第18話 総攻撃
ムーブメントから北西に三キロ、上空数千メートルの位置。
そこにイニティウムが空中で光学迷彩を展開し、待機していた。
そのイニティウムのコクピットでブルーティアは、「迫力があるな」と感嘆の声を漏らした。
第一パトロール艦隊は複数の艦で構成されている。存在感が一番あるのは旗艦である『ひゅうが』だろう。排水量数万トンを越える巨大な空母で、多数の戦闘機や兵員輸送ヘリコプターを搭載している。その他には揚陸艇を格納した強襲揚陸艦やミサイル駆逐艦が複数。海中には潜水艦が付き従っている。
錚々たる布陣だ。
単純な戦力で言えば、インタグルドが勝る。戦えば大人が子供を一方的に殴るような大人げない結果に終わる。だが、第一パトロール艦隊の堂々たる布陣には確かな誇りが感じられた。
日本連邦海軍は第二次世界大戦で活躍した連合艦隊を基に、世界最強の米海軍を仮想敵として発展解消した。
その実力は世界で二番目とされる。
海軍の一位と二位の共演。しかもそれぞれが最強の艦隊といわれる第七艦隊と第一パトロール艦隊の共同作戦だ。
あふれ出すオーラのようなものは網膜投射装置越しにも伝わってくる。
だがザ・クロックも黙ってみてはいない。
本拠地であるムーブメントの地表に、クロックロイドを所狭しと配置していた。
上陸を開始すれば、あの無数のクロックロイドから迎撃のための攻撃を受ける。耐ビームコーティングを施されていても、あれだけの数から攻撃を受ければ限界値を超える。
第一パトロール艦隊と第七艦隊がわからないわけがない。
手始めに露払いの一斉射撃。
ミサイル艦や駆逐艦、発艦した戦闘機からミサイルや砲弾が放たれる。
凄まじい爆風がムーブメントに展開しているクロックロイドを次々と吹き飛ばし、無数の爆炎がムーブメントを焼いた。
両艦隊から数多の揚陸艇が強襲揚陸艦から発進。
揚陸艇は特に抵抗を受けることなく上陸に成功した。
『――陸戦隊は侵攻を開始せよ』
『――七十七陸戦中隊、上陸成功! たまった鬱憤を晴らさせてもらうぜ!』
『――クロックロイドが三時の方向から接近、数は五百以上!』
『――インタグルドの奴らばかりに美味しいところをもっていかせるな! 連邦海軍陸戦隊の底力を世界に見せつけろ!』
断続的な通信がヘルメットのなかに響いてきて、戦闘が開始されたことを実感する。
第一パトロール艦隊の通信は暗号化されているが、残念ながらインタグルドには意味がない。
「第一パトロール艦隊は俺たちへの対抗意識が強いみたいだな」
「彼らからすれば、得体の知れない私設武装組織にお株を持っていかれているのだから無理はないわね。私たちが活躍して人々を救うほど、人々は不甲斐ない自国の軍隊を非難するわ。国民を守るための軍隊なのに、役に立たなければ叩かれるのは仕方のないことだけど。彼らとしては鬱憤がたまっているんでしょうね」
「装備の差だから仕方ないが――まあ、役立たずと叩きたくなる気持ちもわからなくはないな」
もし自分がインタグルドにいなければ、雫を守れなかった怒りを日本連邦軍にぶつけていたかもしれない。理性では仕方ないとわかっていても、理性で感情をコントロールできれば世界はもっと平和なはずだ。
「スミーヴァ、出撃よっ」
レッドローズの指示に従い、飛びだした。
今回はフリーグドに乗っての出撃だ。長時間の作戦が予想され、セキレイ粒子の消耗を抑えたほうが良いと判断されたからだ。
フリーグドは乗り慣れないから扱いづらいが、訓練する時間もなかったから仕方がない。
『――こちら七十二陸戦中隊! 伏兵、それも大部隊だ! 対処できない! 支援砲撃を要請する!』
『――こちらHQ、伏兵と距離を開けろ。いま支援砲撃を行えば巻き込まれる可能性が高い』
『――下がれない! このままでは全滅だ!』
――出番だな。
「こちらブルーティア。日本連邦軍を援護する」
伏兵として襲いかかるクロックロイドに向けて、クレセントムーンとレフトセンテンスをライフルモードにチェンジ。ビームを次々に発射する。
高速移動するクロックイドの本体を正確に撃ち抜く。
「おわっ」
ブルーティアは驚きの声を上げながら、後ろにスライドする。
クロックロイドが地面から飛び出し、攻撃してくる。ここは敵の本拠地だ。襲いかかってきたクロックロイドをレフトセンテンスで撃ち抜く。
「――しっくりこないな」
ブルーティアはヘルメットの下でぼそりと呟いた。
慣れないフリーグドに乗りながらの射撃は違和感が付きまとう。
レフトセンテンスを投げた。iPoweredのパワーを活かして投げられた刀は、複数のクロックロイドを貫き、爆散した。爆風で吹き飛ばされたレフトセンテンスのところに行き、フリーグドから飛び降りた。
レフトセンテンスを引き抜きながら振るう。
数体のクロックロイドの胴体が空中に舞った。
レフトセンテンスとレフトセンテンスで、目に付いたクロックロイドを斬り伏せていく。
「飛鷹。ポイントA3に向かいなさい」
「了解」
レッドローズの指示に従い、ブルティアはフリーグドに飛び乗った。ポイントA3に向かう。
フリーグドはイニティウムほどではないが、時速数百キロは出る。
ブルーティアはフリーグドから飛びだした。
真下にはザ・クロックの指揮官がいた。
周りには複数のクロックロイドが囲んでいたが――関係はない。
クレセントムーンを握った右手を天に向かって伸ばし、左手を添える。薬丸自顕流の構えのひとつである、一の太刀だ。
敵への不意打ちを卑怯とは思わない。油断したものが悪い。戦場に卑怯も糞もない。そう自分を納得させて、敵の指揮官の頭上目掛けて一気にクレセントムーンを振り下ろす。
敵指揮官が真っ二つに両断され、血飛沫が舞った。
ブルーティアは血飛沫を浴びながら、レフトセンテンスを投げた。iPoweredのパワーを活かして投げられた刀は、複数のクロックロイドを貫き、爆散した。
「切り裂け、スレンダート!」
ブルーティアは飛び退きながら叫ぶ。マントの下のナイフが宙を舞い、クロックロイドを破壊していく。破壊されたクロックロイドが爆発し、ブルーティアの返り血を吹き飛ばす。
ブルーティアは地面に突き刺さったレフトセンテンスを拾い、レフトセンテンスを引き抜きながら振るう。
数体のクロックロイドの胴体が空中に舞った。
レフトセンテンスとレフトセンテンスで、目に付いたクロックロイドを斬り伏せていく。
クロックロイドが距離を取ろうと後退するが――遅い!
後退するクロックロイドに迫り、愛刀を振るう。
後退するクロックロイドに迫り、レフトセンテンスを振るう。一体も逃がすつもりはない、視界に入ったクロックロイドは全て殲滅する。
『こちらレッドローズ。指揮官をひとり撃破したわ』
さすがは仕事が早い。これで残るは三人。
『ポイントG8に指揮官を確認しました』
「了解した。ポイントG8に向かう」
ブルーティアはポイントG8に向かって飛んだ。
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