第1話 力試しの洞窟攻略 上

 タイロンの息遣いが感じられ、背後にいるケイティも小さく呼吸をしている。

 この雰囲気は、なんとも言えない安心感がある。


 明るく照らし出されている洞窟内では、タイロンを先頭に、アサトとケイティがついて先陣を切っている。

 少し後方では、盾を前に出しているアリッサの姿があり、その後ろでクラウトが目を細めて見ていた。

 そのクラウトにセラが寄り添い、セラを守るようにシスティナが後ろに立って辺りを見渡し、最後方には、ジェンスが剣を両手に持って、後方を見渡していた。


 灰色の影が横穴から出て来るのを確認する。


 その形は見覚えのある姿。

 長い舌を出し、涎をたらしているしまりのない口に真っ黒な瞳、肌の色は灰色で、異様に長い手を持つ魔物、グールである。

 小さいグール。

 ノーマルグールと言っているタイプだ。

 数は…6体。タイロンが盾を両手に持ち直す、その動きに合わせて、柄に手をかけたアサト。

 その後方では、ケイティが鞘から短剣を取りだす音が聞こえてきていた。


 タイロンが反対側の横穴に視線を移す。

 その穴から、同じ個体のグールが出て来るのが確認できた。

 アサトもその方向へと視線を移す。


 洞窟に点在する横穴はこれだけではなく、暗い闇に覆われている洞窟の奥にも横穴が見受けられる。


 「どのくらいの数がいるんでしょう…」

 「さぁ…」

 タイロンがアサトの質問に応えながら点在する横穴を見渡す。

 「とりあえず…1体ずつだ…」

 動きながらタイロンが最初のグールの波に向かって進み始め、その後ろをついて行きながら太刀を抜くアサト。

 ケイティがその動きに同調をする。


 最初に当たったグールを右側に弾き飛ばしたタイロンは、次の攻撃に盾を構え、盾についている剣を抜いた。

 その動きと共に、アサトは、弾かれたグールに向かって進みだす。

 ケイティは、タイロンとアサトの間をかき分けるように進み、向かってくるグールを捉えた。


 最初の攻撃は…アサトである。


 アサトは弾かれたグールの首に向かい、一閃を放ちながら右の足を軸に1回転をして、2度目の一閃を放った。

 その攻撃は、首と右腕を斬りつけ、鋭い切れ口からは血が激しく吹き上がった。


 アサトは止まらずにケイティの後方へと着く。

 タイロンは、2体目のグールに向かって盾を出して弾くと、よろめいているグールの胸に向かって剣を突き立てる。

 その剣が体を貫通する間際に、ケイティが3体目のグールに向かい飛びかかった。


 グールは左腕を大きく上げて、ケイティを叩き落す体制をとる瞬間に、ケイティの背後から現れたアサトの一閃を食らう。

 ケイティは、そのままグールの顔面に短剣を突き刺すと、アルベルト並の身のこなしで、グールの胸に両足を揃えて当て、後方へと飛ぶために胸を大きく弾いた。


 弾かれたグールは後ろに倒れ込む。


 その横をアサトが抜け、4体目のグールに向かいひと振りすると同時に、もう一本の太刀を抜き、大きく逆袈裟懸けを繰り出し、グールの体に大きな傷をつけた。

 バク中をしたケイティは、動きを止めずにアサトの後方へと進む、傷をつけたグールの脇を通り、アサトは後方をとる。

 その動きに合わせるように動くグール、その体が横を向いた瞬間にケイティが飛び、グールの首に短剣を突き刺した。


 それを見たアサトは、ケイティの後方にいるタイロンを見る。


 タイロンは、5体目のグールを弾き、6体目のグールの攻撃を受けだしているところであった。

 アサトの視線にケイティが振り返り、間を置かずに、タイロンと対峙している6体目のグールへと向かって駆けだし始める。


 その動きを見たアサトは振り返り、別の穴から出てきているグールへと視線を移し、両手の太刀を構えた。

 走りながら、布で血を拭き取ったケイティは大きく飛び、6体目のグールの背後に着くと、右足を軸に回転を始める。


 1回転、2回転…3回転…。


 その間に、グールの背中に3本の傷を負わせると、右の肩に向けて短剣を突き刺した。

 その痛さに上を向いて悲鳴をあげるグール。

 タイロンは、そのグールに向かい剣を突き出す。

 タイロンの剣が体を貫通する前に、ケイティは離脱をすると、再び、アサトの元に向かった。

 アサトは、グール2体を相手に太刀を振るう。


 2体の攻撃を屈んで避けると立ち上がりながら、右側にいたグールに向かって太刀を振るう。

 その太刀筋がグールの体に2本の傷を残す。

 アサトは、すぐさま左側にいるグールへと、その勢いのままに屈みながら太刀を振った。

 2体のグールは、痛さに悲鳴をあげている。


 アサトは、身を起こしながら、まずは、右側のグールを始末する。


 顎を上げているグールの顎と首の境目辺りに、右手に持っている太刀を突き上げると同時に、左側で、同じ体勢になっているグールへと、左手に持っている太刀を突き上げた。

 軽い感じで突き上がった太刀の剣先は、グールの頭蓋骨を貫通して、天へと突きあがる。

 大の字に立っているアサトの前にケイティが現れると、ニカっと笑みを見せてから、アサトの後方からゆらゆらと動く姿へと視線を移した。


 アサトは、ケイティの視線に気付き、グールから太刀を抜くと振り返り、血が付いている太刀を大きく払って、グールの血を振り払った。

 その場所に、首と脳天から血を噴き出しながらグールが倒れる。

 倒れたグールに、太刀を1本突き立てると、手にしている1本の太刀から布を使って血を拭き取り、鞘に仕舞う。

 そして、突き立てた太刀を抜き、同じように血を拭き取ると、布を腰にぶら下げ、両手で太刀の柄を掴んで構えた。


 タイロンがアサトとケイティの傍に来ると、ケイティが気付いて小さく頷く。

 その頷きを見たタイロンは振り返り、クラウトらの元に駆けだし始めた。


 その姿を見たアリッサが、盾を構えてクラウトを見る。

 クラウトはメガネのブリッジを上げて、小さく頷いて見せた。

 その頷きをみると、タイロンと入れ替わりでアサトらの元に向かい駆け出し始めた。


 ゆらゆら動くグールの姿は、3体。


 アサトは、ケイティの合図を待ちながら、その姿を見ている。

 ケイティは、何度か振り返りながら、アリッサの行動を見ていた。

 タイロンは、アリッサとすれ違う。

 小さく笑みを見せるアリッサを見下ろしているタイロンは、大きく息を吐き出してから、その笑みに応えるようにニカっとした笑みを見せた。


 アリッサとの距離が近付く、そのタイミングを見計らって、アサトの服を掴んでいたケイティが小さく引っ張る。

 その動きに数歩、後退をすると、金属が重なり合う音と共にアリッサが現れ、後退を始めているアサトの目の前に立ち、ゆらゆら動くグールの前に立った。

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