第4章:国境の街
1話:お江戸の時代劇かよ!
巨大な翼を羽ばたかせて、フェニックスはひと晩じゅう飛んだ。気持ちいい紅色の羽毛がふたりを包んだ。
ミランダには腕枕をしてあげた。彼女の小さな寝顔は、進学塾や習い事で疲れ果てた妹をあたしに思い出させた。昔の感情がよみがえって、くすぐったかった。
目を閉じたあと、あたしは何か夢を見た気がするけれど、覚えていない。
夜明け前に地面に降りたった巨鳥は、羽毛の盾に戻りながら異次元に帰った。
近くの川で、あたしたちは水浴びした。
ミランダの両腕に軟膏を塗り、包帯を巻いた。傷は浅くはなかったが、この子の身体は治りがいいから、今回も大丈夫だろう。
全裸の姫さまには、あたしの上着をはおってもらうことにした。
着せてやろうとしたら、彼女は何を思ったか紺の衣に顔を埋ずめて、大きく息を吸った。
「ユーイさまのにおいがします」
クサいかもしんないけど、とにかくブロンドのヌードを隠しなさい。じゃないと100パー襲われる。
ふたりでティコの実を噛んで元気をつけて、出発した。
河口近くにある街は「アンゴリー」という。
シャングリラの国境に位置する暗い街。
じつはシャングリラは魔界と接している。
つまり、これから向かう場所は魔族の世界への入り口でもあった。
街に着くと、あたしたちは真っ先に古着屋に入った。
なかなかミランダに似合うものがない。
背が高く見えるけど、脚が長くて顔がちっちゃいだけだからLサイズは×。
ウエストが細身なのがいいけど、どれもデザインが×。
よく見るとスレていたり、ほころんでいたりして×。
あたしは勝手に×を連発した。
「わたくしは、なんでもかまいません」
と、困った顔のミランダだけど……、あった! これこれ!
あたし好みのワンピースを見つけた。薄いミントグリーンでシンプル。なめらかなフレアが上品。
値札を見ると、ケタが違う数字だ。それもそのはず、ミランダのお国、西パステル産の高級綿を使用しているブランド品。
さっそく試着。
ミランダをボックスに入れようとして、あたしはミラーがマジックになってることに気がついた。
勇者ユーイは目がいいのよ。
店員をちょっとだけボコって、ワンピースをタダにさせた。
かわいいレースの下着を上下3組オマケにいただいた。
あとペッタンコの白いスニーカーも。
ラッキー。
この街では、こういう盗撮なんかは当たり前。アンゴリーは犯罪の街なのだ。
むふふ。
あたしは好きよ、こういうノリ。よろこんで相手してあげる。
でも、ミランダに変なコトしたらソッコー地獄行きだから気をつけてね。
姫さまを自分好みのカッコに仕立てて上機嫌で歩いていると、向こうから女が走ってくる。
その後ろに、追ってくる数人の男たち。なんかこれ、ありがち。
追っ手を気にしてふり返った女は、通りの真ん中で見事にあたしにぶつかった。「ああっ」などと声を上げて、すっ転ぶ。
もうダメと思ったか、あたしの後ろに隠れる女。
追いついた男たちは、みーんなガラが悪いチンピラ。
ひとりがあたしの前に出た。
「ご迷惑おかけしますねえ、勇者のお兄さん。そいつは借金踏み倒して逃げてる悪人なんでさあ。やっと見つけて連れて行くところでして」
息を切らして、作り笑いするチンピラ。
「助けてください! この人たち、ひどいんです。わたしを騙したんです!」
背中から、せっぱ詰まった女の声。
なんか、娘っことクモ助たちが追いかけっこする、お江戸の時代劇みたいねーと感慨深くしていると、腰のあたりでチクッとした。
あら、やるじゃないか。なかなかうまい芝居だったわよ。騙されたのは、あたしのほうね。
あたしは意識が薄れるのを感じた。
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