第10話 『ドラゴンの女王』との謁見 下

 宴は、デナーリスと会った謁見の間の階層にあり、話を聞くと、宴の間になっているようであった。


 長いテーブルが2列に長々と並べられ、その上座には、横にテーブルが設置してあり、そのテーブルの中央にはデナーリス、右隣にティリオンと体が大きく髪の生えていない頭部をもった太い男、ヴァリスが座している。

 このヴァリスは、ティリオンがデナーリスの相談役となると同時期に、ティリオンと再会を果たした。


 デナーリスの元へと誘ったのは、このヴァリスである。

 ティリオンは、ヴァリスを自分の相談役に指名をし、デナーリスも了承をした経緯であり、ティリオンの脇に座るのも納得が行く構図であった。

 ヴァリスの隣には、1万以上の兵を率いる事になるダーリオ・ナハーリスが座をしている。


 デナーリスの左側には、リンデル導師、シノブにスクラットが座った。

 長いテーブル側には、シノブらから見て右側にケンゾウとユリコ、そして、ジリアにグラッシー、エルフの民が向かい合って座し、左側には、この街の有権者らが向かい合って座していた。


 部屋の周りには、長い槍を持つ穢れなき軍団が、2メートル間隔で並び、一同を見ている。

 入り口付近には、セカンド・サンズとドスラク族の戦士ら数名が気だるそうに立っていた。

 デナーリスらの後ろには、穢れなき軍団の司令官『灰色の蛆グレイ・ワーム』を真ん中に置き、精鋭が警護の状態で立っている。


 窓の向こうには、『ミーリーン』の街の夜景が見える。

 さすがに20万人もの住民が住む街、湾一杯に明かりが灯され、宝石をちりばめたように美しく見えていた。

 この間にはテラスがあるようである。

 白いレースのカーテンが、開け放たれている窓から吹き込む風に小さく靡いているのが、シノブの目に見えていた。


 騒めき立っている広間を一見したティリオンが立ち上がる。

 その身長は、座っているデナーリスと同じくらいの身長であった。

 デナーリスの表情を伺うと、小さく頷いて見せた。

 その行動に、目の前にある銀で作られているカップを手にとり、大きく掲げ、これまた銀で作られているフォークを手にすると、フォークでカップを何度か叩いて見せた。

 その音が、こもった音と共に部屋に響く、音に気付いた一同が会話をやめ、前方に立っている小さな髭面の男に視線を移した。


 「どうも、どうも…、皮肉なもんだが、これでも…立っている」

 おどけた言葉に小さく笑う声が数か所で響き、笑い声はティリオンにも聞こえている。

 「…まぁ…、わたしの甥なら、今の笑い声の主を見つけだし、膝間つかせ、そして、命乞いをさせ…、命の保証をすると見せかけて…殺すだろう…」

 一同を見渡しながら薄い笑みを見せるティリオン。

 彼の言葉に、目を見開く街の有権者らの顏が強張った。


 ティリオンの甥、前国王『ジェフリー・バラシオン』は、15歳の年齢で、先代国王『ロバート・バラシオン』の死去により、国王となった者であり、その傍若無人な振る舞いは、海を隔てたこの国にも響いていた。

 彼は、意思が強いが意地が悪く、サディスト的な衝動を抑えることが出来ない人物であった。


 ラニスターの家系は、背が高く、ブロンドでハンサムであり、母のサーセイは、ラニスターであるので、彼も身長が高く、ブロンドでハンサムであった。


 ロバートの息子として育てられはしたが、実は、サーセイの双子の弟ジェイミー・ラニスターが父ではないかと、『ウェスタロス』大陸では噂が広がり、そして、覇権を争う戦が行われていたのであった。


 ロバートはジョフリーの父が誰なのか疑ったことはないが、息子のジョフリーを愛したことも親しみを持ったこともないのは本当である。


 「わが父も…そうであろう…。」

 ティリオンは小さくうつむいて見せた。


 ティリオンの父親は、キャスタリーロック公、ラニスポートの守護者、西部総督であり、計算高く無慈悲で支配欲の強い50代の男であった。

 名前は、『タイウィン・ラニスター』。

 親族であるジョアンナを妻に迎え愛したが、ジョアンは小人の末息子であるテリオンの産褥の床で死に、それ以来妻を迎えていない。

 “タイウィンの最良の部分は妻と共に死んだ”と語られている。

 タイウィンは子のジェイミーとサーセイを愛しているが、愛する妻ジョアンナの死をもたらした、醜いテリオンを軽蔑していた。

 その彼は、すでにこの世にはいない。

 ティリオンがこの地へ来る前に、王都『キングスランディング』のトイレにて、石弓で心臓を貫き、殺害をしたのであった。


 ティリオンがうつむいたのには訳がある。


 軽蔑し、また、孫であるジョフリーを殺害した罪で、ティリオンを処刑しようとしていたタイウィン・ラニスターであるが…、彼にとっては、半分血を受け継いだ父であり、どんな酷い扱いをされても、彼にとっては、誠の父なのであったからだ…。


 静まり返る広間。

 ティリオンは顔を上げると、顔半分に覆っている髭が小さく動いた。

 どうやら笑みを見せているようである。


 「私は、このような見てくれで、『ラニスター』家特有の長身でブロンド…ハンサム…では無いと言いたいが、顔の事は、あくまでも人の好みがあるからな…」

 再び髭を動かす。

 また、笑みを見せたようである。


 「自虐ネタに笑われても…誰も殺したりしない。わたしは、母のような広い心を持ち、そして、誰でも快く受け入れる寛容さを持っている。これは、『ラニスター』家には無いもので…女が好きだ」

 持っていたカップを再び大きく掲げて見せた。


 「今夜は、遠くの異邦から参った客人に、『ドラゴンの母』がこのような盛大な宴を催す事になる。異邦の方々は、これから行き続ける旅に災いが無い事、『ミーリーン』の街に繁栄と永遠なる平安。そして、我が女王に『鉄の玉座』を!」

 言葉を発すると共にカップを小さく上げてみせた。


 その行動に長いテーブルの有権者たちが立ち上がり、手にしていたカップを高々に上げて見せた。

 その行動を見ていたケンゾウらもいそいそと立ち上がり、同じ行動をとって見せた。


 「今夜は、朝が来るまで飲み尽くすぞ!さぁ~、酒を持って来い!」

 ティリオンの軽快な言葉に一斉に緊張がゆるみ、再び広間が交わす言葉に覆いつくされ始めた。


 「さすがだなティリオン。おぬしは、父とは違うな、ユーモアがある」

 リンデル導師が、カップをティリオンへ向けて小さく上げて見せた。

 「まぁ…、わたしのとりえは、これだけですから…」

 リンデル導師の言葉に返すテリオンは、髭を小さく動かして笑みを浮かべながら、カップを小さく上げ、椅子へと飛び乗った。

 両者を優しい視線で見ていたデナーリスは、その視線をシノブへと移す。


 同じく見ていたシノブは、デナーリスの視線に気付き、彼女へと視線を移した。

 目が合った2人は、少し見合うと、デナーリスが手にしているカップを小さく上げて見せる、その行動に、シノブも小さくカップを上げて見せた。


 ---Special thanks---

 (※この『デナーリス・ターガリエン』の話は、HBO『ゲーム・オブ・スローンズ』の話であり、この物語には直接的な関与はありません。また、詳しい内容は、『ゲーム・オブ・スローンズ』を鑑賞してください。)

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