第3話
私の乗ったタクシーが総合病院の正面玄関前に着いた。残り少ない手持ちを気にしながら支払いを済ませ、病院の玄関を進む。
好きな人は少ないと思うが、私は総合病院が嫌いだ。なによりその不気味な静けさを伴う雰囲気が嫌いだ。
けれども、さすがに入ってすぐの一階は外来があるので、私の嫌いな静けさとは対照的に喧騒に包まれている。
私は先ほど受診した開業医に渡された封筒の中に入っている、総合病院の受診の手続きを説明した紙を取り出した。
一階の地図に赤と黄色のマーカーペンで行く先がマークされている。まずは総合受付に向かった。そこは入ってすぐ左にあった。
三つほど窓口があり、それぞれ職員が対応している。しかし、私が行くと三つとも先客がいる。仕方ないので窓口の目の前にある長椅子に座って順番を待つ。
老女がなにやら職員にしつこく質問を繰り返して、一向に窓口が開かない。やれやれ、これじゃいつになる事やら、と思っていたら窓口の後ろで何かの仕事をしていた職員が私の存在に気づき、窓口の横にある扉を開けて声をかけてきた。
その職員のおかげですんなりと事が運び、二階にある循環器科へ行くように指示された。大きな吹き抜けにあるエスカレーターに乗って二階に上がると、すぐ目の前に循環器科の窓口があった。
小さな窓を通して受付をし、必要な書類に自分の名前などを書き込んだ。
循環器科の前は診察待ちの患者でいっぱいで、沢山あるのに椅子が空いていない。
仕方無く少し離れた場所にある長椅子に腰かけて順番を待つことにした。会社に思っていたより面倒な事になりそうだと連絡し、スマホを取り出して暇を潰していた。
少し間を開けて、職員が私の名前を呼んできた。離れた場所に座っていたので分かり辛かったのだろう。その職員の傍らには車いすがあった。
私は返事をして椅子から立ち上がり、職員の元に歩いて行くと、車椅子に座ってくださいと言う。
何がなんだか分からないまま指示通り車椅子に座ると、職員はゆっくりと車椅子を押し始めた。
「今から救急外来に行きますね」
職員は小声でそう私に告げた。
何故救急外来なのだろう。この時点でも私は何が起きているのか全く理解出来なかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます