第5話 サイキョウノテキアラワル 上
「これは驚いた…」
クラウトはメガネのブリッジを上げて驚嘆の声を上げた。
その隣にはタイロンがいて、タイロンの盾を掴みながらジェンスが下を覗き、 ケイティは、そばにあった石を下へと落としている。
…落としている…?。
システィナは少し離れた場所で、『シルバ』と共に状況を注視し、セラがシスティナの後ろで様子を伺っていた。
その2人を守るかのようにアリッサが辺りを見回している。
アサトらが立っているそこには、真っ暗な闇が、永遠に続くかのような闇で覆いつくされている大きな穴であろうか…、とにかく、絶壁の崖が下に向かってあった。
ケイティが落としている石が小さいのかもしれないし、風の音が強いせいなのかもしれないが、何かに当たるような音は聞こえてこなかった。
クラウトも、その崖の下に向かって光の破片を落として見るが、風に揺らめきながら押し上げられたり、急降下をしたり…、時折り、左右に大きく振られるなどして、一定に定まらず、何かを確認する事が出来なかった。
「断層…か…」
クラウトは永遠に続くような下に向かっている絶壁から、自分らの立っている場所に視線をもってくると左右を見渡した。
確かに、アサトらがいる場所から左右には大地があり、そこから急に崖になっている。
「断層ですか?」
アサトの下から吹き上げてくる風を感じながらクラウトを見た。
クラウトは小さく頷き、先を覆っている暗闇へと視線を移した。
「もしかしたらだが、この下に古の遺跡…があるのかも。ナガミチさんの旅でも、海を越える為に地下数キロ下へおり、そして、古の遺跡群を抜けて、アメリア大陸に辿り着いた表記があった」
「…そう言えば、僕も聞きました」
クラウトは辺りを見渡した。
「もしかしたら、手付かずの洞窟…いや、この鍾乳洞の大きさから言って、他の洞窟にもわたっている可能性があるのかも…。」
「甲羅虫の洞窟とかか?」
近くでタイロンが言葉にする。
「あぁ…そうかも…。そうなれば、グールが甲羅虫の洞窟に出現した事も頷けるし、ここにグールがいるのもわかる。それに…」
再び崖へと視線を移したクラウトは続けた。
「もしかしたら、この下にグールの根城がある可能性も…」
「なら…、この下に降りられる可能性があるのか?」
ジェンスがタイロンにしがみつき直しながら言葉にした。
「可能性は0ではない」
顎に手を当てて考えているクラウトは重く言葉を返し、一度、天井へ視線を移してから後方のアリッサらを見て小さくうつむいて、再び思考を巡らした。
「…これは、僕らが調査するより、もっと精通している人に任せた方がいいかもな」
クラウトは、風に巻かれている光の破片を見て言葉を出すと、アリッサらの方向へと進み始めた。
「…エイアイさんとかですか?」
去ってゆくクラウトに向かい、アサトが声をかけた。
「あぁ、こう言うのは、その手のプロに任せた方が良い、エイアイさんなら、下へ行く方法とかも知っていると思うし…それに」
言葉を詰まらせて立ち止まり、何かを考えている表情を浮べたのち、小さく笑みを見せてから、
「あの人なら、不可能を可能にしてしまうような気がするよ」
少し軽くなった表情で言葉を残し、再び進み始めた。
タイロンは、小さくため息をついてから笑みを見せ、ジェンスの背中を一つ叩く。
その勢いでジェンスが崖から落ちそうになるのを掴み。
「はははは…帰るぞ!」と言いながらジェンスを引っ張り始めた。
その行動に目を開けてみていたケイティは、ケタケタと笑いながら『ギン』の傍に来て、毛並みを擦ると、ぴょんと跳ねてその背に飛び乗り、クラウトらの後を追い始めた。
アサトは一度、崖の下を覗き込む。
下から吹き上げてくる風は冷たい、それに何となくだが、懐かしいような香りが付いているような感じがしていた。
……古の遺跡群がこの下にあるのかもしれない…見たい…でも……。
クラウトが話したように、この手の事は、専門家に任せた方が得策である。
専門家と言うなら、アサトらにはやらなければならない事がある…。
だから…。
アサトは振り返り、進んでいる仲間の背中を見ると、小さく息を吐きだしてから進み始めた。
地面に点在している光の破片を辿り、もと来た道を引き返す事にした。
この空間では、四方八方が同じ風景に見える。
大きく太い鍾乳石が至る所にある空間。
クラウトは、それを見越して、光の破片を通って来た道に置いて歩いていたようであった。
そう言えば、この魔法は古の魔法なのであろうか…。
見たところ、どんな神官でも使っている魔法であり、今まで持っていたロッドでも、この魔法を使っていた。
でも、多分、説明されても分からない事なのだろう…。
アサトは、ぼんやりと進む仲間の姿を見ながら思っていた。
しばらく進むと、上に向かっている緩やかな坂に辿り着いた。
その場で小休止をする。
システィナが、クッキーと言う、小麦を主原料とした小型の焼き菓子を作って、持ってきてくれていた。
非常食にはいいかな?と言っていたが、非常食どころではない旨さがあり、これを非常食と言えば、チーム内で殺人事件が起きてしまうと、タイロンが笑いながらシスティナに言葉をかけていた。
同感である。
これほどうまいモノを出されて、腹が減っていれば…一番に独り占めを始めそうなのは…、とケイティを自然に見てしまう。
すると、そのケイティは案の定。
両手にクッキーを持ち、頬を膨らましている状態であった…。
……まぁ~、そう言う事になりますよね…。
そう言えば、アリッサの話しだと、ケイティは、アサトとそんなに変わらないか、それとも下かもしれないと言う事であった。
誘われた時に、一番小さく、そして、あどけない表情の子供、少女…であったらしい。
ここ1~2年で、急激に大人びて来た表情や身長の伸びを感じていたようである。
と…なれば…、13歳か14歳くらいに誘われたのであろうか…。
まぁ~、アリッサの話しも伊達ではないような気はしている、というか、言動や行動が、子供っぽいし、セラやチャ子ともなんら変わりないような考えも持っている…。
それに…。
アサトの視線に気付いたケイティは、両手にあるクッキーを見ると、胸に持ってきて背をむけた。
その行動は…やっぱり子供だね…。
「?」セラが何かに気付いたのか、立ち上がり辺りを見渡した。
その隣にいたクラウトは、立ち上がったセラを見てから辺りを見渡す。
ケイティの後ろで横になっていた蒼色の瞳を持つ『ギン』が、頭を上げて暗闇へと視線を移し、アリッサとシスティナの傍にいた『シルバ』も、ゆっくりと瞳を開けてから頭を持ち上げ、鼻をピクピクと動かし始めた。
『ギン』はゆっくりと立ち上がると、見ていた暗闇へと進みだした。
その動きに同調するように『シルバ』も立ち上がり、『ギン』の進む方向へと視線を向けると、ゆっくり動き出す。
「アサト!」とクラウト。
その言葉に立ち上がりジェンスを見た。
ジェンスはクッキーを頬張ると、そばに置いておいた剣を掴み立ち上がった。
少し進んだ2頭のオオカミは立ち止まり、辺りを見渡す。
その動きにアサトらの動きも活発になりだした。
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