第4話 鍾乳洞 下
ケイティを背中に乗せた『シルバ』、そして、『ギン』は、アサトらと一定の距離を保ち、辺りを警戒しながら進む。
しばらく進むと立ち止まり、アサトらへと向いて待った。
タイロンを先頭にジェンスが進む。
少し離れた後方には、アリッサとクラウト、セラがクラウトの服を掴んでいて、その隣にシスティナが前を見ていた。
最後方をアサトが後方を警戒しながら進んでいる。
タイロンが『シルバ』らの元に来ると、『シルバ』に乗っていたケイティを降ろした。
怪訝そうな視線をしているタイロンに、頬を膨らまして見せたケイティ。
その表情に呆れた視線でクラウトらが見てから、『ギン』が見ている先の暗闇へと視線を移した。
真っ暗な坑道が緩やかに下がっているのがわかる。
どうやら、4層へと進む道のようだ。
クラウトは、光の破片を坑道へと進めてみると、坑道は、長くなだらかに下がっていた。
約100メートル程はあるだろうか、その距離を使って5メートル程は下がるようだ。
クラウトの指示を待つ一同。
クラウトは、セラに向かい小さく頷いて見せた。
ケイティは、頬を膨らましながら最後方のアサトの傍にくると、『シルバ』と『ギン』は進み始める。
タイロンが盾を前に構えて剣を抜き、その後ろにジェンスが付いてタイロンの背中に手を当てた。
「警戒態勢で…」
後方からクラウトがメガネのブリッジを上げて指示をだし、その言葉にタイロンが進みだした。
「『シルバ』と『ギン』に敵が感知出来たら、威嚇して待つようにと伝えて」
前を見据えているクラウトがセラに対して指示をだす。
小さく頷いたセラは、目を閉じて念を込めた。
『シルバ』と『ギン』の耳が小さく後ろを見てから再び前方へと向き、念が届いた感じは見受けられた。
だらだらと下る坂の坑道は、幅が5メートル以上ある。
警戒しながら下っている坑道を進み切り、坂から平らな場所に出ると、そこは、見上げるばかりの鍾乳洞の洞窟であり、太く長い鍾乳石がかなり高い位置にある天井へとそそり立っていた。
そんな鍾乳石が辺り一面に広がり、また、立ち始めている鍾乳石も何本も確認できた。
鍾乳石に滴り落ちている雫が、光の破片に反射してキラキラしている。
天井は確認出来ない程に高い場所にあるようだ。
鍾乳洞に入った一同は、幻想的な雰囲気に息を飲み、また、歓喜を伴った声を上げている。
すでにそこには、坑道らしきものはなく、永遠に広がっている空間に思えるほどに拓けた空間であった。
クラウトが小さく頷く。
行動を見たセラは、『シルバ』と『ギン』へと命令を念じて前に進んだ。
2頭の姿がゆらゆらと薄い暗闇に浮かんで見える。
たまに振り返り、お互いの距離を確認している動作も見受けられていた。
しばらく進むと、2頭が立ち止まり辺りを見渡す。
敵の気配であろうか…、それとも…。
小さく鼻孔を動かしている2頭は、地面を嗅いだり、空中に漂うと思われる匂いを嗅いだりしている。
2頭が立ち止まった事で、アサトらも一定の距離を置いて、2頭を見ながら辺りを見渡す。
太い鍾乳石が聳え立っているのは変わりなく、その太さゆえに隠れる場所は多く点在している。
近くにある鍾乳石でも、直径2メートル程の太さを持つ鍾乳石もあり、そのような鍾乳石でも、辺りにある鍾乳石のなかでは、普通サイズ…といえるような太さであった。
あまりにも動かない2頭を見ているクラウトは、アサトと視線を合わせる。
その視線に小さく頷くアサトは、そばにいたケイティを小さく小突いて指を指し、ゆっくりと2頭へと進み始めた。
距離にして、10メートルは無い。
アサトを先頭に、ケイティが周囲を見渡しながら、短剣の鞘に手を当てている。
アサトもそうだ。
太刀の鞘に手を当てながら、『ギン』と『シルバ』の動きを見ながら進む。
地面は平らなようである。
歩きやすく、また、鍾乳石とは違う、細かな石の感覚もあった。
2頭の傍に着いたアサトとケイティは、互いに灰色のオオカミの傍に立ち、その毛並みを撫でながら辺りを見渡すと…、2頭が前に向いて、小さく撫で声をあげた。
その声に、アサトとケイティは、前方を見てみると…。
……風?
風がゆるやかに吹いてくるのを感じた。
その風は、身を凍らせるような冷たさを伴っていた。
真っ暗な前方に目を凝らしながら視線を向けて見たが、何も変わった事は無い、光の破片が届く場所は、しっかりと見えている。
地面も、鍾乳石も…。
アサトは振り返り、クラウトに向って首を傾げてみた。
その仕草を見たクラウトはメガネのブリッジを上げている。
…でも…なにか…ある?
なぜ、そう思ったかはわからないが、確かに何かがありそうな雰囲気はあり、アサトは、近くに漂っている光の破片を指さして、その指をアサトら前方へと進めるような仕草を取って見せた。
その指先を見たクラウトは、細く短いロッドを何度か回してから小さく先を前方へと走らせる。
その動きと同調するように、光の破片はアサトらの前方へと進み始め、光の破片を見ながら、『ギン』の背中を何度か小突いてから進み始めた。
ケイティも同じく進み始める。
漂ってくる風は、進むほどに強さを増し、そして、冷たさも増し始めている。
ケイティの髪が乱れ、その乱れを止めるように髪を押さえている。
アサトの髪も右へ左へと不自然な動きをしていると…、アサトの傍の『ギン』が立ち止まった。
光の破片が風に踊らされているように上に下に、そして、左右に不規則に乱れた動きを見せている。
その風は体勢を崩すような強さではない。
アサトは目を凝らして前方を見てみる…。
揺れ動く光の破片は、真っ暗な闇に吹く風に翻弄されながら揺れていた。
その為に、そこに何があるのか分からない…でも、この風は…何かがいる、のか…あるのか…。
アサトは目を凝らしながら進む、その姿を見ているケイティと『シルバ』…。
不確かに照らし出されている地面を確認しながら進むと、ゴォォォォと言う、大きく逆巻くような音が遠くから聞こえてくる。
その方向を確認しながら進むと、いきなり背中を噛みつかれた!
その感じに振り返る。
そこには、『ギン』がアサトの服を噛んでいる大きな顔に青い瞳があった。
その青い瞳を驚いた表情で見た。
すると……。
「…アサト…見て…」
隣について来ていたケイティが、四つん這いになりながら下を見て言葉にした。
その言葉に振りかえり、ケイティが見ている先を見ると……。
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