第6話 サイキョウノテキアラワル 下
タイロンは盾を持つと、盾の裏に付いている腕が入る場所に右腕を入れ、左腕で支えて両手で盾を構えた。
その傍では、アリッサも同じ行動をとりながら辺りを見渡す。
ケイティは、ジェンスと同じように、両手に持っていたクッキーを口いっぱいに頬張り、水で流しこむと立ち上がり短剣を構えた。
システィナは、辺りに散らばっている食べ物と飲み物の後始末を、セラと一緒に始めた。
クラウトはアサトの傍に進む。
アサトは、腰に備えていた太刀の柄に手を当てて、気配を探りだそうと耳を澄ますと……。
なにやら水…?が流れるような音が聞こえてくる。
その音に集中していると、前方にいたオオカミらが、低い唸り声を上げながら威嚇をはじめた。
聞こえて来た音は、至る所から聞こえてくる。
辺りを見渡すが、その気配はない…、だが、水のようなというか、水を含んだ何かが動いている感じが…、と思った瞬間!
「キャぁぁぁぁぁぁぁぁ」
大きな悲鳴が空間全体を駆け巡った。
その悲鳴の主は…。
「ケイティ!」
タイロンはケイティを見る、アサトもその声にケイティへと視線をうつすと…。
……え?なんで?…。
なぜかずぶ濡れのケイティが、プルプル体を震わせながら立ち尽くしていた。
と…。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
今度はジェンスの悲鳴。
アサトらはジェンスを見ると……。
……え?なんで?…なんでぇ?。
ジェンスもケイティと同じようにずぶ濡れになっているが…。
「これって…」
システィナが目を丸くしている。
「あぁ…もしかしたら、サイキョウの敵と遭遇したかもしれない…」
クラウトはメガネのブリッジを上げた。
「サイキョウ…って」
「とにかく…ここは…逃げよう!」
クラウトは叫ぶと一目散に後退を始めた。
「『ギン』!『シルバ』!逃げるよ!」
セラが声を上げてクラウトの後についた。
その言葉に弾かれたように進みだすアサトらだったが…。
「ちょぉぉぉぉぉぉと待てぇぇぇぇぇぇ」と叫ぶケイティ姫。
その言葉に立ち止まるアサトは、ケイティをみると…。
……え?…目がある…。
そこには、濡れたケイティの胸あたりにある、大きな瞳がアサトを捉えていた。
ずぶ濡れでは無い、ケイティには、なにやら粘着性の何かがまとわりついているようであった。
「それって…」
「待てよ、アサト…」と声が聞こえる。
その方向を向くと…、ケイティと同じような粘着物を纏わせたジェンスが、冷ややかな視線で振り返っていた。
「え…でも…」
「これ、案外重い…というか…気持ちが…いいかも」
「気持ちがいい?」
「そう…」
ジェンスは両手を水平にあげると、薄気味悪い笑みを見せながらアサトへと進み始めた。
「え?」
「アサトォォォォ」
横を見たアサトのすぐそばに、ケイティが同じ格好で、それも不敵な笑みを見せながら向かっていた…。
その胸には、目じりを下げている目玉が2個付いている。
ジェンスは…。
ジェンスの場合は、肩辺りに目玉が付いていた。
…これって…。
「ス…スライム!」
アサトは目を見開くと同時に振り返り、クラウトらの後を追い出そうとしたが…。
「うりゃぁぁぁぁぁぁ逃げんなぁぁぁぁぁぁ」
ケイティが大きくアサトに飛びついた。
「わりゃぁぁぁぁぁ、逃げんなよ!仲間になろうぜ!」
ジェンスも大きく飛びつき…。
「マジ…やめて………」
ドサッ………。
一瞬の静寂が包み込む、うねうねと体をはいずる粘着物とケイティ、背中にケイティのぬくもり…なのか、何なのかはわからないが、何かに覆いつくされる感触が体を包み込むと…。
「へへへへへへ…」
ケイティは立ち上がり、勝ち誇ったような笑みを見せながら、アサトを見下ろしていた。
その傍には、ジェンスもアサトを不敵な笑みを見せて見下ろしていた。
…ってか…あ~あ。なっちゃいました…スライムまみれ…。
アサトは立ち上がり、体を隅々まで見まわした。
確かに粘着物が体を覆い始める。
ジェンスの言っているように重い…けど、なんかホカホカした暖かさがある。
そして…腹?の辺りに、アサトを見ている目尻の下がった目玉があった…。
……これって…害はないの?…。
アサトはケイティを見ると、変な笑みを浮かばせながら逃げていくクラウトらを見ていた。
ジェンスは…、ジェンスも同じだ。
……ナンカ…?
……ナンカ…?
ナンカ、コレ…、この状況が…面白いな……。
「へ…へへ…へへへ…」
何故か笑ってしまうアサト。
「クラウトさん!」
システィナの声に振り返るクラウトは、光の破片にぼんやりと映し出されているアサトとケイティ、そして、ジェンスを見た。
「あれって…」
システィナが指を指す。
「あぁ…、どうやらイエロースライムのようだ…、面倒なのに捕まってしまったな…」
メガネのブリッジを上げる。
「面倒なのですか?」
「あぁ、あれは、面白さを追求するスライムだ…。たぶん、リーダーは…」と頭を抱える。
「リーダーは…アサト君じゃ…」
「いや、あの3人を仕切っているのは…、多分…ケイティだ!」
「ケイティさん?」
システィナはケイティへと視線を移すと、ケイティは不気味にニカニカとした笑みを見せてシスティナを見ていた。
「へへへへ…おっぱいボヨンめ!ちょっとおっぱいおっきいからっていい気になりやがって!そのおっぱい…今、揉み下してやるからな…」
ゆっくりと進み始めるケイティ。
「なにか…いかがわしい事言っているみたい…」
引きつった表情を浮べるシスティナの目には、自分に向かって進んでくるケイティがうつしだされていた。
「どうすればいいんだ?」
タイロンは3人を見ながら声を上げた。
「仕方がないな…システィナさん。闇の炎で焼いてください」
「炎…でですか?」
「そう、大丈夫。彼らは攻撃の対象外ですから」
「そうですね…」
急いでシスティナは、ロッドを構え呪文を口にした。
「闇と光の神に仕えし、ドラゴニアの神よ…わたしに力を貸してください…」
呪文に反応を始めたペンダントトップ。
「へへへへ…しっすぅちゃぁぁぁぁん?なになに…あたし達にそれでなにするつもり?もしかして…攻撃ぃ?えぇぇぇぇ~?しすちゃん優しいのに、そんなことするんだ…、クソ眼鏡が言っていたけどぉ、多分、あたしたちは大丈夫。…でも…痛いよねぇ~、たぶん…もしかしたら…泣いちゃうくらいに痛く、熱いかも…、それにぃ…」
ケイティの表情は…、うつろな瞳でシスティナを捉えている。
「それやばくない?攻撃だよ…攻撃…、大丈夫にしてもひどいよね…、そうでしょう?あたしたちの許可なく、あたしたちに撃つんだから…ひどいよねぇ~、ひどすぎるよねぇ~~」
ちいさく一歩ずつだが、近づいてくるケイティを見ているシスティナは、生唾を飲み込む。
ケイティは、イヤらしい笑みをみせながらその距離を縮め、その後方には、薄い笑みを見せているアサトとジェンスもみえていた。
ロッドをケイティに向けていたシスティナは、3人の表情をみると…。
「だ…ダメです。やっぱり出来ないです!」とロッドを降ろした。
「ケイティさん!」
クラウトの声が洞窟内に響いた。
「へへへへ…クソ眼鏡。お前は血も涙もない男だな…」
システィナのそばにいるクラウトを見て、ケイティがにやけながら言葉にした。
「そうだクソ眼鏡。お前もこのキイロ様に纏われて、シスの乳を揉みまくろうぜ!」
ジェンスが手を前方へと出すと、器用に指を使って、おっぱいを揉んでいるような動きを見せた。
「そ…そうです。そのおっぱい…」
アサトの表情は……。
…えぇ~おっぱいだなんて…。
…でも…なんにせよ、揉めるのであれば…。とアサトが思った瞬間!
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