Re:俺たちのプロローグ
「ただいま……
俺の家の鍵が開いている。
いつの間にか高校時代までを過ごした実家は、俺の帰る場所じゃなくなっていて、先輩との想い出が染み込んでいる高校からも離れた場所。そんな場所に1人で暮らしていても、家の鍵は開いている。
「おかえり
玄関先でまるで熟年夫婦とも、新婚夫婦ともとれるようなやり取り。
なんだかんだこれも四年目でときめきもクソもない。
そもそも高校時代だって、この人は頻繁に俺の部屋にいた気がするし。
「はいはい、今日は鍋ですよー」
あの時から敬意とか、憧れとか、まるで俺は変わっていない。
ずっと大事な先輩だ。
でも変わったこともある。
履いていた靴を、明らかにサイズの違うローファーの隣に並べる。
「……帰ってこないのではないかと心配したのだけど」
なんというか、期待してた方向とは違う方向にキャラが振り切れてる気がする。
大坪も「病みかげ」とか最も過ぎるあだ名をつけてたなぁ。
「心配してくれるのはありがたいですけど、いつも言ってるけど先輩も鍵くらい締めてください。こっちも心配になるんで」
フィギュアとか、推しのサインチェキとか、やべぇ奴に侵入されて取られたらどうするんだ。
こちとらSNSで顔面も住所も特定されてんだからな、ほんと。田舎でよかったぜ。
「そう、ごめんなさい」
というかまだ16時前なんだけど、高校から帰るのが遅くなった時の優子を思い出すなぁ。
優子と違うのは、「大坪と遊びに言ってた」と正直に伝えても、不機嫌にならないこと。これがキサだったらちょっと拗ねると思うけど。
先輩と大坪は本当の友達だと思う。
友達にトラウマがあった、だから先輩は一時期俺に依存していた。なんならその節は今もあるけど、でも大坪という友達がいるといないとでかなり違う。
「にしても、今日大学行ったことで、ようやく先輩が先輩に戻ったんだなぁって実感が出ました」
「……そう。色々複雑ね」
──先輩はまさかの浪人をしていた。
センター試験を受験する日に私服の先輩と出会った時の衝撃があまりにも強すぎて、センターの問題の記憶がほとんど残っていない。
『どうかしら? 驚いた?』
先輩が卒業して、俺が高校三年になったと同時に、先輩と連絡が届かなくなった。俺がメールをすれば返事はしてくれたが、それも大体数時間たってからだし、向こうから連絡はなかった。
あの文化祭が終わってから……あの高橋先輩による公開処刑の日から、先輩は昼も放課後も俺と過ごそうとしていたくらいだったのに卒業後は全く連絡をくれなくなったのを見て、てっきり、「大学生活を謳歌しているんだろうなぁ」と思ったものだ。
それが、センター試験会場で「驚いた?」と聞いてくれば、驚くなんてものじゃない。
受験生特有のライバルを蹴落とす作戦なのではないかと思ったほどだ。実際に混乱もした。
辛うじて、新都工業大学という、国立大学に合格したからいいんだけど。
なんやかんやあって、気付けば先輩が同級生になっていた。
先輩は一回目のセンター試験で大コケしたんだとか。
学校でも歴代最高クラスの才女だったはずなのに、大コケしたという。本人曰くマークがずれてしまっていたらしい。決して俺のせいではない……はず。
兎にも角にも、疑惑の浪人生活を果たした末に再会した時の先輩が嬉しそうだったのは事実だ。
先輩は浪人していた一年間をそれなりに苦しんだという。なんでも、大嫌いの父親の仕事に付き添い、海外に行って、頑張ってサポートしたらしい。浪人してしまい迷惑をかけることへのお詫びだ。だから忙しかったことと時差の問題で連絡がまともに取れなかったのだ。
友人であるはずの高橋先輩に突然裏切られ、とても辛い目に合った。時間をかけて絶望に叩き落すような嘘をつかれ続けた。
そんな悲劇の被害者になった彼女は、決意をした。
時間をかけてゆっくりと、誰かを幸せにする嘘を吐こうと。
センター試験の会場でまさかの遭遇を果たしたら喜ぶだろうと考えて、彼女は俺を欺き続けていた。
誰かを壮大に欺いて、その結果誰かを笑わせてあげられるような優しい嘘を吐く。
それが彼女の今の生きがい。
実際に俺は笑った。それは優しい嘘というよりも、ただの不意打ちだったけど。
でも快い衝撃だった。
さて、文化祭の話をしよう。
例の文化祭に、先輩は姿を現さなかった。
ショックが癒えず、家に籠っていた……というのもあるけど、ひたすら恥ずかしかったと語っている。
俺たちはあの高校で有名人だった。
配信を見ていた人たちが俺たちを奇異の目で見ていることならすぐに分かった。
その原因は一詩だ。
一詩が余計な事をした。
美景先輩が立ち直ったのを確認してから、二人で帰宅をすることにした。
そして、文芸部室を出ようとした瞬間、スマホで動画を取っている、一詩と目が合った。
『はい、カット』
そんな声がかけられる。
意味は分からなかった。
あのバカは……あのバカもまた、俺たちのやり取りを撮影して配信していたのだ。
しかも、高橋先輩達が途中で撮影を辞めたすぐ後から、つまり高橋先輩が「冷めちゃった」と言った辺りから、俺たちが帰宅を決断するまでを撮影していた。
あのバカは、俺の告白まがいのシーンまでバッチリと収めていたわけだ。
俺はもちろんブチギレした。
一詩も当然、悪いことをしているということは理解していて謝罪はした。
一詩が動画を取っていたのには、理由が三つあった。
俺たちのやり取りが突然止まったと同時に、SNSは大荒れになっていた。
一詩曰く、美景先輩を心配する声と、文芸部室が現在どうなっているのかを気にする声が相次いでいたらしい。
誰かが面白半分で、文芸部室に来るのではないかと心配した。それを防ぐため、文芸部室の普段は解放しない方のドアを少し開けて隙間を作り、バレない様に撮影をした。文芸部室に誰かが足を踏み入れられるような環境ではないことを知らせるため。それが一つ目の理由。
二つ目の理由は、先輩たちの事を思ってだ。
あのままでは、高橋先輩はいじめの加害者として、美景先輩は被害者として、学校中に知れ渡ることになる。しかし、あの「桜宮美景公開処刑事件」が、文芸部の自作自演だとしたら? きっと、茶番だったくらいの評価で済ませてくれるだろう。
一詩の狙いはこれだった。
あの後、俺は高橋先輩に強引に、ツイッターで、「今までの行いは全部、今回の文化祭を盛り上げるための“演技”でした」と謝罪をさせた。もちろん、高価な靴を泥だらけにした写真だとか、俺の「ご都合主義じゃないからいいですよね」発言とか、その後の美景先輩と高橋先輩の関係性とか、色々解決しきれない事象はあったが、そんなことを気にする鋭い奴はいなかった。
内心では、疑っている奴だっているのだろうけど、そこを本気で探る奴は“その時は”いなかった。
先生たちからは、後日、文芸部全員に、過激すぎる「文化祭の出し物の宣伝」について、厳重注意があったが、それだけ。
そして最後の理由だが、一詩が俺を目立たせたかったという私的な理由だ。
あいつは自分が有名人だから、幼馴染の俺にも同じようにを求めた。マジでふざけんな。
おかげで、例の動画は「とある文芸部の青すぎる文化祭宣伝」として学外の奴らにも流出することになった。俺の名前、ツイッターアカウント(オタクツイートしかしていない)なども容易に特定され、ネットのおもちゃになったし、大学生になった今ではひょんなことから住所まで特定された。たまに、抱き枕カバーなどが送られてくるという何とも言えない利点はあるが、正直複雑だ。
美景先輩はまぁ、ネット流出の被害は俺の四分の一くらい、全校生徒にいじめの被害者と認識されるよりはマシだったと思う。
とどのつまり。
あの事件の最大の加害者は高橋先輩ではなく松井一詩だし、あの事件の被害者は美景先輩ではなく、この俺、木良智識だ。
小っ恥ずかしい言動がネットでネタにされた上、俺のツイッターアカウントもまた、同じようにキャラクターについて熱く語ってあって、キャラがぶれないあたりがさらにバズる理由になった。
顔出しに、公開告白の黒歴史。それだけじゃない。
今では、自称・キャラクター分類学の始祖であり唯一の学者。自称・カリスマオタク。留年生。自称・人気アニメブロガー。TOEIC185点。実家出禁。夢はライトノベル作家の国立理系大学生など。
全てネタにされて、今ではツイッターのフォロワーが6桁を軽く超えるヤバめのオタクになってしまった。
……俺の話はさておき。
ひとまず、一詩のゴミカスが機転を利かせたおかげで文芸部は辛うじて、大問題を免れた。
でもまぁ、美景先輩はそれが恥ずかしくて、文化祭を休んで、文化祭当日は俺と一詩(勝手に俺を晒した罰として当番をさせた)の二人でなんとか対応した。俺も休めばよかった。
宣伝効果も大いにあり大盛況ではあったのだが、残念ながら、部数が少なすぎたため、大変だった。元より先輩からデータをもらっていたので印刷室で急いで印刷して、ホチキスで止めて、配って、OBや文芸部のファンとお話をして、黒川ありすの相手をして、クラスにも一応顔を出しては、美景先輩との関係をあれこれ聞かれ……とまぁ、本当に忙しかった。
そして文芸誌については、賛否両論どころか、称賛が多数だった。
だから……充実していた文化祭だと、俺は思う。
他じゃ体験できないレベルに、文芸部が主役の文化祭だったのだから。
☆ ☆ ☆
「というわけで、残り物全部突っ込みますから、二日くらい鍋が続きます」
「なら、明日は、彩乃の家に泊まることにするわ」
「それはよかtt……じゃなくて、残念です」
先輩は面倒くさい。というか、先輩は一人暮らしのはずなんだけど……。俺や大坪彩乃への依存体質、マジでヤバい気がする。
先輩が浪人時代にやってきたことを思えば、誰かに依存しなくてもやっていけることは分かっているし、依存体質というより、寂しがりやなだけだと思うけど。
「んっふっふー、じゃあ、明日は先輩と二人で鍋ですねっ!」
「ん? いや明日は俺一人で、寿司を食いに行くつもりだが……?」
「お寿司っ!」
え? あれ、俺なんで明日の計画を口走っちゃったの? てか、誰が、俺と鍋を食うって……?
「……ってキサ! お前いつからそこに?!」
「ずーっと、いましたよ。せーんぱいっ!」
「気付けなかったことは謝るから、鍋を食う前に抱き着くな、暑い」
「……七星さん、帰りなさい。ここはあなたの家ではないわよ」
我が物顔で言う美景先輩。因みにあなたの家でもない。
「むぅ、美景さんこそ、毎日毎日ズルいんですよっ。奇咲は二日連続鍋でもわがままを言わないので、奇咲の方が先輩の居候に相応しいんです!」
「残念ね、七星さん。居候になるためにの権利なんて何もないの。私と智識君は、高校時代から
居候に偉そうに語る権利はないのですが……。
「ぽっと出って……。一年間付き合いが長いだけじゃないですか! それに、美景さんは先輩が三年生の時に消えていたので、一旦経験値リセットされてますっ!」
「なっ?! 私はその一年間も智識くんのことを毎日思ってたのよ? リセットなんてありえないわ。大体あなたも智識君が大学一年生の間は会えていないじゃない。智識君は実家から出禁をくらっていたのだから、会えるはずもないものね。私が経験値リセットなら、あなたも経験値リセットで結局私より智識君との付き合いが浅いということね」
「むっ! 奇咲は、週に二回は先輩と電話してましたし、メールのやり取りなんて毎日してました! 美景さんより濃密なんですっ!」
あ、その話題はヤバい……かも、なんて。
「ふふっ」
「何がおかしいんですかっ!」
「だって、メールのやり取りを毎日だなんて……そんな面倒なこと、智識くんがすると思う?」
「それは……奇咲だからやってくれたんですよっ! 奇咲は先輩の特別ですからねっ!」
「お、おう、偉いぞ、奇咲。その通りだ。よく分かってくれたな、そろそろ、鍋を食べようか、豆腐が土鍋の底に焦げ付いちゃいそうだ、な、奇咲、なんなら俺がよそってやろうか? 美景先輩も、さぁ、はやく」
「え? あ、はいっ! いただきます、せんぱいっ!」
「智識君、あなた、もしかして、その女の味方をするつもりかしら?」
「そ、それは……いや、俺が誰の味方をするかなんて決まってるじゃないですかぁ、アハハ」
「……せんぱい?」
「そうよね、“あの事”をバラされたら大変だものね、
「あーはは、なんのことかなぁ……あぁ、美景先輩、今日は俺は狭いところで寝たい気分なんですけど、ベッドのスペースを埋めたい気分だったりしませんか?」
「なっ? ずるいっ! 奇咲も泊まりますっ!」
「ダメよ。ね、智識君?」
「あぁ、キサは鍋食べたら帰ろうな。家まで送るよ」
「むぅ、奇咲にだけ厳しくないですか? ところで、先輩、“あの事”って何ですか?」
「あー、キサが気にすることじゃないんだ。ちょっと色々あってな」
「んー? 変なせんぱい」
よかったキサが鈍くて助かった。
キサが怒ったら真面目に怖いから、この話は絶対にNGだって言ってるのに、先輩はキサにマウントを取ろうとして、地雷を踏みかねないからハラハラする。
「おーっす、智識。話し声が部屋の外まで響いてるぞ」
「……なんでお前まで来るんだよ! というかどうやって鍵を開けた!」
「酷いなぁ、僕は鍋の追加食材を持ってきてあげたのに」
「今じゃない、どんな食材も今は必要ない!」
「まぁ、いいじゃないか、僕も混ぜてくれよ、智識」
「お前だけ千円払え、バカ」
「全く……高校時代より、僕への扱いが雑になったんじゃないか?」
「俺の肖像権を侵害した時がお前への憎悪の最大瞬間風速だ、安心しろ」
一詩も、俺と同じ大学へ進学した。しかも恐ろしいことにこいつもまた、留年している。なんなら去年には留年していた。とにかく腐れ縁だ。はやく縁が腐りきればいいとさえ思う。
「大分県産のシイタケを持ってきたよ、鍋に入れていいかい? というかもう入れちゃったけど」
「死んでしまえアホぉ」
俺がシイタケが苦手なのを分かっての犯行だ。さすが一詩。ナチュラルな悪役。
「うん、美味しい。……にしても、何を言い争ってたんだい、奇咲ちゃん」
「名前で呼ばないでください!あと、口を付けた箸は鍋には絶対入れないでくださいね、あなただけは本当に許しませんからっ!」
「……酷い言われようだな。改めて、何を言い争ってたんだい、七星さん」
「……一日に二回以上話しかけないでください」
「えぇ……」
キサと言い、高校時代の優子と言い、こいつどんだけ嫌われてるんだ。
「仕方ない、桜宮先輩、教えてもらっていいですか?」
「あなたに先輩と言われる筋合いはないのだけれど……そうね、七星さんが高校三年生の時、智識君が何をしていたかの話をしていたわね、ふふっ」
「懐かしいな、突然、大学に来なくなったり、実家を出禁になったり、ゲームを極めだしたり、料理を始めたり、智識が何をしたいのか分からなかったな」
「えぇ、今でこそ慣れたけど、昔は驚いたわね。それに、智識君の場合は、少しの行動がすぐにSNSで話題になるから面白いわよね」
「それはそこのクソ虫のせいなのだが」
「君自身に魅力がなかったら僕の生配信なんかすぐに風化していたよ。君は人気者になるべくしてなったと思うな」
「いいこと風に言って、自分の罪を薄めようとするな。許さねぇからな」
知らないニューハーフから「お会いしたいです」などとダイレクトメッセージを送られてきた俺の身にもなれ。
「そういえば、七星さんは、僕たちが卒業した後の高校生活はどうだったんだい? 智識がいないしつまらなかっただろ?」
「……確かに先輩はいなかったけど、週に二回も電話に出てくれたし、メールは毎日送ってくれたから、奇咲はあの時もずっと幸せでしたよっ、ね、先輩?」
いや、「ね」とか同意を求められても知らないけど。
「あぁ、あの時のメールってほとんど、桜宮先輩が智識になりきって返信してたんだっけ、いつバレるかと思ったけど、最後までバレなかったよな。まさに恋は盲目というか……ってなんで、僕はこんなに睨まれているのかな?」
オワオワリ、だ。
「おいクズ、帰れ、お前はやらかした。友好断絶。外交、通商、交通、その他諸々全面封鎖だ」
「国際関係じゃないんだから……って、まだネタばらしをしてなかったのか?」
「……せーんぱいっ、どういうことでーすかっ?」
「あぁ、落ち着けキサ。落ち着こうかキサ。落ち着いてください!」
「……あーはは、僕は、言われた通り帰るとするよ」
「私も一度外に出てくるわ」
「え、ちょっ! 待って!」
「ひどいじゃないですかー、せんぱーい。先輩が卒業した後、希咲がどんな気持ちで高校に通ってたか知ってますかー?」
だって、1日に100通近くメール来たら怖いし面倒くさいじゃん……。最初のうちは頑張ってたけどさぁ、美景先輩に「これ、どう返信したらいいと思います?」って聞いたら美景先輩がスマホを奪い取って、ちょっと辛辣な返信を始めて、それでもキサはめげずにメールをしてきたから、美景先輩もムキになって……。その結果、まぁ、俺がゲームしてる時とかアニメ見てる時とかは美景先輩が返信をしていた。
「……キサ、愛してる」
「だ、だ、騙されませんよ! その場しのぎの告白なんて信じません!!」
「いや、本当だ。だから落ち着いてくれ」
「だったらなんでそんな酷いことしてきたんですか! 本当は奇咲のことなんてどうでもいいんだ!」
怒ったキサは本当に怖い。部屋中が散らかるくらいに荒れる。半分くらい冗談だってのは分かるんだけど。
俺は真っ先に“推し”のサインチェキと写真集を守りにいく。これだけは守らなきゃいけない。なにかと美景先輩とキサの目の敵にされる御方だし。
俺の行動にキサは余計にイラっとしたみたいだ。
笑顔のまま、漫画やらラノベやらが突っ込まれているそれなりの重さがあるはずの本棚を少し揺らしては、俺を威嚇する。
衝撃で、三冊の文庫本サイズの本が落ちる。質量と重力加速度に依存して落ちていく物体が、スローモーションのようにゆっくりと映った。
……あぁ、俺たちの文芸誌だ。
一年目。先輩が書いた、双葉ロゼとみりあ、そしてエルフの物語。
二年目。先輩と俺がアイデアを絞りながら書いた、双葉ロゼが引っ越した後、一人の男子高校生と出会う、続編。
三年目。俺が先輩にいつか見て欲しいと思いながら書いた、エルフのリーノをメインヒロインとしたスピンオフ。
走馬灯みたいだ。
俺の高校時代の全てが詰まってる気がする。
そんな大切なものを地面に落とすわけにもいかない。
咄嗟に持っていたサインチェキと写真集をベッドに優しく置いて。尋常ではない身体能力で、ダイビングキャッチを狙う。
よかった。どうにか取れそうだ。
ふと視界に、少女の顔。
……あぁ、これはあれだ。
「きゃっ!?」
不可抗力です……。
ライナー性の球に飛びつく内野手のようなダイビングキャッチをしてやろうとしていた俺と同じく、本をキャッチしようとしていたキサ。
ものの見事に俺がキサへタックルをかましたような構図になって。まぁなんだ。
ラブコメの瞬間最大風速のようなですね。とりあえず、キサを怪我させまいと抱きかかえようとした結果がですね……。
「すごい音が聞こえたのだけど、なんの音……って、智識君?」
「えへへ、せんぱい、愛してるって本気なんですねっ、嬉しいですっ」
横になりキサを強く抱きしめるような構図。俺の胸板に頭を擦り付けるキサ。
キサより怖い人が怒る。
「……この悪運、なんとかならんかねぇ!」
──誇れる先輩と後輩がいる。
俺が憧れた美景先輩みたいに。キサにとって俺は、しっかり背中を見ていたくなるような先輩であるのだろうか。
とにかく。
俺と“先輩”をめぐる物語は。
──まだまだプロローグの途中だ。
~第1章 La Fin.
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