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 その後も全国のイベントに手当たり次第に応募していった。合同参加ブームのときと同様、一種の力試しであったように思う。文学フリマ岩手のスタンスや、そこで活動し独特の文化を築いている書き手たちの姿勢にはいろいろなものを学んだ。東北の書き手たちは非常に意識も高く粒ぞろいである印象が強い。平成二十九年しか行くことができなかったが、復帰した暁にはまた東北のイベントに訪れたいと思っているくらい、その熱意は強いものがあったし、それが参加するほぼすべての書き手から伝わってくるのはすごいことであると思う。

 そういった様々なイベントのなかでも、印象深いのはやはり第2回あまぶんこと「尼崎文学だらけ~夏祭り~」であろう。このイベントは、ぼくが今まで参加してきたものから考える即売会イベントという固定観念を崩壊させた不思議なイベントであった。その主催が、前述した謎多き書き手、にゃんしー氏であった。氏は尼崎の公園などでパフォーマンスをしたり、このようなイベントを開いたりしているかと思えばすさまじい速度で原稿を書いて新人賞に応募していたりと活動的な書き手で、その内容をかいま見ても全体像が謎に包まれており、氏の作品を多数読んだいまとなってもやはり氏の創作の軸のようなものをつかみ取ることは難しい。強いて言うならば、そういった軸のようなものをあえて持たない、持っていると思わせるようなことをしないという印象すらある。そういった謎多き書き手、人呼んで文学愛好家のにゃんしー氏が、やはり謎だらけのイベント「尼崎文学だらけ」を開催したことに興味を示したのは「かれ」だった。今だから正直に書いてしまうが、つまるところあまぶんの二回目、「夏祭り」に参加を決めた最大の理由はにゃんしー氏の謎にせまりたいというある種の下心であった。それほどまでにぼくにとって、にゃんしー氏は全国に進出し始めてから、ずっと謎多き書き手であり、またその評や作品のタイトルなどの表情から察するにどことなく「怪物」感が漂う存在だったのだ。もっとも、氏もおそらくであるが「ひざのうらはやお」というペンネームを最初に確認したときは「このひと、どういうもんかくんやろなあ」と思っただろうし、実際氏はぼくのペンネームを初めて見たとき「ナメた名前だ」と思ったようである。ぼくの作品への感想でそう評していた。つまるところ謎多き書き手であると思われていても仕方がないし、おそらくそれはお互い様だっただろうということである。とにもかくにも、このような動機があってぼくは「夏祭り」に行くことに決めた。結論から言えば、氏のあまぶん、そして本、文学に対する哲学の一端がここで見えてきて、文芸同人誌を頒布する場を作るということ、そしてそれを文化的に広げていくことの重要さと難しさに気づかされることとなった。この場で出会った書き手たちはその後でも顔を合わせたりツイッターをフォローし続けているひとも多い。それほどまでに、ぼくの即売会に対する姿勢や、文芸同人誌を頒布する場としての同人活動と同人イベントについて、そして「書く」とはどういうことかということを考えるきっかけになり、また、界隈の存在を強く意識させられることになったうえ、おそらくであるがぼく自身の立ち位置が若干明瞭になってきたようなイベントになった。少なくとも、ここまで明確に、ぼくが日々考えてきたことを明らかにしながら、様々な方向性の文章を書いて公開し、ものによっては製本し積極的に頒布していこうと考えたのは、この「夏祭り」でのできごとやそれに起因することがあったおかげである。

 そういった、様々なことが重なってひざのうらはやおという書き手の名前は徐々に多くの書き手およびその周辺のひとびとに認知されていくこととなる。それはやはり、ぼくが非常に多くのイベントに顔を出した成果であるところが大きいように思う。「界隈」にいるひとびとはSNSでつながっているので、その居住地は日本全国に広がっている。それらは緩くつながっているが緊密ではない理由はその地理的な要素が大きい。それらをすべてつなぎ合わせているのが同人イベントである。だから東京だけでなく、いろいろな地方の同人イベントに顔を出すことで、SNS上での出会いがリアルに、もしくはその逆にリアルの出会いがSNSで常時のつながりとなってお互いを「知る」ことが増えていくのである。そしてぼくはそこで読んだ同人誌を原則すべて感想を含めて公開していた。だからこそ、より「感想を書く人間」として深く認知されていると考えられる。作品より前に、ひざのうらはやおという名前を浸透させるという作戦はこのようにしておおむね成功した。

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