4話:あたしの覇気、何点?
気品あるミランダ姫とのディナーは、あたしの採点では100点満点でした。
けれど、マールの街の現状を知った姫さまが暗い面もちになってしまったので、残念ながら実質65点かな。合格ラインから5点のオン。
関係ないけど、あたし、現実世界ではいつも61点の生徒だったよ。プラス1点のみ。要領いいでしょ?
でもこういうのって、イイことなの? ワルいことなの?
「いくらなんでも、お父上をこんなに悪くいうなんて、なにかあるのだと思います」
ミランダの目の前には濃いルビー色のカクテル。赤ワインをジンジャーエールのようなもので割ってあるらしい。これ、あたしの世界では「キティ」っていうカワイらしい名前がついてる。
ここは酒場のカウンター。情報屋がよく来るという、例の場所。
「半年前には車イスで外遊して、東の国民に歓迎されたばかりなのです」
しかしその時以来、東パステルへの謝罪の言葉が聞こえてこないという理由で、西の国王のことを「冷血だ」、「ひとが変わった」と非難する声が増えたらしい。メディアの取材を受けられないほど、病状が悪化しちゃってるからなんだけどね。
国民感情なんて、勝手なもんよ。ひとの心と夏の空って、よくいうじゃない。あれ? 違ったっけ?
あたしの前に、バーテンの男が黒いスパークリングを置く。なんかの酒をコーラで割ったもの。「キューバリバー」ってやつに近い。
思い出すのよね。元カレがキティが好きで、あたしはキューバリバーだった。
ぐっと一気に飲み干す勇者ユーイ。
案の定、げっぷが出た。
ミランダ姫は赤い液体をちょっとだけ口にして、コトっとグラスを置く。
彼女は低く、張りつめた声をしぼり出す。
「きっと、魔王の手先の仕業です。人びとの心は操作されているのです」
出たよ、陰謀説。なんでもそういっちゃえば納得しやすいという。
あたしは疑問だわ。大勢の人間を操る魔人なんて、転生人生の長いあたしでも聞いたことがないよ。
でも、もしかして、変なウィルスをまき散らすテロってこと?
「よう、異国のお嬢ちゃん。はるばる東パステルに何しに来たんだい?」
ひとりの酔っ払いが、あたしとミランダのあいだに身体を割り込ませた。さっきから後ろの常連客っぽい数人が、あたしたちにネットリした視線を向けているのは知っていた。
「それ、イスカンダルのベールだろ? この国では隠すと失礼なんだぜ。世界の果ての田舎から東パステルの都にオノボリしたんだから、ちゃんと顔を見せて、どうぞ仲良くしてくださいってお願いしなきゃ」
なんなの? この上から目線。経済力が上になったとたんに下の国を見下して。
醜い男はミランダのベールに手をかける。
おっと、気高い美貌をあんたたちに拝ませるつもりはない。
あたしは腕をつかんだ。
「ぎゃああーっ!!」
あ、また力加減まちがえた。ごめんなさいね、骨折れたかも。
放してやると男は床に転がった。
「なにしやがんだ、この野郎!」
音を立てて常連たちが立ち上がる。
せっかく来た酒場なんだけど退散するか、一杯は飲んだし。
硬貨を置いて、ミランダの手をとる。
けれど出口をふさがれた。みなナイフとか棍棒とか持っている。
こいつら、あたしのこと怖くないんだろうか。大きな剣や羽根の盾なんかを身につけてるあたしのことを。
そう考えると、あながちミランダのいうことは見当違いじゃないかも。
つまり、こいつら操られているのかもね。
仕方ない。
あたしは片足を大きく上げた。
うりゃあー!
足を勢いよく床にたたきつける。
大きな音とガタつく振動。
とたんに男たちは動きを止めた。
これ「覇気」ってやつよ。あたし、前からけっこう得意で、数秒くらい敵を止めることが出来てた。今回はどうかというと……。
男たちは氷漬けみたいになっている。当分のあいだ動かなそう。てか、失神して次々にぶっ倒れていく!
う〜んバッチリ、200点!
あたしはふり返ってバーテンを見た。こいつだけは目をパチクリして正気だ。なぜかというと、あたしが覇気を避けてあげたから。
ずっとチロチロこっちをうかがってたバーテンこそが、ここの情報屋だと気がついていた。
「店を任せて、宿へ来い」
場所を教えたあと、あたしは付け加えた。だれかに気づかれたら殺す、と。
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