3話:これって最上級の文化?

「ヤレます詐欺、とかどうかな? ヤレると思ったら、男はたくさんカネ出すよ。最後までヤラせたくない場合は、うってつけ。あんたはどう? それとも、ヤラせてもいい派?」


 雑居ビルの地下の一室で、詐欺師の女は「ヤレる」とか「ヤラせる」とか連呼しながらビジネスの話をする。ふんぞり返っている大きなソファーは華美で悪趣味だ。

 わきから男が来て、飲み物をコトンと置いた。


「あんたもどうぞ。のど渇いたでしょ」


 ストローをくわえる女の対面には、期待の新人ミランダ。ミントグリーンのワンピース姿はピンと背筋が伸びている。

 あたしは横のほうで床に寝かされている。さっきからうすーく目をあけて、ずっと見守っている。

 

「でもねえ、あんたみたいな超美人は、一般人には逆に警戒されるんだよねえ。ほんとはストレートに愛人契約がいいと思うんだ。大金持ちとか、政府高官とかあたり。いっそのこと王室関係者、いってみる? グリドル王子とか、ホイホイ乗ってきて大金出すよ!」


 ソファーから乗り出した女は、しかし急に元気をなくした。


「いや、ダメだなアイツは。逆に手玉に取られる。あんたを強奪されたあげく、あたしら脅されちゃって利用される」


 詐欺師のあねさん、よく分かってるね。

 ミランダも少しは理解したかな? グリドルがこいつらよりずっと上の悪いヤツだって。


「わたくしを商品にしてお金を稼ぎたい、というお話ですね?」


 王女さまはアイスコーヒーに手をつけず、涼しい顔だ。

 女はストローをズズっとすすり、ゴクンと飲み込む。


「そんな感じよ。でも、稼ぐのはあんた自身。最適な販売ルートをあんたに提供しますって、いってんの。買いたい人はワンサカいるのに、売り方がわかんないとダメじゃん? あと、危ないヤツとか普通にいて、そういうのから守ってあげるし。相手のことイヤになったら、違うのをスムーズに用意してあげる。そのかわり、分け前をいただく」


「お客はわたくしに、どれほどのお金を払うのでしょうか?」


「売る相手によるなあ。金持ちなら通常の10倍いけるよ。けど、あんたなら最初から10倍だから、10×10=100倍だね! あんたの取り分は2割、いや3割でいいよ!」


 声を弾ませる女。

 7割ピンハネで、いつもの70倍稼げるお化け商品が目の前にいるというわけだ。勇者に麻酔を使ってでもゲットしたかった気持ちは、まあわからないでもない。

 けど、王女さまが犯罪の片棒を担ぐだろうか?


「人間を売り買いしてはいけません。この国でも禁止されているはずです」


 ミランダのもっともな指摘に、女は反論する。


「奴隷を売り買いするヤツらもいるよ、そりゃあ。でも、あたしらは違う。麻薬にも手は出さないし、武器商売もしない。もちろん殺しもやらない」


 詐欺師の女頭領は、ニヤッと口角を上げた。


「あたしらが扱ってるのは『快楽』さ。人間の人間たるゆえん、セックスを商売にしてる。これって、最上級の文化だと思わないかい?」


 あたしの腰にチクッと薬を入れるのが最上級の文化かよ。


「わたくしは、そうは思いません」


 ミランダの語気がちょっと強くなった。


「セックスは愛です。愛は文化ではありません。人間にとって代替えのきかない、もっと根源的なものです」


 なにいってんの、笑える。ヤリ方も知らないくせに。でも、あたしも同意見だよ、おおかた。


「じゃあ、愛をやりとりするビジネスは、とっても上等じゃないか」


 姐さんがいい返した。


「その愛は、にせ物です」

 

 ミランダはゆずらない。


「気持ちいいセックスに、ホンモノもニセモノもないわよ」


「相手を大事にしようとする心がなければ、本物とはいえません」


「大事にしてるっていいながら、自分が先にイクやつはニセモノってことか?」


「そんなの知りません」


「パートナーのこと大事にしないヤツなんて、たくさんいるし、愛人のこと大切にするオヤジもたくさんいるよ!」


「うそです」


「ウソじゃない!」

 

 はいはい、もうここらへんでいいんじゃない?

 春を売らざるを得ない者たちのことを、ミランダは考えてるんだよね。なんとかしたいと思ってるんだよね。

 でも、なんかヤバイの来てるっぽいよ。

 こっからが本番だよ。


 自動小銃の連射の爆音が響いた。

 部屋のドアが蹴破られた。

 野太い声がした。


「動くな、昇竜組のウジ虫ども! 死にたいヤツ以外は手を上げろ!」


 


 

 















 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る