第3話 女の子には秘密がいっぱい
握っていた手を離すと、彼女は解放された小動物のようにひょいっと一歩前に行く。そして俺と同じ速度で歩きながら話し出す。
「よかった……外に出たくても周りの様子が分からなくて困ってたの」
言い終わる頃に、流れる銀河を連想される一色に統一された、銀色の遊ばせた長髪を靡かせる。くるりと振り返るそんな姿に俺の中の何かが唆られてしまった。
「どうして、あんな所に?」
「え? そ、それはその……」
途端に目を見開きながら戸惑う彼女。
「訳ありみたいだな。無理には聞かないよ、俺は廉」
「えっと……私は……」
と、また戸惑いながら一拍子置く。
なんだ?
「リッカ!」
リッカ……
やっぱりかな。あまり聞かない名前といい、髪の色といい彼女は日本人ではないのだろうか。となると、彼女は日本語が上手なハーフか?
「あなた、とってもいい人ね」
目を細めてそう言うと、再び髪を靡かせながらくるりと回って前に歩き出した。月の光でも十分な輝きを得ることができる銀の髪は腰のあたりで揺らぎを止めた。
いい人……か。今までそんなこと言われたことなかったな。その言葉は素直に受け取っておこう。
「大変!」
突然の大声に俺の心臓は跳ね起き、リッカの向いてる方向に目をやる。そこには微かに先ほど見た格好の男がいた。今度は1人だった。リッカはバレまいと、外していたフードをさっとかぶる。
この辺は、あんな格好の奴らがうようよいるのか?
あっちはこちらに気づいてないようだ。
「捕まるわけにはいかないの、お願い!」
リッカはこちらに顔を向け、精一杯の力を振り絞ったように上目遣いで言う。
元から護るつもりだったし……いくつか方法は思いついたが、今は確実に逃げれる選択肢を選ぼう。
「分かった、繁華街に行くぞ!」
「はんかがい?」
知らないのも無理はないか……
「付いてくればわかる」
そして、奴とは反対の方向──繁華街の方に向かった。
人混みに紛れられるから好都合かもしれない。彼女は灰色のポンチョのような服を着ていて、間から覗かせた紺碧のワンピースと、服装的に走りづらそうなので、俺たちは駆け足でその場を後にした。
「もうっ、ほんっとにしつこいんだからあの人たち」
「どうして逃げ回ってるの? 奴らは何者なんだ?」
「ちょっと……ね」
「ちょっと?」
「女の子には秘密がいっぱいあるのよ」
秘密……
大丈夫なのか。もしかしたら俺はとんでもないことをしてるのかもしれない。
所々で奴らを見かけたが、裏道などを使って繁華街が近づいていることが分かった。だんだん明るくなってく街並み、人の声や足音、車の音。個人的に都会の夜はにぎやかで好きだ。
1日でここの景色を3回見る事になるとは……
「付いたな」
「ここが繁華街って言う所?」
「そうだ」
『わーっ』と目を輝かせながら感激しているが、そんな場合ではない。ここにも奴らがいるかもしれない。
「ほら、置いてくよリッカ」
「待ってよ、女の子には優しくするものよ」
駆け足で変に目立つのもダメなので、歩くことにし、人混みに紛れる。同じようにフードも悪目立ちするので、外してあげようと思ったが、彼女の髪はきっと人々からも銀河を連想される程、余計に目立ってしまうはずなのでやめた。
「俺に付いてくればいいから俯てて。お前は今から陰キャな」
「いんきゃ?」
「知らなくていい」
知らないのも普通だろう。
そして俺は次の段階に移ろうとしている。逸れないようにリッカの手を──と思ったが、流石に女の子と2人で手を繋いで街中を歩くのは抵抗がある。それに内心リッカが嫌がってたら……ショックだが女の子の意見は尊重してあげたいので俺は腕をパシッと掴んだ。
途端──
「細っ!」
「わぁ! もーびっくりしたー。……何が細いの?」
「腕だよ!」
「え、これそんなに細いの?」
自分の腕のことを"これ"と言うのもどうかと思うが、兎に角細すぎる。そもそも女子の腕なんか掴んだことないから、これが細すぎるのかは分からないが、たが見る限りには絶対細い方だ。
「おま、折れたことないのかよ?」
「折れるって……私の腕をなんだと思ってるの?」
自覚のある変な質問に、彼女は小馬鹿にしたように笑う。
これって側から見ると少女を誘拐している変態にしか見えないんじゃないか? 幸いにも彼女が幼女という体型ではないほどに救われているが……
ひたすらに歩き、それに引き連れられるようにリッカもついて来ているのだが……突然腕が引っ張られた。重心が鈍り、よろっと傾いたが反射的に片足が出て体を支えることができた。振り返って分かったが、引っ張られたというよりかは俺が引っ張ろうとしていた。
その場で静止していたリッカは顔を横に向けていた。輝かせた瞳から、何を見ているのだろうと純粋な好奇心でその視線を追うと、そこにはラーメン屋があった。
「食べたいのか?」
「え、あ、うん!」
「仕方ない」
「いいの!?」
「いいだろう」
食べさせてあげたいのもあるが、俺もちょうどお腹が空いていたので半分は俺も食べたいという理由でラーメン屋に入ることになった。
あの怪しい男たちの事は、ラーメン屋を見た頃には既に忘れてしまっていた。
隣の彼女は自由を夢見る @fuka2116
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