第11話

 三日ほど検査で費やした後の夕食後に、主治医が私の部屋までやってきてこれまでの概要を説明してくれた。決まって夕食後に主治医が現れるのだが、この人は一体何時まで働いているのだろう、と余計な心配をしてしまう。

主治医はレントゲンの写真を見せつつ、予め心臓の絵が描かれた用紙にペンでどういう状況なのかを書き込んだ。

 それによると、私の場合は心臓の左前下行枝という冠動脈が血栓で塞がっているとの事だ。しかし、偶然細い血管がまるで塞がっている個所をバイパスするかのように繋がっていて、僅かながら血液が流れているとの事だった。

そのため、本来なら壊死してしまう部分も完全には壊死しておらず、閉塞部を開けて血液を流せばいくらか助かるかもしれない、と言われた。

ここへ来て初めて明るい話題だ。しかし喜んで良いのか微妙な所ではある。

 そして検査の最後の仕上げはカテーテルという細い管を冠動脈内に通し、問題の部分に造影剤を注入しX線撮影して、より正確に状態を把握するものを行うらしい。

もちろん私は初体験どころか初耳で、話を聞いた時点で怖くて震えあがっていた。

カテーテルを挿入する動脈は手首か足の付け根で、今回は右手首から通す事になる。

 そしてまた同意書の出番である。しかも今度の同意書の内容はなかなか気が重い内容だ。それはカテーテルにおける危険性を説明する内容である。

私のいる病院は心臓病における治療で有名な病院でカテーテル実績も多いのだが、極僅かながら閉塞部を開けた際に血栓が脳に行ってしまい、脳梗塞を起こす等の合併症も起きていて、死亡例もある。

 だからと言って怖いから止めます、なんて言えるはずがない。拒否したらそのまま追い出されるだけで、それは自殺と変わらない。

もちろん私は同意書に署名した。下手な字で。

 その後主治医が去った後にT字剃刀を持った看護師がやってきて、剃毛プレイの時間になった。明日のカテーテル検査の下準備だ。

元々毛深い私は自分でムダ毛処理をしていた事もあり、剃毛プレイは短時間で終了。

 カテーテルは一日何人か行うそうで、私は朝一番になった。じりじり執行まで待たされるよりも、すぐにやってくれた方が気が楽だ。

待たされると余計な事を考えて恐怖ばかり募りそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る