第4話

 救急外来は一階にある。救急車で運ばれてきた患者がそのまま運び込めるように、当然そうなっている。

私のいる場所は二階だったが、目の前にあるエスカレーターではなく、わざわざエレベーターを使って一階に降りた。

 この病院は東館と西館に分かれて二つのビルになっていて、救急外来のある東館は一階と言っても外来のある西館と少し離れているのでとても静かだ。

車椅子に乗ったまま受付を済ませ、奥に入って行くと壁も床も白く広い部屋があった。

入って左手には様々な見た事もない機械と沢山のモニターがあり、右手には複数のベッドが並び、それぞれが見えないようにカーテンで仕切られている。

 私は一番手前のベッドに寝るように指示された。ベッドと言っても細く角度の緩い椅子のようなもので、その脇には沢山のモニターとケーブル類が備わっていた。

言われるままにベッドに横になると、すぐに車椅子を押して職員は出て行ってしまい、その代わりに四人ほどの看護師がどこからともなく現れて、私の周りを取り囲む。


「点滴の針入れますね。ちょっとチクっとします」

「心電図つけさせてくださいね」


そう言って断る暇もないほどの手慣れた様子で私の服を捲り上げて、体中にケーブル類を繋いでゆく。

更に鼻にチューブが差し込まれ、酸素が送られてきた。初めての経験だ。

あれよあれよという間にベッドに縛り付けられた私。そしてまたすぐに看護師たちは私の傍から消えていなくなった。

 私が自分に繋がれた様々なケーブルや機器を眺めていると、白衣を着たショートカットの女性が一人現れた。

女性はちょっとごめんなさい、と言いながらケーブルの付いたエアホッケーのマレットのような物を取り出し、ゼリー状の物を塗って私の胸に乗せた。

ぬるぬるとした感触が微妙に気持ち悪い。私はこれが何なのかマンガで読んで知っていた。超音波による検査だ。もちろん、やられるのは初めてである。

 女性は私の胸の上で端末器を動かしながら、どこが痛みましたか?吐き気はありましたか?冷汗は出ました?と聞いてきた。

うーん、と唸った後に女性は胸から端末器を外し、べったりついたゼリーを拭きとり、どこかへ消えてしまった。

女性がいなくなった部屋は不気味な位静かで、ピッピッという信号音だけが鳴り響く。

 しばらくして、また戻ってきた女性は私が聞きたくなかった言葉を言った。


「ご家族に来ていただきたいのですが、どなたかご連絡つきますか」

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