第12話 『七王国の話し』 下

 『ロバート・バラシオン』が死ぬ間際に、『エダード・スターク』が『スタニス・バラシオン』へと送った手紙には、“正当な王は、『ロバート・バラシオン』の弟『スタニス・バラシオン』である”と書かれてあったようだ。


 なぜ、『エダード・スターク』がその様な手紙を記したのかは、ティリオンには分からなかった…。ただ、この手紙を受け取った『スタニス・バラシオン』が、弟である『ヘンリー・バラシオン』の軍を破り、『』を求めて『キングス・ランディング』へと進軍を始めていた。


 北部の『ロブ・スターク』率いる軍を制圧するために王国の軍は、かなりの数を出兵させて手薄な状況であり、『スタニス・バラシオン』の軍は、300隻にも及ぶ船を擁して、海から『キングス・ランディング』へと攻め込むような状況であった。


 その間にも、『ジェイミー・ラニスター』が『スターク』の軍に捕らわれたようであり、王都では、新王『ジェフリー』の傍若無人な振る舞いは、留まる事を知らない様相であった。

 戒めるティリオンであったが、これが、後に大きな火種になるとは、お互いに思ってはいなかった…。


 とにかく…。


 「狂王『エイリス・ターガリエン二世』と言うなら…『ジョフリー・バラシオン』は…であって、暴君だな…、王なら、なんでも許される…どんな教育をすればそうなるのか…」

 ティリオンは、カップのエールを飲み干し、再びカップを高々に上げて、お代わりを要求した。

 リンデル導師は、ティリオンを目を細めながら見ていて、その両端にいるデナーリスとシノブも同じ表情であった…。


 話は続く…。


 『スタニス・バラシオン』の軍が攻め込む…、すでに軍の配備は終わっていたが、精鋭の兵士は遠征中である。

 女子供は、城の奥にかくまい、そして…『ジョフリー』は…、先頭には一度は立ったが、母の要請で城に引き返した…。

 戦意を失う兵士を鼓舞したのはティリオンである。


 湾内に侵入した300隻にもおよぶ船を『火素ワイルドファイア』と言う、特殊な炎を発生させるよう素を使い撃破をした。

 『火素ワイルドファイア』は、緑色の炎を持ち、そして、強大な爆発力を備えている、その死からは…一瞬にして、人を炭に変えてしまうほどの力である。


 その『火素ワイルドファイア』によって艦隊は壊滅したが、生き残った『スタニス・バラシオン』の軍がボートに乗り、『キングス・ランディング』でも、もっとも弱いとされている『泥の門』を襲撃した。

 その襲撃を予測していたティリオンは、地下通路を使い、うまく『スタニス・バラシオン』の軍の後方へと回り込み、一度は撃破したが、その進行は前衛であり、本隊がすぐ後から現れた時には…敗北を認めた…、だが…そこに現れたのが、父『タイウィン・ラニスター』の軍である。


 その時の父の雄姿は、ティリオンには、英雄に見え、安堵を覚えた。

 いくら毛嫌いをしている父であっても、この場にこのような登場をするとは…、勢いづく国王軍、その中でティリオンが目にした光景は…。


 ティリオンは、体を左右に揺らしながら、顔を横断している切り傷をなぞって見せた。

 そこには、今は薄くなって見える傷が、おでこから鼻の線を通り、頬に蓄えてある髭に消えて行く線になっている。

 「…姉上だよ…。」

 重く言葉にして、カップのワインを飲み干すティリオン。

 「途切れ始める意識の前に、俺を殺そうとしていた男が、殺されていった…そいつを殺したのが、『ポドリック・ペイン』…おれの従者…今は、どこにいるかな…」

 酔った瞼は、遠くを見つめ感慨にふけった表情になっていた。


 その後、帰還した父『タイウィン・ラニスター』が王の手になると、ティリオンは〈王の手〉の地位を失い、父に自分の貢献が認められないことに苦しんでいた。

 その最中、『ロブ・スターク』と『ベイロン・グレイジョイ』の死の知らせが 『キングス・ランディング』に届いた。


 『ベイロン・グレイジョイ』は南西の海岸にある『鉄の民』の王であり、その『鉄の民』は、『ウェスタロス』大陸では、最強と言われる水軍を所持していた。

 『ラニスター』家には脅威になりうる軍であるが、その王が死んだ知らせには、『タイウィン・ラニスター』も胸を撫でおろしていたようである、そして…、宿敵と言っていた『ロブ・スターク』の死は、北部との戦の終結を物語っていた。


 『ロブ・スターク』の死にざまは、今でも語り継がれている。

 『』。


 内容は、『タリー』家のエドミュアと、『フレイ』家の娘との婚儀に出席した『ロブ・スターク』は、以前に『ブレイ』の娘と結婚をするとの約束をしていたが、別の女性と恋に落ち、その女性と婚姻を結んでいたと言う。

 その事を『フレイ』家の当主に、約束を破ったことを謝罪する。

 だが『フレイ』家は、北部の旗手である『ボルトン』家と共に裏切り、『ロブ・スターク』、その大狼ダイヤウルフ『グレイウィンド』、母の『キャトリン・スターク』、そして多くの旗主や家来たちが、『フレイ』家と『ボルトン』家の兵たちに殺される。

 『スターク』家の旗主の『ルース・ボルトン』は自ら若き王を殺し、辱めとしてグレイウィンドの頭がロブの肉体に縫い合わされ、王冠を被らせたようであった。

 その後、北部総督だった『スターク』家滅亡の為として、『ルース・ボルトン』が、その任につく事になった。


 ここから政略結婚が急速に進み始めた。

 戦続きの『キングス・ランディング』には、西側諸国でも裕福な家系『タイレル』家が王都救済に現れ、『ジョフリー』王は『サンサ・スターク』との婚約を解消し、『タイレル』家の『マージョリー・タイレル』と結婚することになり、『サンサ・スターク』はティリオン・ラニスターに嫁がされることになった。


 ティリオンは『サンサ・スターク』を淑女として扱い、彼女の意思に反しては床入りしようとしていなかった。そして…、『マージョリー・タイレル』と『ジョフリー』王の婚礼が行われるが、ジョフリーは突然息をつまらせ死んでしまう。

 『サーセイ』摂政太后は弟ティリオンとその妻、『サンサ・スターク』が共謀をして、ジョフリーを殺したと言い、その場にいたティリオンを、犯人として告発し裁判にかける。

 妻の『サンサ・スターク』はその場から消えてしまっていた…。


 「…俺が生きているだけで罪…父親の『タイウィン』も姉の『サーセイ』も…。この機会を逃さないと言う剣幕で、俺に甥殺しの罪を着せ、大義名分を立てて殺そうとした…。」

 ティリオンは、カップをテーブルに置き、椅子から降りると千鳥足でその場を後にし始めた。


 「この俺を生かしてくれたのは、兄の『ジェイミー』と『ヴァリス』…。生き甲斐をくれたのが、この街にいる軍や兵士、そして…民にドラゴン。」

 足を止めたティリオンは振り返り、デナーリスを見ると胸に手を当て、「そこにいるドラゴンの母、デナーリス女王…。この命が尽きるまで、あなたの手になる事をここにお約束いたします…」

 大きく腰を折り、頭を下げたティリオンを、デナーリスとシノブ、リンデル導師らは黙って見ていた…。


 ---Special thanks---

 (※この『デナーリス・ターガリエン』の話は、HBO『ゲーム・オブ・スローンズ』の話であり、この物語には直接的な関与はありません。また、詳しい内容は、『ゲーム・オブ・スローンズ』を鑑賞してください。)

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