第14話 『ドラゴンの女王』との別れと討伐戦要綱 下

 「あなたを信じるわ。見るからに、あなたは悪い人では無さそう。それに…リンデル導師も付いているから…。この地方には、欺瞞や裏切り、そして、殺しが、至る所で平然と行われる所。安易に人を信じる事は出来ない…。シノブも、この地方、そして…『ウェスタロス』に来た時には気をつけて…」

 デナーリスの表情が和らぐ、聞いた話だけでは、デナーリスが、今に至る過程はわからないが、言葉には重みがあった。

 その言葉は、彼女自体が、様々な境地を経てここまでやって来た事を物語っているように感じた。

 少しばかりの言葉だが…、その言葉と細めた目には、確かに経験から学んだ、この地方での心得を話しているように思えた。


 シノブは、小さく頷く…。

 宵はふける。

 宴の声も変わらないが、いつかやむであろう…。

 大きな乾杯の声が聞こえてくるのが分かった二人は、広間へと姿勢を向けると顔を合わせ、小さく笑い合った…。


 翌日は、朝食を頂いた後、デナーリスの用意してくれた馬車3台を借り、その他にも、護衛に『穢れなき軍団』の兵士が数名に、ドスラク族の戦士が数名がついてくれることになった。

 ありがたい事である。


 二日酔いと思われるティリオンが、頭を抱えながら馬車が並ぶ入り口に、髪の毛の生えていない頭を持った、大柄でふくよかな『ヴァリス』が付き添いながら現れた。

 『ヴァリス』の表情は飽きれている。

 『灰色の毛虫グレイ・ワーム』とデナーリスの相談役で側近の『ミッサンディ』が、黒いヘアーバンドをして、髪を整えて並んでいた。

 その女性のそばにデナーリスがつくと、後方から元『セカンド・サンズ』の副長の『ダーリオ・ナハーリス』、現在では、隊長である。

 その者が、朝日に目を細めながら現れた。


 デナーリスは一同を見る。

 デナーリスの前にリンデル導師とシノブが出ると、デナーリスは小さな笑みを浮かべた。


 「日よりはいいな…、もう少し滞在をして行ってもいいのではないか?」

 ティリオンが、リンデル導師を見上げた。

 陽の光が眩しいのか、目を細めて見ている表情は、おでこに皺が寄っていて、眉間にも深いしわが寄っていた。

 どうも陽の光では、無さそうであるが…。

 その表情を見たリンデル導師は、笑みを見せた。


 「数日滞在してもいいが、そうなれば、おぬしの体が心配じゃ…」

 「…そう言うな、おれは酒と女で動いている。ワインの味を覚えてからは、酔っていない日は一日も無い」

 「…そうか、それなら、もう一日…と言いたいがな、後ろの者らを早く届けたいからな」

 リンデル導師の言葉に、馬車を見るテリオン。

 馬車からは、エルフの民らが、ティリオンらを見ていた。


 「この地域は、昔より安全とは言い難いが…」

 「そうかもな…でも、わしらは強いからな」

 リンデル導師の言葉を聞いたティリオンは、今度はシノブらの後ろに並ぶ者らを見た。

 ケンゾウにユリコ、そして、羽をたたんでいるジリアに爬虫類の顔を持つグラッシイ、そして、エルフのスクラット…。


 「…おれも色々見てきたが、羽を持つ人間と爬虫類は……」

 リンデル導師へと視線を移したティリオンは、手を出して握手を求めた。

 その手を握るリンデル導師。

 「…まぁ、話のネタにはなった。気をつけてな」

 「おぬしもな、これからの戦での健闘を祈る。」

 「あぁ…おれは戦わないが…」

 皮肉交じりに、笑みを見せたテリオンの行動を見ていたデナーリスは、シノブに視線を移した。


 「道中、気をつけて」

 「…デナーリスも…」

 シノブの言葉を聞いたデナーリスは、腕を小さく広げてシノブを誘い、その行動に体を寄せたシノブ。

 2人は小さく、しっかりとしたハグをして、しばしの別れをした。と…。


 ギャァァァァ…。


 大きな咆哮と共に大空を優雅に羽ばたいているドラゴンが一頭、急降下をしながら勢いをつけて、シノブらの頭上を通り過ぎた。

 その一頭が通り過ぎると、もう一頭…、そして…もう一頭と…、3頭のドラゴンが通り過ぎる。


 「炎竜の類だな…、7種のドラゴンとは違う種…」

 リンデル導師が、通り過ぎ、再び大空を舞っているドラゴンへと視線を向けた。

 「…わたしの子供たちに乗れば、すぐなんだけど…」

 デナーリスは、シノブを見た。

 「私たちには、ちょっと刺激が強いかも」

 シノブは、デナーリスに笑みを見せて応えると、彼女の言葉に笑みを返した。


 「ところで…約束された人って…男の人?」

 馬車に進み始めたシノブの隣を進んでいるデナーリスは、シノブに訊いてみた。

 「…ハイ、男の人のようです。」

 簡単に答えたシノブに向かい、小さな笑みを見せたデナーリスだった。

 その意味は分からない。

 馬車に乗り込む一同を見ていたデナーリスら、その見送りに感謝しているシノブらの姿があった。


 「…また、会いましょう!」

 デナーリスの言葉に見送られたシノブらの馬車は、『ミーリーン』の街を旅たち、エルフの村『グラッシィ』へと進み始めた。



 ……時同じくして…。『デルヘルム』

 午前中の洞窟遠征を終了したアサトらは、午後から翌日の討伐戦に向けた全体会議が行われた。

 今回の討伐戦に参加するパーティーは、パイオニアから8パーティー、エンパイアから4パーティーの12パーティーである。


 偵察隊やアルベルトとインシュアが行った偵察戦では、どうやら砦の近くにいるゴーレム以外には、戦力がないようであり、また、話によると、偵察に向かったパーティーが、なぜか、クレアシアンからもてなされたと言う話も上がってきていた。


 色々踏まえた結果、2通りの作戦をたてることにした。


 アイゼンらがあげた作戦は、主力攻撃隊、要は、クレアシアン捕獲パーティーにアサトのパーティーが担当する。

 ゴーレムは、アルベルトとインシュアを含めたパーティーに他6パーティー、32名で行う事になった。

 その他のパーティーは、周辺の安全対策と補佐に回る事になる。


 まずは、先遣部隊が、戦場となる場所を確保、砦周辺2キロメートルに等間隔で陣をとり、規制線を張って、侵入出来ないような状況を作る。

 砦に続く道を2パーティー、黒鉄くろがね山脈を縦断するトンネルの出入り口に2パーティーで陣をとり、戦闘に関わりの無い者の安全をはかる。


 ゴーレム襲撃部隊が先陣を切り、戦闘が開始されたと同時に、アサトらのパーティーが砦に向かう事になる。

 目標は、クレアシアンの捕獲である。


 もしもの為に用意した案、ゴーレム以外の敵がいた場合は、トンネルに配置したパーティーと街道入り口に配置したパーティーが参戦する事になる。そして…、もしもクレアシアンにアサトらのチームが壊滅された場合は、即時撤退となるようである。


 この撤退には、アサトら以外が懸念を持っていたが、なぜ撤退かは…、最後までアイゼンは口をつぐんでいたのであった…。



 ---Special thanks---

 (※この『デナーリス・ターガリエン』の話は、HBO『ゲーム・オブ・スローンズ』の話であり、この物語には直接的な関与はありません。また、詳しい内容は、『ゲーム・オブ・スローンズ』を鑑賞してください。)

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