第9話 『ドラゴンの女王』との謁見 上

 建物は見上げる程に巨大なピラミッドのような作りで、その建物へと入る入り口には、長い階段を登らなくてはいけないようであった。


 その階段を登る。


 リンデル導師を真ん中に、右にシノブ、左にスクラット。

 その3人を囲むように長い槍と黒い防具を付けている兵士が4名、その外側には、ぼさぼさの髪を束ね、髭を蓄えているドスラクの戦士と思われる、見るだけでも粗暴な感じのする者が6名、囲むように位置していた。


 20メートルはあると思われる階段を登ると入り口に入り、そこからしばらく進むと、先ほど登って来た階段程の高さを持つ階段が見え、その階段を登り始める。


 薄い茶色の石を切りだし、その石を積み上げて作っていると思われる建物の中は、外に比べてひんやりと感じ、無音にも近い空間を進む音が、建物全体に広がった。


 階段を登り終えると、しばらく平坦な廊下を進み、小さく開けられている穴からは、『ミーリーン』の湾が一望出来ていた。


 その広大さに目を見開いたシノブ。


 若干、廊下が上に向かって傾斜がかかっているようであり、建物を回りながら上へと向かっているようだ。

 入り口から進み始めて10分はたっているだろう。

 廊下は続いているが、その廊下の途中で、背の小さな髭を蓄えている男がこちらを見ていた。

 一見、ドワーフに見えるが…。


 その男に近づくと、男は大きく頭を下げてから直り、一同を見た。

 「私は『ティリオン・ラニスター』。女王が謁見を許可しました」

 シノブらを見上げながら横にある入り口へと手を差し伸べた。

 「うむ。」

 リンデル導師は頷くと進み始め、その動きに合わせて、シノブとスクラットも進んだ。


 中に入る3名と兵士に戦士。

 大きな空間には、高さ3メートル、幅は5メートルはあると思われる石で積まれた土台があり、その上にも、その土台より若干だが小さい土台がある。

 そして、その上には、背が小さく、真っ白なドレスを着て、銀色の腰まであるストレートの髪に大きな瞳を持つ女性が、一同を見下ろしていた。

 頭には金色に輝くティアラを乗せてある。


 「こちらにおりますのは、“嵐の申し子”デナーリス。鉄の玉座の正当な後継者。アンダル人たちの正当な女王で七王国の守護者。ドラゴンの母にして大草海の女王。“焼けずの女王”にて奴隷解放者。『デナーリス・ターガリエン』」

 女性の一段下の右側に立つ浅黒い肌を持ち、真っ白なドレスを着ている天然パーマの黒髪の女性が大きな声を発し、その声は、空間へと響く。


 テリオンは、土台中央にある階段を登り、声を発している女性が立つ土台へと登ると、女性とは逆の左側へと進み、一同を見下ろした。


 リンデル導師は小さく笑みを見せ、シノブとスクラットをみてから一歩踏み出した。

 「あぁ…ひさしいのぉデナーリス。」

 羽織っていたフードを外し、顔を見せたリンデル導師。

 その顔を見たデナーリスは小さく目を細めた。


 「まぁ…色々肩書を付けていても、中身はかわらんじゃろ」

 「そうね導師、今日は何用なのですか?」

 高い位置から言葉を発しているデナーリス。

 「そなたも色々あったようだな、噂は聞こえてきている。賢者の間でも、そなたの活躍には心を踊らされていたよ」

 「そうですか、それは何よりです。生前の兄は申しておりました。あなたが傍にいてくれればと…」

 「…そうじゃな…。しかしな…」

 「えぇ、分かっています。あなたにも、事情と言う事がおありなのは」

 「すまんな…」

 リンデル導師は小さく頭を下げた。

 その仕草を見たデナーリスは、視線をシノブに移す。


 その視線は厳しい視線である事は、遠くのシノブにも感じられた。

 強い意志が視線にまで込められている、そんな感じである。


 「彼女らは?」

 「あぁ…そうじゃ。」

 リンデル導師は顔を上げてデナーリスを見る。


 「この者らは、シノブにスクラット。わしの仲間じゃ。これより北にあるエルフの村に行きたいと思っている。」

 「クワッツィに?」

 「そうじゃ。ほかにもエルフがおる。そのモノらに安住の地をと思ってな」

 「…異国のエルフ…ですか…。」

 デナーリスはスクラットへと視線を移し、スクラットの姿を下から上に向かって観察をしている。


 「ま…スイルランド…と言っても、そなたにはピンとは来ないと思うが」

 「…噂では、他世界との貿易は行っているとは聞いています。スイルランドは知りませんが…」

 リンデル導師は、デナーリスを見上げる。


 「戦の準備か?」

 「えぇ…、戦力は整っていますが、輸送手段が無く、今建造中です。」

 デナーリスが答えるよりも先にテリオンが答え、その言葉に、テリオンへと視線を移した。


 「リンデル導師と聞いたが、本物か?」

 「あぁ、そうじゃ…ティリオン。」

 リンデル導師の言葉に小さく頷く。

 「主も大変だったようだな…。」

 ねぎらう導師の言葉に目を細めた。

 「主の父上にも世話になった事があったが…」

 「えぇ、わたしも存じております。幼かった頃です」

 「そうか、そうか…」

 笑みを見せるリンデル導師の表情を見たティリオンは、デナーリスへと向かい直った。


 「彼らの旅は、こちらには害は無い者とお見受けいたします。許可をなさっては…」

 ティリオンの言葉に小さく息を吐きだしたデナーリスは、一同を見ると瞳を閉じて小さく頷いて見せた。

 その行動を見たティリオンは、シノブらへと向きを変えて小さく頷く。


 「そうか…すまんな。なら、行かせてもらうが…、そちらの子は?」

 リンデル導師は、ティリオンの立っている土台に、一緒に並んでいる女性へと視線を移した。

 「彼女は、ミッサンディと言います。ナース島の出身で、奴隷解放後は、女王の相談役をしております。」

 ティリオンは、一度ミッサンディを見てから、リンデル導師へと視線を移した。

 「そうか…、他にも後方にいる者は、側近か?」

 「えぇ、『セカンド・サンズ』の副長のダーリオ・ナハーリス」

 「いや、元副長だ。今は指揮官だ」

 ダーリオ・ナハーリスと言う者は、熱い国ならではの格好で、振り返ったシノブに向かって、胸に手を当て、頭を下げた。

 その姿に驚いた表情を見せるシノブ。

 「美しい人は、私が守るべき対象です」

 小さく呆れた表情をみせたテリオンは、彼らが立っている台座の下に、長い槍を持って立っている、黒い肌で髪を短く刈っている者へ手をむけた。

 「彼が『穢れなき軍団』のリーダー、『灰色の蛆グレイ・ワーム』」

 灰色の蛆グレイ・ワームは小さく頭を下げたが、目を細めてシノブらから目を離してはいなかった。


 「まぁ~、多くの仲間に守られていて、少しは安心したよ…」

 笑みを見せたリンデル導師、その導師を見ていたデナーリスは言葉を発した。

 「宵になったら宴を…」

 その言葉に振り返るティリオン。

 「宴ですか?」

 「そう…古き友人の来訪ですから、もてなさなければ…」

 小さく作ったような笑みを見せ、その笑みを見たティリオンは小さく頷き、シノブらを見た。

 「宵の6時に」


 その言葉に頷くリンデル導師は振り返りシノブらを見る。

 「戻ろう」

 言葉を発すると動き出した。

 スクラットが続くと、シノブはデナーリスを一度見てからその場を後にした。


 後ろ姿を見送るデナーリスとティリオン…そして……。

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