第3話 盗賊の話


 足音が聞こえてくる。

 しかし、どこからなのかまるで分からなかった。


 追手がどの方角から迫って来るか分からないなんて、この状況では致命的すぎる。


 こんな状況に陥るなど、つい半日前までは考えてもいなかった。

 とある店の品物を、誰にも気が疲れずに盗んだはいいが、ヤバい物に手を出したのが分かって、大量のサツから追われる事になるなどとは。


 盗み出したのは一つのトランクケース。

 中に入っていたのは金銀財宝、または大量の紙幣……。


「おぎゃあ、おぎゃあ、おぎゃあ」


 ではなく、おぎゃおぎゃうるさい赤ちゃんだった。

 背中に背負った荷物の自己主張が激しい。


「人間かよ! あー、しくった。何で赤ん坊なんて面倒なもん、盗み出さなくちゃいけないんだよ。おかしい、だろ!」

「おぎゃあおぎゃあおぎゃあおぎゃあ」

「うるせぇ!」

「ぎゃー!」


 音の洪水とはまさにこの事。

 あまりの煩さに、耳を塞ぎたくなる。


 だが、そんな騒音よりももっと気にすべき事があった。


 赤ん坊の泣き声が聞こえてしまったのだろう。


「声が聞こえるぞ! こっちだ!」


 あっというまに追っ手に気づかれて、複数の足音が近づいてきた。


「冗談じゃねぇ、こんな所で捕まってたまるか」


 ムショの牢屋に入れられるくらいならまだいい。

 有罪判決うけて、何年も檻の中に詰め込まれるのもかろうじて理解できる。


 だが、極刑はまずい。

 死んでまう。


「何でお前は一般人でもなく、高貴なお方の分際であんな所につめこまれてやがったんだよ」


 赤ん坊をくるんでいる布の豪華さをみて、ぴんときた。

 そんで、家紋の刺繍を見て仰天した。

 嫌な予感はあたっていたようだ。


 この赤ん坊は、このこの国の王女様ではないか。


「何としてでも、姫様を盗賊から救い出すんだ!!」

「ここで逃すなどありえん。どうにかして捕まえろ!!」


 死が、迫って来た。

 王族に手を出した人間がサツに連行されて無事に済んだ例など聞いた事が無い。

 

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