第17話

 カテーテル治療本番の日がやってきた。とは言っても私自身は検査の時とは何も変わらない。寝ているだけだ。違った点は、本番は主治医が担当した事だろう。他にアシスタントとして医師がもう一人いた。

 今回も長く時間のかかるカテーテルだった。主治医は慎重で、突き刺した血栓の破片が血の流れに乗って他の場所で詰まったりしないように、先に血栓を捕まえるために二重にしたステントを置いてから治療に入った。

主治医の目論見通り、カテーテルで突き刺して砕けた血栓は、そのまま血流に乗ったが、その先にある二重ステントに引っ掛かりそこでキャッチ出来た。

その後治療は順調で何の問題も無く完了した。カテーテル室を出た時には私は間違いなく生きていて、相変わらず代わり映えのしない天井を眺めていた。

 そして相変わらず血が止まり難い事で止血処理で痛い思いをするのだが、今回は事前に血が止まりにくい事を看護師に言っておいたので、血の噴水になる事は避けられた。

夕方には主治医がやってきて治療は成功したと告げ、今後のリハビリについての説明があった。

 心臓病で治療を受けると、心リハビリという物を受けなくてはならない。心電図を付け、看護師や技師の監督の元軽い運動をする。その負荷の様子を観察し、徐々に激しい運動をしていって日常生活に戻れるようにすることが目的だ。

私の場合は若いから、という理由でリハビリを段飛ばしにして早めに退院出来るようにしましょうと言われた。

 そして明日からベッドから降りて、部屋の中を歩いても構わないという許可が出た。ただし部屋の外には看護師同伴でなければ出る事が出来ない。それでも大分嬉しい事だ。天井を眺める日々はようやく終わった。

 日が変わって次の日になると、看護師が私の体中に付いていたセンサーの数を減らし、心電図も壁据え付けの物からランチボックス大の持ち運び可能な大きさで、無線でナースセンターにデータを飛ばすというハイテクな物に替えられた。

点滴も外され、晴れて私をベッドに縛り付けていた物から解放される。だがしかし、病室からは解放されていない。

 改めて部屋を見回してみると、私のベッドの頭上に様々な機器が壁に埋め込まれていて、そこに心電図のケーブルや酸素供給のためのチューブを取り付けるようになっていた。

そしてそれまでずっとカーテンが閉めてあった大きな窓がある。カーテンを思い切り開けてみると、朝の通勤に急ぐ人たちの姿が見える。

 私のいる病院は戦災で焼けてしまった城跡の公園の前にあり、堀と再建された櫓が目の前に見え、堀に沿って道路があってその道路沿いには合同庁舎や県庁が建っている。更に直接は見えないが、道路を進んだ先にお嬢様学校として名高い女子高もある。

病室は五階のため、丁度良い具合に通勤通学の人たちを見下ろす形になる。

 上げ膳据え膳でベッドの上で食事をし、ボタン一つで三十秒ほどで人がやって来て、どこへ行くにも付き人が付いてくるし、更に庶民が労働に向かう様を高みの見物である。

どこのスーパーセレブかと思う生活だが、残念ながら望みもしない監禁状態で、足早に勤務先や学校に向かう人たちが羨ましくて仕方がなかった。

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