美しすぎるバッドエンド
夏。夏と言えば不思議な出会いのイメージを抱くのは、ファンタジーを取り扱ったアニメ映画作品群が夏に多く公開されることに由来しているのかもしれない。それに、「夏はジブリ」なんて毎年盛り上がっているイメージのせいもあるだろう。
さて、この夏も誰かのもとにファンタジーがやってくる。
それは例えば、文化祭を前にした放課後の文芸部の部室。
きっとそこには女の子が何人かいて、夜桜のような儚さを持った美少女がそわそわとしている姿が思い浮かぶ。
俺はそこにいない。
高橋先輩と会うのが何となく嫌だった。それに先輩も今日は俺を望んでいなかった。
あれから色々話し合った。その話の中で、黒川ありすという存在の話をやむなくした。
俺たちは、俺たちが思っている以上に期待された存在なんだというと、少しは動揺しているみたいだったが、桜宮美景という先輩の放った、「それでもこれが私の物語よ」という宣言に俺は根負けした。きっと、彼女ならもっとあの物語の世界観や雰囲気に相応しいエピソードを別に用意できたはずだ。それこそ期待なんて超越してしまうはずのものを。
いや、十分に面白い。面白いけど、日常ミステリーはファンタジーにどこまでも近い現象を描くが、ファンタジーに踏み込むことはタブーだ。確かに面白くても、俺たち文芸部には禁じ手の物語というのはふさわしくない。
俺は先輩に凄い人であって欲しい。わずか20歳にして、偉大な曾祖母の名前のついた文学賞を受賞してしまうような化け物じみた人間にも負けないくらいに輝いていて欲しいと思っている。
──それは俺の勝手な幻想だ。
今は、高橋先輩とその友人たちが文芸部室で、クリーム色をした紙を滑らせている頃だ。
彼女たちの反応が気にならないわけじゃない。
なにせ、ずっと先輩を見ていたのだ。
何か本気になるものを探すなんて言っていた割に、そんなことを忘れていたように。先輩ばかり見ていた高校一年生の数か月間だ。
先輩の描いたキャラクターである双葉ロゼがファンタジーに最も近い存在なら、先輩は俺にとって最もフィクションに近い存在だった。
「やぁ、智識、帰るのかい?」
「まさか、突っ立ってるだけだ」
教室も、文化祭一色だ。俺は別に中心人物というわけでもなければ、何かを期待されているわけでもない。やることもなく、荷物だけ背負って教室の端っこに突っ立っているのが今の俺の役割。
「今日は文芸部に行かないのか?」
別のクラスから現れた一詩が立て続けに質問をしてくる。まどろっこしいやり取りになっている気がするが無理はない。こいつが聞きたいのは、
「多分、今日が“Xデー”だろうな」
「……少し話をさせてもらっていいかな?」
誰にも聞こえないように、俺が一詩に伝えると、一詩の顔つきがわずかに強張った。
「ねぇ、このクラスの文化祭委員長は誰かな?」
一詩は教室で明日の文化祭に備え準備をしている女子たちに話しかける。因みに無難に喫茶店をやるらしい。部活があるからあまり出なくていいともいわれているけど、土日の2日間何もしないのもあれなので、裏方なら暇なときは積極的に行くように宣言している。
「へっ? あ、わたし、ですけど……その、ど、どうしました?」
「そっか、ちょっと、あそこの壁際にいる男の子借りても大丈夫かな?」
「ひゃ、はい。全然、いくらでも、どうぞ!」
「ありがと。文化祭頑張ってね」
手をひらひらと振って女の子に感謝とエールを送る。圧倒的なまでのイケメンオーラ。にしても委員長さん、これはチョロい。
「じゃあ行こうか智識」
「おう、行くか。夢は異世界転生、特技は美少女いっぱいのクソラノベ制作の松井一詩くん」
「ぐっ……覚えがないかな、あはは」
あまりにもナルシストすぎる行動に教室全体にすべからく行き届くように、毒づいてしまった。委員長も『全然、いくらでも』ではない。確かに役立ってはないけどさ。それなりに料理の手際とか良いんだからね?
俺の報復に教室がざわついているであろう頃、俺たちが訪れたのは、校舎の外の自動販売機の前。
各教室、それから文化部の部室にほぼ全校生徒が残っているというのに、外に出てみれば体育系の部活もいない。まっさらなグラウンドを見渡していると、やけに背徳感に見舞われる気がする。
「……何が飲みたい? 奢ってやろう」
「突然どうしたんだい? ドケチな君らしくない」
「さっき、勢いに任せてお前の恥ずかしい秘密を暴露したお詫びだとでも思っておけ」
「それもそれで君らしくないなぁ、なんか裏がありそうだ」
俺の気前良さが、ここまで不気味がられるなんて、ちょっぴり不服だ。
本当のところ、飲み物を奢ってあげるという行動に裏なんてない。
なにせ、こいつの表情を見ていたら、俺の「とある推理」が的を射ていたことを確信できたのだから。
「まぁ、これからお前が話してくれるであろうことの情報量の前払いだと思ってくれればいい」
「……そこまで、読まれてたか」
「多分、お前が俺の立場でも気付いていたと思うけどな」
俺は、桜宮美景という美人すぎる先輩の傍にいた。
ここ数カ月なら、誰よりもあの人の傍にいた。
高橋先輩よりも、傍にいた。
「それで、一詩。話は先輩のことで間違いないんだろ?」
「あぁ、先輩
先輩の傍にいると、色々不思議な事が起こった。
そもそも、本人よりも先に、彼女の履くスニーカーと出会ったんだ。
それを届けると、彼女はふらふらとファミレスまで付いてきて。見た目に反してキャラクターが不安定すぎることが判明。
ぶっちゃけてしまうと、この人の傍にいたいと思って、よく分からないまま文芸部の入部を決めたのが俺だ。
先輩はその間、高橋先輩という友人の事をひたすらに想い続けていた。
その証拠が、彼女の書いた小説だ。
彼女は、想いを受け入れてもらいたくて。みりあから双葉ロゼへの一方通行な憧れを描くふわふわした関係を物語にした。
──それが先輩の書きたい物語。
それは少し特殊な形をした、日常ミステリーを装った、ファンタジーにたどり着く文芸誌。キャラクターのテイストや、最後にエルフが全てを持っていってしまうのは創作について、熱くレクチャーした俺の影響だろうか。
ほのぼのとしていて見届けたくなるような、先輩のちょっと変わったベクトルの可愛らしい恋心。
だけど現実は非情で、一詩が伝えてくれた通り、この文芸部はただの文芸部じゃなくて。
王道から少し外れた先輩の物語は、きっと賛否両論を生むことになる。
いつのまにか、先輩の居場所であるはずの文芸部室がアウェイになろうとしているんだ。
そして、高橋先輩も高橋先輩で、桜宮先輩の事を考えていて。アニメなんかを吹き込んだ、有害因子である俺を排除しようとしている
。ついこの間、事実上の近づくな宣言を俺に突きつけたところだ。
なんとも袋小路というか、各々がまっすぐと、悪い方向に突き進んでいるというか。
とにかく芳しくない状況にモヤモヤしそうだ。
「君の考えていた通り、高橋先輩は桜宮先輩のことを好ましく思っていないみたいだね」
本当に悶々としていた。──この状況を生み出したのが、高橋先輩の
確かにあの人の擬態能力は凄い。
なによりも、心を掴むのが上手かった。桜宮先輩は、納得できる時間を欲しがっていた。そんな時に居場所をくれたのが高橋先輩だったというのだから、そんなもの、好きになったってしょうがない。
……居場所をくれる存在が、どれだけ嬉しいことか。
『──文芸部にいらっしゃい。それでもきっと、楽しいと思うわ』
俺はそのときめきを知っている。心の中に、春一番のような豪快さで、新鮮な風が送り込まれるような感覚を、知っている。
だから、あんな悪魔に騙される先輩を責めるつもりはない。
「なぁ、教えてくれないか。君はいつから高橋先輩のことを疑っていたんだ?」
「最初からだよ。出会い方から異常だったと思うけど、それがなくてもあの人は違和感だらけだったからな」
「……すごいな、君は本当に」
先輩は、高橋先輩を友達だと言った。
でもやっぱり俺のキャラクター事典の中の「友達キャラ」と比較してもあの人は異常だ。
俺が出会った先輩の白いスニーカー。
先輩が初めて俺の家に訪れた時に、改めて見ると、おしゃれだなと思ってから同じブランドのものを探した。そのタイミングで、あの靴がとんでもなく高価なものだと気づいた。
先輩は言っていた。
『そのスニーカーを選んでくれたのだって、彼女たちなの』
先輩はお嬢様だ。金銭感覚がぶっ飛んでいるんだと思う。きっとお小遣いだって十分すぎるくらい貰うのだろう。
普通ならば、高校生がショッピングの中でおススメされたからと言って買うようなものではない。
むしろ、いくら相手が世間知らずのお嬢様だからってそんなものはおススメしないほどのものだ。
それを買わせて、ほぼ新品の状態で陰気な場所に隠そうだなんてのはやはりどう考えてもいじめだ。
友達付き合いの仕方も知らない先輩は、それを「単純なお遊び」なんだと受け入れてしまう。これもまた異常だけど。
俺は出会った日から、そんな“異常”な状態が、先輩にとっての“日常”になっているのではないかと睨んでいた。
今思えば、先輩は曖昧に話をしていたが、先輩が文芸部に入部したこと自体が先輩の意思ではないのではないかと推測している。
先輩が入学してから、文芸部員として精力的に活動していた二人の三年生が部活を引退するまでの間の数カ月間の事を考える。
先輩は唯一の一年生部員で他の部員は三年生だった。
そして三年生は文化祭の終了と共に、受験に専念するために引退する。
そこから先輩は部長となる。
部員がほとんどいない部活で、先輩は苦手な人付き合いをすることなくノビノビと部活を出来るようになったんだ。
文芸部はものの見事に先輩の居場所になる。
先輩は、それを見越して文芸部に入部した。
幽霊部員であることを許される環境。
数カ月で自分以外の部員が消えること。
それらを理解しておきながら、文芸部の伝統については何も知らない。
不自然な話な気がする。
きっと実態はこうだ。
美人すぎる上にお嬢様であるが故にクラスで浮いていた桜宮先輩に高橋先輩が優しくする。
そのタイミングで、いつか俺にファミレスでしたように、「納得できる時間を探している」みたいな話をする。
そこで高橋先輩が桜宮先輩に文芸部を勧めた。その時は無理でも8月前になれば、先輩は引退していて、部長として部活を行うことが出来ると言って。
それで先輩はとりあえず幽霊部員になった。
よほど友達がいない人でなければ、文芸部がとんでもない実力者を輩出している伝統ある部活であることは知っていることなのだという。
しかし知らなかったのだ、俺も桜宮先輩も。何故なら学校に友達がいなかったから。
そして高橋先輩は桜宮先輩と友達になる。
いつでも寄り添ってあげるような、気心知れた友達に。
文化祭が終わると先輩の、納得できる放課後が始まった。
少なからず次の4月になるまで、生徒会のルール上、部活は存続できた、そこで先輩はふらふらと放課後の時間をつぶした。
先輩は二年生になった。
ここで、問題が発生した。部活が停止になったのだ。先輩以外の部員がみんな掛け持ちしていたせいだ。
その問題を解決したのが俺の存在だ。何となく、俺、木良智識は文芸部に入部した。
──俺の存在が高橋先輩の計画を無茶苦茶にした。
俺が入部したせいで
本当は、文化祭のちょっと前、文芸誌を執筆するにはギリギリのタイミングで、救世主が到着するはずだった。
それが、高橋先輩の紹介してくれた、桜宮先輩に興味を持っているというあの男子生徒だ。
元より、彼を入部させるつもりだったのだ。
俺の存在さえなければ、この部活はどうなっていただろう。
……桜宮先輩は苦し紛れに文芸誌を書いていた。
高橋先輩は桜宮先輩に、『胸キュン』小説を書かせようとしていた。純文学で有名なこの文芸部には少し似つかわしくないものを書かせようとしていた。それも、締め切りがギリギリになった状態で。
いいものが出来るはずがない。それでも先輩は友達のために頑張るしかない。
高橋先輩は、偉大なこの文芸部に桜宮美景自身の手で泥を塗らせて恥をかかせようと画策していたわけだ。
文化祭の直前にでも、盛大にネタ晴らしをしてやれば、完成。その瞬間、友達だと思ってた人たちとの関係も終わり、先輩は本当に孤独になる。
その計画が1年間以上かけてじっくり……じわじわと遂行されていた。
「元々、俺たちの青春が文芸部である必要がなかったしな」
「えっ?」
俺のつぶやきに一詩が条件反射のようなリアクションをする。
「軽音部にあの人がいてもおかしくなかったんじゃないかって」
高橋さんと桜宮さん。お互いの呼び名にも距離感がある。
それに、ただの文芸部員である俺の方が、先輩の傍にいる時間が長かった。
放課後だって、土日だって、俺が先輩の傍にいた。それは部活動の一環であったけど、たまにくらいなら高橋先輩にその場所を取られていたって何の不思議もない。友達というのは、本当に些細なところから繋がっているべきだと思う。
メッセージアプリやSNS。週一回程度の電話くらいでもいい。その程度でいい。友達というのは些細なところで繋がっているもんだと思う。
俺と一詩だって、なんだかんだ、アニメの話を頻繁にするし。
キャラクター至上主義とストーリー至上主義で常に言い争っている。こいつは友達じゃなくてあくまで幼馴染だけど。
繋がり方なんていくらでもある。
俺が見た限りでは、2人の間にはそういったものが無かったように思える。
一緒に遊ぶことが友達のすべてってわけではない。
色んな形が友達というものの中にはある。親友、悪友、盟友、戦友、朋友……。本当に色々ある。
一方的な信頼で友達を名乗ることを、この俺が許すわけがない。
「その通りだね。高橋先輩が桜宮先輩を誘っていたら、もしかしたら、桜宮先輩は軽音部にいたかもしれない」
「まぁ、そうなっていたら俺は先輩の事をよく知らなかっただろうけどな。どうせ辞めてたし」
「あはは、その話はやめて欲しいかな」
幼馴染として、こいつは俺を軽音部に慰留しようとしていた過去がある。
結果として、俺は部活を辞めた。軽音を楽しめなかったからだ。
そんな俺は、今の文芸部を楽しいと思っている。
ほとんど何もしていない部活だけど、意味もなく充実している気がする。
だから悪いことだらけじゃない。
「それで、お前はどうやって証拠を掴んだんだ?」
高橋先輩のことを疑っていた。あの人が桜宮先輩にいつか危害を加えるんじゃないかって。ただ、確定的なものがなかった。
だから、軽音部で活動している一詩に、あの人たちが何かを企んでいないか軽く監視させていた。
「これだよ」
渡されたのはスマートフォン。
ホーム画面は今期のアニメの壁紙だ。確か公式で配布していたもの。
付き合いが長いと嫌でも見えてくるものがある。こいつのスマホのパスコードとか。
てなわけでロックを『0923』のパスコードで解除する。ちなみにこいつの好きな異世界モノアニメに登場するメインヒロインの誕生日だ。
「あぁ、ツイッターか」
ロックを解除すると同時にツイッターの画面が表示される。
『なな』という名前のユーザーのプロフィールページ。自己紹介文に思いっきり、学校名とクラスを表記している。
「どうみても高橋先輩だな……」
高橋先輩の下の名前が
「一応昨日まではアカウントに鍵をかけていたんだよ、それが今日になって解除されたみたい」
鍵垢。いわゆる自分をフォローしてくれるユーザー限定にツイートを公開するためのアカウントのことだ。
「そのまま鍵かけてたらいいのに、不用心だな」
「僕たちオタクと高橋先輩みたいな女子高生は、自分をさらけ出す時の感覚が違うんだろうね、そんな気がするよ」
そして、“過去ツイ”をさかのぼる。
高橋先輩が過去にしていたツイートを一つ一つ見ていくという行いだ。
[みかげちゃん、「絶対似合うと思う」の言葉を信じて六万円の靴を購入、バカでしょ笑]
あぁやっぱり。高橋先輩にほだされて買ったんだ。
[みかげちゃんが履いてきた六万円の靴は私が隠しました。見つけられるかな?w]
ウサギ小屋の裏に置かれた靴の写真。俺がその撮影の様子を遠くで見ていた事を高橋先輩は知らない。
[みかげちゃん、サッカー部と軽音部を辞めたスーパールーキー君を入部させる。見た目は悪くないけど、陰キャ二人で部活ってwww]
[みかげちゃん、文芸誌の作成に苦戦。そんなんじゃウチの文芸部のファンが黙ってないぞ笑]
[みかげちゃん、スーパールーキー君の影響でアニオタ化、まぢ無理w]
[スーパールーキー君に身の程を弁えろと伝えたところ、スーパールーキー君すこし涙目]
……涙目になんかなってないんだけどなぁ。などと苦笑する。
一つ一つのつぶやきに、高橋先輩の取り巻きと思われる人たちが楽しそうに反応しているのを見て、どっちが陰キャだとツッコミをいれたりもする。
[みなさん!]
[今日は、みかげちゃんが書いてきた小説を読ませてくれるらしいけど、興味がないのでテキトーにページめくって低評価を付けようと思います]
それが今日のつぶやき。
……さすがに心に来るものがあるな。そして、問題は一番最新の発言。
[今日を持って、みかげちゃんにぜーんぶネタ晴らしをしようと思います。友達ごっこもこれで終わり!というわけで鍵を外したので、これから始めるキャス配信を拡散してください]
[みかげちゃんのガッカリする顔、早く見たいなー笑笑]
キャス配信。つまり、スマホで桜宮先輩をこき下ろす様子を撮影して生配信をするということだ。
これで完結する、高橋先輩が桜宮先輩に用意した壮大なバッドエンド。
そんなものを色んな人に見せたいだなんて悪趣味だ。
とんでもない悪魔だ。
ツイートが更新される。キャス配信はちょうどさっき始まったようだ。
一詩と目を合わせて、頷き合って、キャス配信のURLをクリックする。
ザー、ザーと鳴るノイズが小気味悪く聞こえるのはきっと、俺たちが胸糞悪い未来を予期したせいもあるかもしれない。
『ふぅ、読み終わったよ。桜宮さん』
『そ、そう。感想聞いてもいいかしら?』
『あ、その前に桜宮さん。えっと、文化祭用に紹介動画とりたいから少し作品の話聞いていい?』
『え、えぇ。いいわよ』
『じゃあ、どうしてこの作品を書こうと思ったのかな?』
スマホを介して聞こえるメッセージ。
『そうね──』
淡々と説明をする先輩。説明をさせて、色々なことを聞き出して。先輩のこだわった事。頑張った事。……彼女が大好きなもの。そういったものを全部ひっくるめて高橋先輩は先輩を完全否定する。この物語のエンディングはそうなっている。
「なぁ、一詩」
「ん? どうした?」
一詩は一詩で険しい顔をしている。それはそうでこいつに関しては、高橋先輩をそれほどまでにあくどい人間だなんて疑っていなかったんだから。
「お前は、こういう状況の時どうする?」
こうしている間に、キャス配信の視聴者が増えていく。放課後、ほとんど全校生徒がクラスで集まって文化祭準備をしている傍ら。誰かがこのキャスを見つけて、他の誰かにまた伝えていく。桜宮美景は有名人だ。だから、誰もが視聴を開始する。
まさに公開処刑が始まっている。
「……本当はこんなことに関わりたくはないさ。でも気がついてしまった以上、僕は桜宮先輩を助けたいと思うよ。知らない仲ではないからね」
「さすが、イケメン様は違うな」
俺は正直に言って怖い。その場だけではなくて、画面越しに、とんでもない空気が出来上がっているのだから。
どうにかしたい。けど……一人で戦いきれる気がしない。
「……でも、僕は君が言うところのストーリー至上主義者だからね。桜宮先輩のもとに行くのはやめておくよ」
「は?」
俺は、一詩なら、もしかして。なんて甘えたことを考えていた。
こいつはイケメンで、優しくて。それでいて影響力もあって。本当にこんな状況を綺麗に片づけてしまうんじゃないかって。
「ねぇ、智識──」
──誰が彼女を助けるのが一番美しいストーリーだと思う?
たった一言。それだけで、怖気だとか、不穏な空気だとか。色んなものが吹き飛んだ。
その一言は、俺を走らせるには十分だった──。
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