第13話 スワーラの戦う理由
総司令官の執務室を出てから数分後。
飛鷹はぽつりと呟いた。
「強引にインタグルドに入れられたんだな」
「ええ、選択権はなかったわ」
「だが総司令は尊敬している。悪い人ではないんだろうな」
「ええ。それは保障するわ。ウッグラ家は滅びても構わないけど、彼だけは殺したくはないわね」
物静かなスワーラがここまで憎しみを募らせるとは、スワーラの親というかウッグラ家はどれだけ酷いことをしたのだろうか?
「あなたにだけは話すけど、私を育ててくれた祖父母が人質に取られているのよ。優秀なスナイパーである私をウッグラ家は戦力として使いたい。あなたが抜けたあとにインタグルドに残っていた理由よ」
「いきなり重いねえ。と言うか話していいのか?」
「戦友だから話したのよ。みんなには内緒よ」
ふたりだけの秘密か。スワーラみたいな美人とのあいだに、ふたりだけの秘密があるのはドキドキする。内容がもっと明るいものだったらの話だが。
場が重くなったので、なにか話題がないかと飛鷹は考えた。
「あんたはサーミ人だったな」
「ええ、そうよ」
サーミはスカンジナヴィア・バルト及びロシアに住む先住民だ。スワーラの国籍はスカンジナヴィアと言っていたから、スカンジナヴィアに住んでいるほうのサーミ人だろう。
いつだったか、ロシア人のコスプレイヤーの写真を見たことがある。大勢のロシア人がコスプレをしていて、日本のアニメや漫画がかなり人気なのが窺え た。
そのロシアに最も近いのがフィンランド州だ。
スカンジナヴィア・バルト王国連邦は十の州で構成されている。グリーンランド州、アイスランド州、ノルウェー州、フェロー諸島州、スウェーデン州、オーランド諸島州、デンマーク州、リトアニア州、ラトニア州、エストニア州、フィンランド州。
「あんたの祖父母は日本の漫画とかを読むのか?」
「読まないわ。でも漫画を読んだりアニメを見ることを怒ったりはしなかったわね」
「なるほどなるほど」
「なにを納得したのかしら?」
「いや、フィンランド州はオタクが多いと聞いたことがあってさ。あんたの祖父母がオタクでなかったとしても、周りにいっぱいいれば拒否反応はそう起こらないだろう?」
「そういうことね。納得したわ」
スワーラは頷き、
「祖父母に駄目だと言われたら、気軽に楽しめなかったでしょうね。これは驚きだわ」
「俺だから気づいたんだぜ?」
「否定はしないわ」
「そう言ってもらえると光栄だ」
飛鷹は笑った。
雫が死んだばかりなのに、笑っていいのか。わからない。
だがなんとなく笑いたくなった。
久々にインタグルド本部に来て、少し気が紛れたのか。
あるいは別の理由があるのだろうか?
どうでもいいか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます