第7話 心強い仲間と『ドラゴンの女王』 上

 その瞬間の記憶が無いのは確かであり、その場に、なぜ横になっているのかもわからない状況である。


 目が覚めた時には、焚火を囲んでいる数名の姿が見えていた。

 自分がどう言う状況なのかをわからないアサトは、しばらく闇に覆われている天井を見ている。


 「アリッチは、ほんとに血も涙も無いんだよね!見てよ!たんこぶ出来ている、ほら触って見て!」

 焚火の近くで、ケイティ姫がご乱心になっている声が聞こえている。


 「ほんとに揉もうとは思ってなかったんだよ。ほんとだよ!」

 「なに…乳か!やっぱり乳か!」


 ……とこちらはセラお嬢が、ジェンスに制裁を加えている声が聞こえて来た。


 「まぁ、意識を無くすれば、スライムが離れるとは分からなかったし、意識を保てる者には取りつかないとは…」

 タイロンの声が聞こえる。


 …意識?。


 アサトは、ゆっくりと体を起こすと焚火を囲んでいる仲間へと視線を移した。

 「あっ、起きたの?大丈夫?」

 システィナが優しく声をかけてくるのに小さく頷いてみせた。

 「僕は…」

 「うん。アリッサさんに盾で叩かれて意識を失ったの、アリッサさんはこのイエロースライムの事…というか、スライムの事を知っていたようで、弱い気持ちの人に纏わりつくんだって、それに…、強い気持ちを持っている人にはまとわりつかないし、その人の傍には近づかないんだって」

 「そうなんだ…」

 ゆっくりと立ち上がると焚火に近づきアリッサの傍に座った。


 アリッサは、薪をくべている。

 「すみません…面倒をかけて…」

 アサトの言葉に小さく笑みをみせた。

 「イエロースライムは、大人には取りつかないの、でも…やましい心を持っている人にはとりつくのよ」

 「やましい…ですか…」

 アサトの言葉に笑みを見せているアリッサ。


 …なんだ、その笑みは……。


 アサトは、俯きながら焚火の炎へと視線を移した。


 …やましい気持ち…って…。


 「思考を乗っ取る力をもつマモノ…、こいつは最恐と言っても過言ではない、いい経験が出来たな」

 メガネのブリッジを上げてクラウトが言う。

 その言葉に小さくなったアサト。

 その傍にシスティナが温かい飲み物を持ってきた。

 受け取るカップ、システィナの香りがする…というか…。


 …もしかして、これがやましい気持ちなのかな…。


 あの夜の事を思い出した。

 システィナの胸を揉み、乳首を吸った記憶…これって…。


 …あぁ~、やましい気持ちって事なのかな…よければ、というか、出来れば…もっと……。


  「まだ、辺りにはスライムがいるようだから、周辺を警戒しながら進もう!」

 クラウトの声が重く感じているアサトは、小さく頷いた。

 クラウトの傍では、セラがジェンスの頭をロッドで小突いている姿があり、クッキーを頬張っているケイティは、アリッサを罵っている姿があった。

 タイロンは、その姿を見て笑っていて、アサトの隣のアリッサは、ケイティの言葉に目を閉じながら温かい飲み物を口に含んでいる。

 カップをアサトに渡したシスティナは、アサトの傍に座り、一同を見ながら小さく笑っていた。


 ……これが…僕の仲間だ…、困難な戦いが待ち受けているけど、戦いだけがすべてでない。

 こんな雰囲気も…。


 一同を見ながら、アサトは改めて仲間を意識していた瞬間であった。


 しばらく休んだ一行は、もと来た道を引き返す。

 その道中では…、イエロースライムにケイティ姫が2度襲撃をくらい、さすがに頭に来たケイティ姫は、松明でスライムを探し出しては燃やしていた。


 ノーマルグールの襲撃にも会うが、難なくこなし、洞窟内でガネットや水晶、そして、黄鉄鉱はケイティがせかせかと採取し、洞窟探索を終えた。


 洞窟を出ると、外は夕焼けに染まり肌寒く、秋の気配が感じられていた。

 洞窟近くの林に止めていた馬と馬車、その近くでは、イモゴリラ2体が居眠りをしていた。

 その光景を見て苦笑いを浮かべている一同。

 セラがイモゴリラを起こしてから召喚石へと戻し、セラ、システィナ、ケイティとアリッサが馬車後方から乗り込むと、タイロンが手綱を持ち、その隣にクラウトが座った。


 一同が馬車に乗り込むのを見届けたアサトとジェンスは、顔を見合わせてから小さく頷き、『デルヘルム』へと向かう道を駆けだし始めた。

 その後を追い始める馬車。

 馬車の中からはケイティとセラのじゃれ合っている声が聞こえてきていた。


 1時間ほどかけてデルヘルムに戻ったアサトら一行は、馬車をパイオニア所有の停車場に止めると、クラウトは恋人のキャシーが待つ家へと帰り、アサトらは、ナガミチの家に帰った。

 今日採取して来た宝石類は、翌日の洞窟探索で採取した物と一緒に換金をする事にした。


 ナガミチの家には、チャ子らがすでに夕食を食べ終えて、各々の時間を過ごしていた。

 ヌレ濡れの状態になっていたジェンスとケイティ、そして、アサト…。


 ケイティを筆頭に、女性陣が最初に風呂に入り、次にアサトら男性陣が風呂に入った。

 リフォームの時に風呂を大きくしてもらっていたので、4人までは一緒に入れた。

 外では、トルースとケビンがフル活動をしている声が聞こえてきていて、その2人に修行の一環だ!とタイロンが笑って声援をしていた。

 男性陣が風呂から上がる頃には、システィナらが夕食を準備していた。


 全員が揃い、遅めだが夕食をとり、そして…、夕食後は、各々が自由にくつろぎ始める。

 タイロンとトルース、レニィは、外で日曜大工をしているようだ、どうやらレニィが何かを作って貰っているようで、なにやら指示をだしている声が聞こえてきていた。

 セラは、チャ子とソファーでキャラを食べながら、楽し気に話をしている。

 システィナとアリッサは夕食の跡片付けをしていて、ケイティは、居間の床に腹を出して高いびきで寝ていた。

 アサトとジェンス、ケビンは、中庭で瞑想にふけっている。


 これが日常…なのであろうか…。

 アサトは、中庭から家の中を見ている。

 明後日には、大一番、クレアシアン討伐戦が行われる、とは言っても、これから何かの準備をすることは無い。

 今日の戦いも、お互いの連携は出来ている。

 頼もしい仲間がここに集まっている。

 そして、アイゼンやアルベルト、インシュアらが参戦する。


 とうとうここまで来た…。

 感慨深い気分になっているアサトは、ふいに上を見た。

 中庭から見える夜空には、高くなり始めている星が瞬いているようであった……。

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