第15話 宵更けるときの来訪者 上
宵はふける。
翌日の討伐戦に控えて、アサトらは各々の部屋に入り、休息をとった。
クラウトが、最後のミーティングに訪れ、作戦内容と戦術の変化は無いとの事である旨を話していた。
翌日昼には、ポドリアンらが『ファンタスティックシティ』より戻って来る。
その時刻に合わせて戦闘が開始されるようであった。
ポドリアンとグリフがタンクの役割を果たし、アタッカーにインシュアとチャ子の父親が遊撃手として就く、その後ろにアルベルトが付いて、サーシャとレニィが遠距離攻撃をし、神官として、テレニア。
その護衛にアルニアが就いた、ギルド・パイオニア最強チームを編成している。
アイゼンは、作戦参謀であり、最後方から指示を出すようであったが、前に出るつもりであるようだとクラウトが言っていた。
その左右にパイオニアのチーム。ディレクのチームとアスワンがリーダーのチームが就くようである。
アスワンのチームは、8名の中規模チームであり、指名依頼の一番多いチームのようである。
アルベルトらのチームの後方には、支援チームとして、クレアがリーダーのチームが付くようである。
クレアは女性であるが、アサシンの技能を持つ者であり、6名と小規模のパーティーでありながらも、ほとんどが女性で、タンクのキエフだけが男である。
女性らのチームと言っても過言ではないが、その戦い方は、隠密的な行動を得意としたチームであり、チームすべての者が、アサシンの技能を持っている。
高貴な方の仕事を得意としていて、アイゼンは、そのような、汚れが多い依頼は断っていたが…、背に腹は代えられないとの事で、このチームがフィクサーチームとして、パイオニアに場所を持っていたのであった。
クラウトもエンパイアにいた時に聞いた事のあるチームであったようだが、その存在自体、誰も見た事が無かったので、幻のチームに会えると、少し声が上ずっていたのが、アサトには印象に残ってしまった。
パイオニア4チームの補佐がエンパイアの3パーティーになる。
ディレクとアスワンのパーティーの外側に1パーティーずつがつき、クレアのパーティーの後ろに1パーティーが付く陣形でゴーレムを襲撃する事になりそうである。
波状攻撃で休む間もなく攻撃をするみたいだ。
パイオニアのパーティーが襲撃をし、頃合いを見て、エンパイアのチームとスイッチをするようである。
本丸の戦場では、全権をクラウトが任せられたようである。
クレアシアンは確保が必ずであり、子供を優先した戦術で挑むとの事であった。
…と言う事は、交渉なのであろう。
交渉には時間をかけて構わないとの事である。
交渉が成立したら速やかに、ペンダントの奪取をし、その後は、彼女の行動にもよるが、拘束はせずに確保をするようにとの事であった。
もし…交渉が決裂した場合は、生かす事を目的とした実力行使に出る、相手は1人だとしても、今までで会った敵では、最強と思われる者である。
戦術的にどれが正しく、どれが効いて、どれが効かないかはやって見なければわからない、ただ、アサトが見た光景、指を切って、血を流した事を考えると、傷を付けられない者では無いし…、こちらには『妖刀』がある。
そして…、古の魔法を使う者もいる…。
以前に感じた脅威は、無知な中で出会った出来事であって、今は、全てにおいて用意が出来ている。
クラウトは、静かに言葉にした…、待っていた時を迎えると…。
確かに、赤きドラゴンを一瞬で討伐したクレアシアンだが、あの時は、状況が状況だった。
今では、同じとは言えないが、同じような魔法をシスティナが扱っている。
そして…『妖刀』…。
唯一、クレアシアンに傷をつける事の出来る武器を所持している。
クラウトは、最後に言葉にした。
今回の戦いで、『妖刀』の使用を、アイゼンから依頼された…と…。
アサトは武器庫の中に入り、壁に飾られている『妖刀』を見ていた。
『妖刀』からは、妖気というか、なにやら痛い感じと苦しい感じが伝わってくるようであり、体が火照る感覚があった。
以前には、その感覚は無かった。なぜ…?。
火照っている感覚は、体を駆け巡っている。
両の掌を広げて見てみるが、何も変わらない、だが、その感覚は…。
『妖刀』から漏れていると思われる黒紫の煙が見える…、のではなく、幻…なのであろうか、その薄く揺らめく煙から伝わってくる心の声が、聞こえそうで、聞こえない…。
…なんだろう…。
アサトは、しばらく『妖刀』をみている。
体が馴染んできているのか、初めて感じた感覚が、体の一部になりそうな感覚になっている。
…これは…。
「…あらぁ…ここにあるのねぇ~……」
武器庫の入り口、アサトの後方から、艶のある口調が聞こえて来た。
この口調には覚えがある。
アサトは振り返り武器庫の出入り口へと視線を送ると、そこにいたのは、クレアシアン!。
彼女は、目を細め、怪しい笑みを浮かべながら出入り口近くの壁に体を預けて見ていた。
「…どうしてここに!」
アサトの言葉に笑みを見せる。
「…みんなは!」
クレアシアンは、小さく首を傾げると、小さく艶やかな笑みを見せ、目じりを下げた。
「眠っているわぁ…ぐっすりとぉ…」
言葉が終わる前に、壁から体を離したクレアシアンは、ゆっくりとドレスの裾を引きずりながらアサトに近づいて来た。
…武器が無い!
「構えなくていいのよぉ、ぼうやぁ…。今日わぁ~、お話をしにきたのよぉ……」
笑みを見せてから、武器庫の中をじっくりと見始めたクレアシアンを、黙って見ているアサトは握りこぶしを作っていた。
その拳には、秘められた想いがある。無力さを感じた約1年前の出会い、そして、ドラゴンとの遭遇の時に感じた圧倒的な力。
『ファンタスティックシティ』での口づけ…、全てがすべて、彼女の存在の大きさを物語っている。
絶対的とは言えないが、クラウトが言っているように、最強の存在であることは確かであり、現れた時は…、この様に無防備に振る舞う、その無防備な状態であっても手を出せない…、それが、握りこぶしに秘めている想いであった。
「最近~…、ちょくちょくわたしの所に来ている人たちわぁ…、ぼうやの仲間ぁ…、ギィルゥドォ?って言う集まりの人達よネぇ~」
壁にもたれ掛けている数十本ある太刀を、歩みながら、1本ずつ愛撫するように触りながら進んでいる。
アサトは、彼女の行動を見守っていた。
近づく彼女は、アサトの傍に立つと、壁に3本、内1本は長い太刀が飾られてある場所の前に立った。
「…怨念がぁ…詰まっているようねぇ~…」
彼女の言葉に太刀を見るアサト。
「…ふふふ…、これがぁ、ナガミチが持っていた武器ねぇ…」
手を差し伸べるクレアシアン、その伸ばしている手を掴んだアサトは、クレアシアンへと視線を移す。
その視線は、力強く、鋭利な刃物のような鋭い視線であった。
「…ダメなのぉ?」
艶のある声と口調が発せられた小さな唇は、口角を小さく上げ、イヤらしげな笑みを浮かべていた、
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