3話:あたしは結衣

 あたしは、ゆい。

 代々木結衣よよぎゆい

 ここでは勇者ユーイ。

 何者なのかというと、現実世界ではナースをしている女子です。こっちの世界には、ちょくちょく来てる常連。


 ちょくちょく来てるけど、心配ないわよ。あっちに戻ったときに浦島太郎になっちゃったら非常に困るけど、あっちでは時間がほとんど進まないみたい。合計したら、あたしスゴい長いことこっちにいると思う。

 まあ、ぜんぶ途中でやられちゃったんだけどね。


 過去、アタマ使ってさんざん工夫したんだけど、ダメだった。

 いかんせん女勇者は腕力がなかったね。筋肉がないと、スキルもショボいの。フェニックスの盾なんか、鳥の羽根で作ってあるでしょ? あたしが使うと普通のウチワと変わらないの。笑うしかないよね。


 女だったばっかりにと思うと、ムカついてくる。

 あ、男だってたいがい悲惨に終わるわよね。そうよね。


 でも、今回は違うとあたしは確信してる。

 召喚される時に発するエネルギーが大きいほど、その勇者は強い。部屋の中を一瞬で灰にしてしまうんだから、もう恐ろしいレベルよ、あたし。


 でも、それだけじゃなくて。

 理屈抜きで感じるものがあるのよ。

 余裕があるっていうか。

 いろんなことが、前とは全然違う。

 力は強いし、走るの早いし、食欲はスゴいし。

 仕草とか荒っぽくて、物がすぐ壊れるし。

 言葉にするとくだらないんだけど、なぜか自分が強くなった気がしてくるの。

 根性も集中力もありそうで、頼もしいの。


 悔しいけど。


 ところで、あたし。

 いま意外にリラックスしてます。

 この世界に実体化して、今日で1週間。ちゃんと食べさせてもらって、お湯浴びもさせてもらって、城のひと部屋を好きに使わせてもらって。

 過去の転生人生で、いちばん快適。


 なんでこっちの世界に来れるのか。あたしもよくわからないけど、なにか理由があるんだろうね。

 やられてもやられても、また挑むのも、なにかのためなんだろうね、きっと。


 いつかわかる日が来るかなあ。

 魔王を倒した時かなあ。


 こっちの世界から求められているというのは、わかる。

 魔王は人間たちを滅ぼそうと、ジワジワ魔の手を伸ばしている。過去に勇者のあたしが助太刀した国は、どうやらほとんどがやられて、消滅しちゃったみたい。

 力不足でごめんなさい。


 夕闇の空。

 昼間の喧騒は、いつのまにかどこかへ行ってしまった。

 窓をあけ放って、城下街の明かりをながめる。

 今日もおだやかに時が過ぎて、早くも眠たくなってきた。頬づえを突くあたしの頭が、だんだん傾いていく。

 明日は下へ繰り出そうかな。パステル綿で編んだかわいいバッグ、欲しいけど専門店ブティックは高いよね。オシャレな酒場バーにも行ってみたい。西パステル産のワインはぜんぶ特級グランクリュって、すごくない?


 そういえば、飲んだくれの横芝よこしば先生、今ごろどうしてるかな。夜中に呼ばれて救急外来で頑張ってるかなあ。もう少し優しくしとけばよかったかしら。

 でもあたしには金髪美男子がいるもんね。王子、今日は顔を見せないなあ。

 などと、ぼーっと思いをめぐらせていると。


「ユーイどの、よろしいか」


 来た来た。




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