世界樹と麗しのエルフ


 ──ある日、大切な彼女が突然エルフになった。


 その物語はそんな書き出しで始まった。

 大切な彼女という抽象的な表現もさることながら、突然エルフになるという突拍子もない説明にも付いていけなかった。


 そんな型破りなものが、木良 智識きら とものりが触れた、松井 一詩まつい かずしの処女作の最初のセンテンスである。


 俺の名前は〇〇。トラックに轢かれて異世界に転生してしまった!

 

 多大なインパクトを与えた一詩の書き物ではあるが、昨今の異世界ブームの中で定型文と言えるものをあげるのなら上記のようなイントロダクションであることを踏まえると、それほど異端な序文ではなかったりする。しかし、素人のネット小説はおろか、ライトノベルすらろくすっぽ嗜んではいなかった智識にとっては不道理ともいえる小説に思えたのだ。


 人は第一印象が全てと言われることが多いように、物語もまた、早い段階で肌に合わないと判断された作品がその評価を覆すことは難儀だったりする。事実、智識は以降の展開を批判的な視点で見ていた。


 さて、物語を読み進めていくと、案の定主人公は異世界にたどり着く。

 転生後の世界を異世界、転生前の世界を現世と呼ぶことにして、物語についてざっくり解説をすると、現世と異世界は表裏一体の世界であり、現世の悲劇を異世界の力を借りて改竄しようという話だ。


 異世界は現実世界よりも何倍も時間経過が遅いパラレルワールドであるという世界観だった。

 現世の人間が異世界へ移動することは不可能である。それ以前に異世界の存在を知らないで生きているのが現世の民だ。

 一方、異世界の人間はいくつかの制約のもと現世に交渉する術を持ち合わせている。


 主人公の彼女と突然現れたエルフの関係性については初めて創作を行ったにしてはしっかり作りこまれていたことは智識も認めている。

 現世は異世界よりも時間経過が何百、何千倍も早く進む。つまり、現世での一年は異世界での数百年、数千年であり、いわゆる精神と時の部屋的な状態になっているわけだ。

 そして突然現れたエルフに関してだが、主人公の“大切な彼女”を宿主にしていた。つまるところ、“大切な彼女”とやらの現世での寿命を数年分頂戴することにより、異世界での半永久の命を保証していたわけである。


 例えばの話だ。エルフは現世の人間から五年の命をもらうとする。異世界においては、現世の五年間は大体五千年なわけだ。つまり、その時点でエルフは五千年の寿命を手にするわけだ。しかし無償で五年間もの寿命など貰えるはずがない。そこには当然取引が生まれる。

 エルフは、寿命をくれた現世の人の体内にマナを流し込み、加護を与える。それが無事故・無病息災の加護だ。 

 五年分天引きされた寿命を迎えるまでは、確実に生きていられるという魔法のようなものだ。


 そうやって、裏の世界異世界から、表の世界現世に干渉をしているのがエルフなのである。

 

 主人公の“大切な彼女”とやらもまた、無事故・無病息災の加護を受けたはずの人間だった。

 ただただ、密かに天命として生きることになっていた寿命よりも数年短い寿命を全うして、裏の世界のことなんて知らないまま、表の世界に生まれ、表の世界で死ぬ運命にあるはずの女の子だった。


 しかし、エルフが彼女に奇生するには幾分か問題があったのだ。

 

 ──彼女の余命以上の時間を、彼女は奪ってしまったのだ。


 主人公の“大切な彼女”は、十七歳で死ぬ運命だった。超常な種族であるエルフなら、その情報を知ることはとても容易であった。

 だからこれはエルフの怠慢が招いた悲劇だ。

 彼女の体にマナが流し込まれたのは、彼女が十五の時だ。余命である二年分以上の寿命をエルフに奪われたのである。


 一方的に結ばれる、エルフと彼女の契約。それが締結される……すなわち、マナが体内に流れる時。彼女の魂が抜け落ちてしまう。

 そんなイレギュラーが起こり、彼女の肉体は空になる。否、肉体にはエルフが流したマナだけが居残る。

 要するに、肉体をエルフが乗っ取ってしまうことになったのだ。


 そんな紆余曲折が、『ある日、大切な彼女がエルフになった。』に凝縮されているわけである。


 これだけ聞けば、素人が書くにしては十分な壮大なストーリーである。

 しかし、智識はこれを『小学生の作文レベル』と称すのであった。言わずもがな、それにだって理由がある。


 まず、これだけの世界設定を表現する文章が稚拙すぎるのだ。異世界モノの小説に分類されるであろう物語であるが、その中でも複雑な量の設定を有していた。複雑な話ほど、文章をシャープにしなければならない。それがしどろもどろになってしまっていた。

 これはしょうがないだろう。空想……脳内設定が先行しすぎた結果、それが頭の中でまとまらず伝わらない事なんてプロですらいくらでもある。一詩がこれを書いたのは中学生の頃で、何度も言うが彼の処女作だった。だから、スマートですんなり読めるような文章を書くことの方が難しいことだろう。

 

 しかし、智識が苦痛を感じたのはそこではなかった。

 恵まれたプロット設定に対して、あまりにも結末が杜撰だったことの方が問題なのだ。

 

 彼女の体を乗っ取ったエルフに導かれ、現世から異世界へと、「不可逆」とされていた干渉転生が生じた。

 異世界には、全ての契約をリセットすることが出来る伝説の魔法の樹木があるとかなんだとか。

 

 その魔法樹に実った果実を食べることにより、彼女の魂を元に戻すことが出来る。

 そして、主人公が異世界へと訪れることが出来たのもまた、そのエルフとの契約の力であった。

  

 つまり、その魔法樹の果実をエルフが食べた瞬間、異世界での時間も終わり。エルフとの旅も終わるという。


 異世界にいったところで主人公は魔法を使えない。

 異世界にいようが、現世から来たままの人間に変わりないのだから、魔法なんて使えっこない。

 そんな主人公ではあるが、現世で剣道をしていた。

 全国で戦えるほどの腕っぷしを持っていたという。

 剣の腕が達者で、それだけで異世界で無双をしてしまう。

 

 エルフは、現世の人間の命を奪ったことを理由に異世界でひたすら腫れもの扱いされる。

 異世界側から現世に干渉することは可能であるという設定があったが、『異世界の人間はいくつかの制約のもと現世に交渉する術を持ち合わせている。』と表記したように、その『いくつかの制約』にがっつりと抵触したのが、そのエルフだ。


 エルフというのは、閉鎖的な村の中で他の種族とあまり深く関わらないように、集団で生活をしている。そんな村の中にすら、そのエルフの居場所はなくなった。一族の恥であるという烙印を押されたのだ。

 物語に至っては、同族であるはずのエルフに食べ物に毒を盛られたりして暗殺を企てられるシーンもあったが、主人公の勘が冴え渡って事なきを得るなど、ご都合主義が加速を見せていた。


 主人公からして見たら右も左も分からない異世界。

 エルフから見たら、あらゆるものが変わってしまった世界。


 二人はそんな状況で共依存という関係に陥っていたのだろう。二人の心情が刻々と描かれていたわけではないが、そう推察してから読み進めた方がしっくりくる。


 主人公は自分の“大切な彼女”の命を奪ったエルフのために、エルフを邪魔するものと戦う。エルフは、それをサポートし続ける。

 

 ある時は、そのエルフを必要ないと勘当したエルフの親にも盾をついたし、エルフの村を治めていた長老と呼ばれるエルフにだって対立した。

 彼らはそんなあらゆるものが敵となる生きにくい世界で旅をする。そんな彼らにだって仲間は出来る。奴隷だった犬耳の娘だとか、誇りを失い堕落したヴァルキリーだとか。血を吸うことが怖いヴァンパイアだとか。


 みんな出来損ないのレッテルを貼られたような、世界から疎まれているような奴らばかりだった。


 だけど、彼らは「禁忌のパーティ」とされ無視できない存在に成り上がっていく。


 そして、戦いに戦いを重ね、情報を巧みに集めて、限られた情報を整理し続けて、議論し続けて。そうやって何年もの月日を掛けて、ようやく魔法樹にたどり着くのであった。


 魔法樹の前にいた門番役のようなラスボスも、総力を決して満身創痍になりながら倒した。


 魔法の樹木は壮大に屹立していた。


 世界樹という概念がある。世界は一本の大樹で成り立っているとする宗教的な考え方だ。

 世界樹は根や幹を通して地下世界や冥界に続いているという。


 その魔法樹こそ、世界樹であった。

 この木の根は、遠く現世まで通じる。

 主人公と命を奪われた“大切な彼女”が生きていた世界に根ざしていたのだ。


 そして、世界樹は“現世”の時間間隔で一年に一度だけ、ノルニルの実という果実を実らせる。樹冠(木の枝や葉が茂っている部分)は“異世界”でしか見られないために、その果実は異世界にしか存在しないと言えるわけだ。つまり千年に一度だけしかお目にかかれない代物だ。


 運よく、ノルニルの実は存在した。大きな樹木の枝先に一つだけ、辛うじて見えた。

 かくして主人公たちの目的は達成される。全てをリセットできる。


 ……主人公たちは三年近く旅を続けていた。

 エルフが果実を口にした瞬間、主人公は現世に戻る。

 

 異世界に導く代わりに一緒にノルニルの実を探そうというのが彼とエルフとの契約なのだから。

 そして、彼は現世に戻って、大切だった彼女と出会うことが出来る。エルフになってしまう前の、身体にマナが流れていない“大切な彼女”だ。


 エルフは、忠告をした。木の幹を傷付けてはいけないと。

 ノルニルの実のついた枝を短刀を投げて落とすようにして手に入れるようにしなければならないらしい。

 

 幹を傷つけた瞬間、異世界と現世の接点が断たれるからだ。


 言われた通り、主人公は懐に忍ばせていた短刀を枝に目掛けて投げることでノルニルの実を手にした。

 それを受け取ったエルフが涙ながらに言った。

 

「これで終わるんですね──」


 すべてが終わる。その通りだ。すべてがリセットされて、終わるんだ。

 三年間生きた世界を終えて、記憶より一日ほど進んだ元の世界に戻る。


 ふと主人公の中に疑問が過った。数千年の寿命を得たはずのエルフは、その契約を失うとどうなるのだろうか。


「私は死にますよ。当然です」


 エルフが答えた。もともと制約を破った時点でエルフには生などないに等しかった。主人公が殺される運命のエルフを助けただけだ。


 ──そして、エルフが生きているのは、制約を破ってまで“大切な彼女”の余命を奪う契約をしたからだ。


 だから、その契約がなくなればエルフは死ぬ。数千年の余命を全て失う。

 考えればすぐわかることを考えなかった自分の愚かさを主人公は憎んだ。


 ただ、考えたところで何かが変わったわけではない。

 “大切な彼女”の二年ほどの余命を取り返すのが主人公の使命だ。


 三年間かけて二年間を奪い取ったのだ。それがこの物語のハッピーエンドだったわけだ。


 エルフはノルニルの実を食そうとする。

 主人公は、それを見届けることしかできない。


 必死になって、あらゆるものを敵に回して守ってきた命が自分のために散ろうとしているのを、ただ見届けることしかできないのだ。


 そもそも『ある日、大切な彼女が突然エルフになった。』原因はこのエルフだ。

 その死を惜しむ必要なんてない。憎むべき相手ですらあるのだ。


 ──にも関わらず。



 ☆ ☆ ☆ 



「──主人公は最後の最後に世界樹に剣を突き付けたんですよね」


 桜宮先輩は俺が話す、一詩の処女作のあらすじを食い入るように聞いていた。

 アウトラインを語りながら、本当によく覚えているなと自分に感心した。


「突き付けたらどうなるの?」


「……転生前の世界と転生後の世界が分断されるんだそうです」


 世界が分断される。

 それが、転生後の世界にとってどれほど不都合かを考えながら読むと、とても大層な事だと思った。


 それこそ主人公の彼女の命を奪ったエルフの行いなんか比にならないくらいの禁忌だ。


 結びついていた転生前の世界と、転生後の世界がその一撃で分断されてしまうのだ。

 契約を全てリセットするという伝説の果実も、ただの木の実と成り果ててしまう。


 そんなことよりも。エルフ達の永久の命だって失われる。これが大問題だと思った。一万年後かあるいはそれよりも早くか。エルフという種族が滅ぶのだ。なんていったってエルフたちは主人公が転生する前の世界……現実世界の人間から寿命をもらって生きている。接点を断ってしまえば、その事すら出来なくなるわけである。


「ノルニルの実を口にさえしなかったら、エルフが死ぬことはなかったのでしょう? 主人公はどうして世界樹を傷付ける必要があったのかしら」


 先輩もまた、その物語を読んだ時の俺と同じような納得いかない顔を浮かべていた。そのリアクションこそが俺がこいつの作品を「面白くない」と評価する理由だ。

 

「その辺は一詩に聞かないと分からないですよ。俺の作品じゃないですし。というか俺なら、元の世界に戻りますよ」


 それが落ち着くところに落ち着くというものだ。

 禁断のエンディングにもほどがある。無茶苦茶だし強引だし、とにもかくにもありえない。


「……でもまぁ、納得は出来てないけど考察は出来てます」


「考察?」


「エルフを安心させたかったからでしょうね」


「安心ね……」


 物語の最後に主人公がエルフに告白する。「キミが好きだ」。たったの六音。

 だけど、あらゆるものと戦い抜いた末に、旅の目的や、生きてきた世界、エルフという一つの種族、それから“大切な彼女”も。そんなものをすべて削ぎ落としてまで、エルフを選んだのだ。その六音には十分な説得力はあった。


 そして、自分の生きていた世界に未練はないと証明する事によってエルフへの本気も表現できる。


 仮に、その後心変わりしても元の世界に戻る手段はないのであれば、主人公とエルフが離れることがない。

 そういう意味でエルフを安心させたかったのだと思う。


「なるほど。確かにそう考えるとエンディングに無理はなくなるわね」


 主人公は、“大切な彼女”よりもエルフを選んだ。

 そのために世界を崩壊させかねない大罪を犯した。


 ──エルフのことが好きになったから。

 

 そんな理由でぶっ壊れたエンディングに到達してしまったのだ。


「えぇ。それで主人公とエルフが結ばれて終わりです」


 案外長い解説になってしまった。

 

「小学生の作文レベルっていうほどつまらないものでもないとは思わなかったけどね」


「一緒ですよ。この物語は、主人公が元の世界に戻るのが大団円です。……物語は美しくなければならないですから。一詩は、倫理観とか定石をバンバン無視して物語を展開していきます。だからダメなんですよ。主人公の強さの理由が剣道をやっていたからとかいうのも設定が弱いし、大体、魔法樹まで簡単に辿り着きすぎです。それ以前に敵が弱い。剣道経験者に出来損ないの奴らのサポートが付けば無双できるって小学生の発想ですよ」


「……辛口すぎるのではないかしら」


 まぁ、一詩の幼馴染だからこそ、厳しく見ているのかもしれない。


「読めば俺の言いたいことも分かると思いますけどね。その作品からそいつは進歩していないし、文章は相変わらず下手だし。無茶苦茶だったり強引だったり、非道徳だったり。苦痛すら感じることもあるくらいです」


「でも確かに、読んでいない私に言えることではないわね」


 文章を変えるだけで、作品のレベルは変わる。構成を変えるだけで物語は格が変わる。キャラクターや世界観を好きになってもらうためには、必要ない描写がある意味では必要になったりする。

 そういうことを踏まえてしまえば、先輩の言う通り、面白いか面白くないかは、「見なければ分からない」のだ。


「それこそ、あいつも文章を磨いて、キャラクターの作りこみを深くやって、描写の仕方とか学んでしまえば、ぐっと面白くなるんでしょうけどね。今はまだまだです。ありえません」


「そう……」


 何度もありえない。つまらない。とばかり言われれば先輩も嫌な気がしてくるだろう。


「でもさっき言った通り。その物語のエルフを知ったから、キャラクターの事ばかり考えている俺がいるわけですよ」


 そう。そこから始まったのである。


 小さな疑問だった。俺だったら、エルフと命を奪われてしまった彼女のどっちを選ぶだろうかと考えてみた。


 やはり、現実世界の彼女だった。


 ……そっちを選ばなければ、元の世界に戻れないからだ。


 俺には両親や姉貴や妹もいる。……必要かどうかはさておき幼馴染もいる。それに加えて彼女がいるという設定だ。

 

 総合的に見て、戻ってきた方が得る者が多い。

 世界樹なんてものに刃を立てることなんて怖くてできないというのもある。


 一詩の書いた小説の中に、“大切な彼女”との描写なんてなかったし、主人公が何人家族で、学校での成績がどんなものだったかとか現実世界の情報がほとんどなかった。不公平だとすら思うが、元より一詩はその世界を切り捨てるエンディングを念頭に入れていたために描くことをしなかったのだろう。

 作者が手練てだれであれば、現実世界と異世界のどちらを選ぶかで葛藤も描けただろうが、ド素人の一詩では出来ないのもしょうがない。


 そんな不公平に贔屓目ばかりで描写された世界であっても、俺ならば元の世界に戻ることを選んだのだ。


「……家族だとか、将来だとか、現実世界で積み上げてきた一切合切を全部切り捨ててでも、一緒にいたいエルフって、きっととんでもなく綺麗なんだろうなぁって思いました。それから俺のキャラクター至上主義が始まったんです」


 俺が単純に感受性が強すぎたのかも知れない。

 考えすぎだし、世界に入り込みすぎたのかもしれない。


 でも、何はともあれ。

 これがきっかけで、キャラクターのことを考え始めたのだ。


 もはや、哲学なんじゃないかって思うくらいに。

 ツンデレキャラとはなんだろう。クーデレがどうして流行っているんだろう。ヤンデレのどこに魅力があるのだろう。


 そんなことを深く考えはじめた。


「ふふっ」


 俺のキャラクターへのこだわりの奥底の理由を話し終えると先輩は小さく笑う。


「なにがおかしいんですか?」


「だって、勿体ぶって松井君の小説の話までして、それで紐解かれたのが『とんでもなく綺麗なんだろうなぁ』って。ふふっ」


「……確かに、そこまで立派な話ではないですね」


「えぇ。でも、木良くんの話はちゃんと役立つわ」


 先輩は笑うのをやめて、キリっと言い放った。とてつもなく自信に満ちた表情で。


「役立つって?」


「──思いついたの。文芸誌の小説。今度は確実にかける気がするわ」


「本当ですか!?」


 少し……いや、かなり嬉しかった。本当に招いた甲斐があったと思う。


「木良くんの話を聞いていて、気づいたことがあるの。だから。絶対に完成させるわ」


「……頑張ってください! 全力でサポートしますし、応援もします」


 何がトリガーになったのかは分からなかったけど、先輩はやる気を得たらしい。 

 

 迷いも不安も全て振り払ったような晴れた顔つきを浮かべて、「ありがとう」と何度か俺に告げてくれた。結局のところ、俺は自分のことばかり話してた気がするから、本当に感謝を受け取ってもいいのか分からなかったから、ちょっとだけ戸惑ったけど、それは言わずに役得を味わうことにした。

 

 そんなこんなで桜宮先輩の小説づくりが本格的にスタートした。


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