第10話

「採血です」

 その声で目が覚めた。眠れない、と言いながらもウトウトしていたようだ。もう朝だ。

看護師は様々な器具とノートパソコンを乗せたワゴンを押して部屋に入ってきた。ワゴンには沢山の採血用の容器が並んでいる。

 入院時に、足に巻かれた細長い用紙に印刷されたバーコードを看護師がスキャンし、名前を確認。

この入院患者を取り違えないようにするためのバーコードだが、まるで出荷されて行く牛のようだ。牛もこんな気分なんだろうか。

 大好きな人はいないと思うが、私が注射が苦手だ。なのに不思議な事にこういう状況になると感覚が麻痺してしまうのか、特に何も感じなくなった。

入院している間はとにかく注射される。毎朝採血があり、点滴は常時で、何か処置をするのにも注射がある。人間慣れてしまうものだ。

 私の血を奪い取った看護師が去った後は、昨晩十分寝ていないせいかウトウトし始めた。そうすると次は、


「お食事です」


という声で目が覚めた。朝食が来た。

 管理栄養士が考え、調理師が作った高品質な朝食を配膳係が運び、ベッドの上で食する。

どんなセレブなんだという感じなのだが、残念ながらここは病院だった。

 朝食を終えると看護師がやってきて、今日の検査メニューを説明してくれる。

しかし、検査の名前を言われてもピンとこない。一応どういう物かの説明は受けたのだが、それもよく分からない。分かった所でどうしようもないのだが。

 その後しばらく時間を空けてから、私はベッドに乗ったまま部屋を出発した。

相変わらず天井しか見えていない。エレベーターに乗り、何階なのか分からないが降りて、廊下を進むと目的の場所に到着した。

 検査は沢山あった。レントゲン、心電図などよくある検査から、アイソトープという初めて受ける検査もあった。もちろんその都度ベッドごと移動する。

どの検査も私はベッドに寝たままで、機器に移動しなければならない場合、背中に細長い板を入れて複数の看護師で持ち上げて移動する。まさにまな板の魚だ。

次々に検査を受けて昼食時には部屋に戻る。午後にはまた部屋から出発して検査へ向かう。そんな日が三日ほど続いた。

 この病院は一部工事中の場所があり、ある時工事中の箇所が通過できないため、仕方なく外来が並ぶフロアを通り抜ける事になった。

総合病院の外来なので、とても沢山の人たちがいる中を、私を乗せたベッドが進んで行く。なんとも気恥ずかしい。

私が多くの人をかき分けてベッドで進んでいる事を、まるで重病人ですね、と笑いながら言ったら、


「重病人です」


と看護師さんに真顔で言われた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます