第25話 衛星砲

 急襲において、真っ先に敵に喰われるのは警戒に当たっている歩哨だ。

 それは二十一世紀にも変わらない。

 音もなく、あらゆるレーダーに感知されないルナカーボンで構成されたiPoweredは、まさしく目に見えない死神の鎌だった。

 ブルーティアのレフトセンテンスが振われるたびに、クロックロイドが破壊される。命を持たないクロックロイドはブルーティアの敵ではなかった。

 ブルーティアが地面がこすれるようなぎりぎりの高さを飛翔。新たに現れたクロックロイドに肉迫した。

 レフトセンテンスを振う。

 上空で光学迷彩を展開して待機していたバレット級が、その姿を表した。その意図は明白だ。バレット級のビームキャノンを受ければ、iPoweredでも無傷とはいかない。

 ブルーティアは跳び上がり、バレット級とすれ違う。

 バレット級の機体に斜めに線が入り、横にスライド。爆発が発生する。

 その爆風を背に、ブルーティアは前に向かって飛んだ。

 正面にはバレット級が光学迷彩を解いて表れたばかりだ。

 その正面のバレット級に、重力に引かれながらクレセントムーンを振り下ろす。バレット級が縦一文字に割れ、爆発する。

 地上に着地したブルーティアは、着地地点を予測して集まったクロックロイドの集団をスレンダートで一掃した。

 上空で別のバレット級が爆発する音が聞こえたが、無視して進む。

 自分を狙う敵は全て、ビームに貫かれていたからだ。

 ――安心して背中を任せられるってのはいいもんだな。

 レッドローズの狙撃とイニティウムからの砲撃。

 このふたつがバレット級を着実に撃墜していく。

 スミーヴァに与えられた任務は、一言でいえば露払いだ。

 再度の攻撃を行うのに、障害となる敵を少しでも減らす。

 インタグルドは第一次ムーブメント攻略作戦の失敗で、少なくない損害を被った。本来ならば十分な作戦を立てて再度攻撃に移るべきだが、衛星砲の存在がそれを許さない。

 このままでは各国が降伏することになる。

 被害もどれほどになるかわからない。

 少しでも被害を抑え、世界が降伏する前に決着をつけなければいけない。


「露払いはしたな」

 ブルーティアは上空を見上げた。

 エアトゥース級が次々と光学迷彩を解き、姿を現している。戦術部のネフアタルが展開し、攻撃を開始。クロックロイドを上空から爆撃していく。

 ザ・クロック側も反撃しているが、その抵抗は薄い。追い詰められているという分析は正しかったようだ。

「衛星砲とグランドを始末すれば終わりだな」

 エアトゥース級は衛星砲を警戒し、再び光学迷彩を展開している。

 衛星砲に狙われる可能性は下がった。

 展開している戦術部が衛星砲で攻撃される危険もあるが、レッドローズが衛星砲を狙い撃つことになっている。

「スワーラ。衛星砲は見えたか?」

「発射する直前にならなければ、確認できないわね。静止軌道上で光学迷彩を展開されたら、発射するときにならなければわからないわ。一度発射したら、常に移動しているから厄介ね」

「用心深いぜ」

 普通ならば、静止軌道上で発射するときのみに姿を現す衛星砲を撃墜する手段はない。静止軌道上からの攻撃を想定していないからだ。

 だがザ・クロックは安全圏にいるはずの衛星砲を、大切に守ろうとしている。迎撃の可能性を考慮し、慎重に動いていた。

 厄介な相手だ。

 だが、本当に厄介なのはグランドだろう。

 ピンクガーベラを瞬時に殺したその実力は、優位に働いているこの戦局を容易く覆す。衛星砲を使い、単騎でインタグルドの小隊を殲滅できるのは証明されている。

 自分がグランドを仕留めなければ、被害は際限なく拡大する。

『インタグルド、陸戦隊、海兵隊に告げる。直ちに降伏せよ。従わない場合は、衛星砲を撃ち込む』

 ハッタリだ。もし撃ち込めば、この島が吹き飛ぶ。クロックロイドの生産拠点を失うリスクは計りしれない。師がそんな愚かな手を打つとは思えない。

『威力調節は可能だ。その証拠を見せよう』

 光学迷彩を解いているエアトゥース級3機が、光りに飲み込まれた。ビームに耐えきれなかった装甲は溶解し、燃料のセキレイ粒子が熱せられて爆発を起こす。

 撃墜された機体はムーブメントの外周を飛んでいたため、ビームは海上にも直撃。水蒸気爆発を起こす。

 エアトゥース級が衛星砲からの攻撃を警戒し、散開。しかし二度、ビームが降り注いで二機が撃墜され、水蒸気爆発が起きた。

 残った機体は光学迷彩をオンにしたので姿が見えないが、攻撃を行うには光学迷彩を解除しなければいけない。つまりエアトゥース級からの上空からの支援はなくなった。

「マジかよ……」

 ハッタリではなかった。二度目と三度目のビームの幅は一度目に比べて細かったことから、威力調節はほんとうのことだ。

『懸命な諸君はこう考えているのだろう。自分の本拠地に撃ち込むことはしない』

 ビームがムーブメントに降り注ぎ、爆発が起きた。

 戦況マップに切り替えれば、24ユニットの信号がロストしたと表示されている。

『これは警告だ。我々はロボット兵士が中心となっている。ロボット兵などいくらでも生産が出来る。使い捨てることになんの躊躇いもない。むしろ貴様らを一掃できるならば、焼き払うほうがよほど役に立つ。

 クロックロイドなど生産すればいいだけだ。だが、諸君らは違うだろう? 生き物の命は一度失われれば戻らない」

 通信機から味方のざわめきが聞こえる。

 グランドコンプリケーションは躊躇いがない。

 衛星砲を使い、遠慮なく地上の兵士たちを狙う。

 ブルーティアは対物ライフル弾が人道的な問題から国際条約で禁止されていると聞いて、馬鹿馬鹿しいと思ったことを思い出す。いまは人道的な問題から禁止するのが大事だと心から思う。

 衛星砲で人間を狙うなど、もしも普通に実用化されていたら国際条約違反になっただろうから。それだけ衛星砲のショックは大きかった。

『次の発射まで五分。考える時間はそれだけだ』


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