4話:太く白いヘビ

 ドカドカと入ってきた男たちは、黒光りした自動小銃を抱えていた。弾薬の束を背負っている者や手榴弾を両手に持つ者もいた。

 そいつらが左右に分かれると、真ん中をひとりの男がゆっくりと歩いてくる。油の浮いたアバタ面で太い葉巻をくわえ、明らかに人相が悪い。

 煙を吐き出しながら、しわがれた声でガナった。


「昇竜組よ。さんざんシマを荒らしやがって、イラつかせてくれたなあ。だが今日でお前らはお払い箱だ、ご苦労さん」


 あらら、縄張り争いか。売春組織の姐さん、運が尽きたね。こんなに武装したヤツらに襲われたら、もうダメだ。

 けど姐さん、全然ひるんでいない。


「ふん、そろそろ来るかと思ってたよ。変な因縁つけられて、こっちは迷惑してんだよ」


「オヤジも同じことぬかしてたなあ。死んじまったけどな」


 姐さんの顔が一気にこわばって般若のようになった。


「やっぱりオマエなのか、オヤジをやったの」


「ああそうだ、とでもいえば気がすむか? あの世に行ってオヤジに直接きいてみれば確実だぜ?」


 音が出そうなほど歯を食いしばる姐さん。握った両手のコブシは潰れそうだ。敵ながら、なんだか痛々しい。

 一方、揚げまんじゅうのような顔の葉巻男は、圧倒的優位のうすら笑いを浮かべている。


「組をツブして降参するなら生かしておいてやる。自分の身体を売って生きていけよ。鼻っ柱の強え女を好むS変態もいるから安心しろ。それはそれで半殺しかもしれねえがな、はっはっは」


「あたしたちふたり、オヤジに拾われて可愛がってもらったのに、オマエは恩を仇で返したのか? もう一度きく。やったのは、お前か!」


「腹の中からバケモノが飛び出してくたばった、ってのは知ってるけどよ、おれじゃねえ」


 姐さんは表情を変えなかった。

 けれど、あたしにはわかった。姐さんの胸の内に、悲しみが再びこみ上げるのと同時に大きな安堵が舞い降りたのが。

 おくびにも出さず、姐さんはいう。


「今日は本気で殺しに来たのかい」


 揚げまんじゅうは深く葉巻を吸い込んでから、灰色の息を吐いた。


「街の全部をウチがまとめようと思ってね。オヤジが死んで、そろそろ頃合いだ」


 そういうと、男はなぜか視線を落とす。

 

「こうでもしねえと、姉ちゃんはいうこときかねえだろう」


 床に向けて発する声は、頭の上がらない母親にいい訳するような弱々しさだった。


「あたしは自分の道を行くよ。クスリや武器を売りさばいたりしない。オマエだって、殺しだけは絶対しないって誓ってるんだろう? みんな信条を守って、共存すりゃあいいじゃないか」


 姉の説得に、弟は反論する。


「そうもいってらんねえんだよ、ヤバいんだよ」


「なにがよ」


「魔族の息がかかったヤツらが、でしゃばり始めた」


 姐さん、息をのんだ。

 魔族の恐さは一般人よりもヤクザのほうがよくご存知ということね。

 ここは国境の街。魔界と接した危うい場所だ。利用価値があまりないから攻め込まれてはいないが、常に危険と隣合わせには違いない。


「それがほんとなら、あたしらもう終わりだよ。しばらくどっかへ高飛びするしかないよ」


「そんなことできるか! 若けえもんが食えなくなって、のたれ死んじまうぜ」


「のたれ死ぬ前に、魔族に皆殺しだよ。オヤジが若いころ一度そんなことがあったって聞いたんだ」


「だから、しこたま武器をため込んでるオレたちに任せろっていってんだよ!」


「人間の武器なんてヤツらに通用しないんだよ!」


 あーあー姐さん、さっきからいい合いばっかだね。

 と、ここで澄んだ美しい声が姉弟ゲンカに参戦した。


「心配はいりません。魔物はわたくしたちが退治します。そのかわり、あなたがたは悪い仕事を廃業して、まっとうな市民になってください」


 ミランダが立ち上がっていた。ミントグリーンのワンピースが涼しげだ。


「なんだあ、こいつは?」


 目をつり上げる揚げまんじゅうに、姐さんが投げやりにいう。


「新人の超絶美女さ。けど、もう商売してる場合じゃないよ、荷物まるめてずらかるしかないね」


「荷物をまるめる必要はありません。勇者さまとわたくしがいますから。そのかわり、今後いっさい売春と武器販売をしないでください」

 

 まんじゅうはププッと吹き出した。


「頼みの勇者さまは、そこでグーグー寝てるじゃねえか」


 キッとにらむミランダは、ここに至って驚くべきことを口にした。


「グーグー寝てなどいらっしゃいません。ずっとうす目をあけて、わたくしたちを見守ってくださっているのです」


 え? 気づいてたの?

 あたしの目と姐さんの目がぱちっと合った。


「ま、まさか。でっかい象に使う麻酔だったのに……」


 姐さんの口があいたままになった。

 どうやら、このまま横になってるわけにはいかないみたいね、しょうがないなあ。

 あたしはおもむろに起き上がった。


「おまえら、うるさい」


 テレを隠すあたしに、荒くれ者たちの銃が一斉に向く。


「足を撃って、また寝かせちまえ」


 揚げまんじゅうがひとりの手下に命じた。

 が、その男の様子がおかしい。苦しそうに息を荒くしたかと思うと、口から勢いよく血を吹き出した。


「どうした、おい!」


 男はうなりながら腹を押さえる。大丈夫か、痛えのか、という呼びかけには反応せず、だんだん暴れ始める。

 手下たちは銃を取り上げて、羽交い締めにして抑えつけるが、男は両手両足をバタつかせて力いっぱい抗う。

 ひときわ大きな叫びを上げた男の腹が、不気味に盛り上がった。

 みるみる赤い血の色が広がった。

 そこにいたか、バケモノ。


 一瞬後に肉と服を噛み破って顔を出したものは、生白いヘビの頭だった。

 いや、ヘビではなかった。

 あたしは、いった。


「出たな、エイリアン魔人」

















 

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