアサトを見つめ、その表情が可愛く見えたので、視線をはずして頬を赤らめているアサトの姿があった。

 腕に抱いているシスティナのぬくもりが感じられ、小さく呼吸をするとともに動く肩が、小気味いいリズムを作り出していた。


 「…また、助けられました…」

 「…また…敬語…」

 頬を膨らまして見せるシスティナの言葉に、小さくうつむいたアサト。

 「…ごめん…」

 アサトの返事に、小さく噴き出したシスティナは、時間を置かずに肩を揺らしながら笑い始め、その笑いに連られて笑い始めるアサト。

 「…思い出すね、アサト君。クラウトさんのマネをしていた時の事」

 「…そう…だね」


 アサトの返事を待ちながら、体を起こしたシスティナは、胸に手を当ててから何度か深呼吸をしてみた。

 魔法が解け始めているのか、アサトには分からなかったが、クレアシアンの魔法に対抗するように、頑張っていたシスティナの表情がその場にあり、クレアシアンが去ってから時間はそれほど経ってはいないが、システィナの表情が変わり始めているのはわかった。


 「きつかったの…魔法?」

 アサトの言葉に頭を横に振るうシスティナ。

 「いえ…、前ほどでは無かった。彼女が使った魔法に、ペンダントが反応したのかな…だから、私だけが、かからなかったのかも…。魔法に対する耐性が出来ているのかもしれない…」

 「古の魔法?」

 「うん。エイアイさんが言っていた。本当の魔法使いになる為には、学ぶ事がある…って、魔法を学ぶうち、そして、使う内に、本当の魔法使いへと進化をするみたい。そうすれば…魔法に対する耐性が…でき始めるって…、これは、魔法使いの適性が無ければ、起こらないみたいなの…」

 胸にあるペンダントを手に持ち、その形を見ながらシスティナが話をした。


 本当の魔法使いへの進化、そして、魔法使いの適性…。

 はっきり言って、システィナがエイアイからどのような事を学んだのかはわからない。でも、なんとなく、アサトは、適性の意味がわかったような気はしていた。

 身近にいるエルフのアルニア…を思い出していた。

 アルニアの姉はテレニア。

 テレニアは魔法使いでは無いが、古の魔法を使うことが出来る武具、指輪を持っている。

 クラウトが付けている指輪と同じような物と聞いていたが、その指輪を使い、神官の魔法、白魔法を使っている。だが、アルニアは、魔法を使わない、彼は、アーチャー…、弓使いである。

 姉弟でも適正があるのではないか…。


 「適正…すごいな…」

 漏れたアサトの言葉は、本心である。


 剣士『サムライ』と言う職業では、まったくと言っていい程、魔法には精通していない。

 話によると、古の魔法や魔法使いの職業は、誰でも出来るようである。ただ、魔法を扱う事が出来るが、システィナのように本気で学ぶ、それが出来なければ、本当になんちゃって魔法使いになってしまうのだろう…。

 剣士をしながら魔法を使う事もできる。ただ、その場合、やっぱり適性が無ければ、クレアシアンの魔法に対した、システィナのような行動はとれないであろう…、考えて見れば、この家には、システィナ以外にも、レニィと言う魔法使いの技能を持っている者がいるが…。

 彼女は、多分夢の中なのであろう…だから…アサトが、その言葉を漏らすように言ったのであった。


 「…そうかな…」

 小さくうつむいたシスティナは、再び頬を赤らめた。

 「うん…本気でそう思う…、システィナさんがパーティーに入ってくれたことがうれしく思うよ」

 「…いえ…、わたしは反対…、アサト君のパーティーに入れたから、こういう魔法に巡り合えた。今では、ちょっとだけだけど、この世界で生きて行けるって思っている。…アサト君らといっしゃなら…って…、だから…感謝しているよ」

 笑みをみせるシスティナ。そのシスティナの表情を見ながら立ち上がったアサトは、ヘタっと腰を降ろしているシスティナに手を差し伸べた。


 「立てる?」

 「うん」

 アサトの手を掴み立ち上がったシスティナは、急に立ち上がった事で、立ち眩みが襲い、アサトの体に自分の体を預けてしまった。

 その倒れかけたシスティナを支えるアサト。

 アサトに纏わりつくようにシスティナの甘い香りが漂ってきていた。


 「ごめんなさい…」

 「いや…」

 しばらくしてから離れたシスティナは、小さくうつむきながら頬を赤らめていて、そのシスティナを見ていたアサトは、『ゲルヘルム』の夜を思い出していた。


 …最低だ…。


 小さく息を吐いたシスティナは、呼吸と気持ちを落ち着かせてからアサトへと直り、そして、その向こうにある『妖刀』へと視線を移した。

 「…本当に…わかるの?怨念が…」

 その言葉に、システィナから『妖刀』へと視線を移したアサト。

 『妖刀』からは、緩やかに黒紫の何かがうっすらと見えているように感じられる。


 「見える…というか、感じるのかな…。今は、火照っている感覚はないけど…確かに…、妖刀や僕の体に何かがある…って思う」

 アサトの答えに、まじまじとアサトを見るシスティナ。

 その行動が分かったアサトは、システィナと視線を合わせると、心配そうな表情を見せているシスティナがそこにいた。


 「…アサト君…負けないでね…、それは、アサト君じゃないし、アサト君が思っている“強い”の答えじゃないんだから…」

 その言葉に小さくうつむいたアサト。


 …そう、それは『強い』の意味ではない。僕が探している『強い』の答えではない。これが答えなら、力がすべてなら、エイアイさんが言っていたように、内容の単純な、まったく面白みのない物語になってしまう…。


 「そうだね…、うん。ありがとう…」

 アサトの言葉に胸を撫でおろしたシスティナは笑みを見せた。

 「…言って良かったのかな…」

 「え?」

 「クレアシアンに…明日行くって…」

 心配そうな表情を見せているシスティナ。

 そのシスティナに向かい、アサトは笑みを浮かべて見せた。


 「仕方ないよ、言ってしまったんだから。それに…、こんな機会でなければ、投降して欲しいと伝えられなかった。後は、明日…。もう一度、話して見てだと思うよ」

 正しい答えなんて無いと思ったアサトは、システィナが言った言葉を思い出していた。


 明日、討伐に行くと言う言葉、でも、彼女も薄々感づいてはいたのだろう、でなきゃ、会っていきなり、荒れ地に人が来ている事を聞いては来なかったと思う、それに、偵察の人らももてなされている…事を考えれば、彼女自体も、いつ攻めて来るかを気にしていたのではないか、それは…もうそろそろ生まれるのかもしれない…。


 例え、システィナが言ってしまった事に対して怒られる事があるのなら、その時は、自分も同罪だと感じていた。また、交渉をしてしまった事も、早まった事なのかもしれない。

 交渉はクラウトの役目である…多分。

 彼なら、うまく交渉が出来るはずだ。

 身の保証…って言葉は言ったが、具体的な保証なんて、クラウトらは考えてあると思うが、アサトには伝わってきていない、それなのに…。

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